「言いたくない? でも、私にはわかるよ。君が雫さんのこと好きだってことくらい。あのね、だったらさ、君、さっさと雫さんとくっついてくれない?」
「えっ?!」
さっきからずっと驚いてばっかりで、なんだか頼りなさそう。
「あの人、フラフラしてて困ってるの」
「フラフラって……?」
「東堂 慧さん。慧さんのこと、希良君も知ってるんだよね? 彼、雫さんに告白したんだよ」
しかも、私の目の前で……
「東堂さん、告白したんですか?」
またびっくりした顔して、ほんと、忙しい人。
「結果、知りたい?」
私が言ったら、
「……いえ。別に知りたくないです」
って、希良君は下を向いた。
「私ね、慧さんが好きなの。それなのに、慧さんが雫さんに告白したとこ見ちゃったわけ」
「そ、そんな……」
「ずっと大好きだったから、ショックで仕方なかったよ。雫さん、ハッキリ返事しないんだもん。何だかズルくない? だから、慧さんもどうすればいいかわからないままで……」
結局、結果を言っちゃった。
いいよね、本当のことなんだし。
「あの人は、慧さんの気持ちを振り回して、弄んでるだけだよ。慧さんの心……独り占めしたいから」
本当に、ズルい人。
そんなに男にモテたいの?
「そ、そんなことないです! 雫さんは……そんな人じゃない」
「どうしてわかるの? 君だって弄ばれてるんじゃないの?」
顔色、ちょっと変わった?
「果穂さんの気持ちはわかります。東堂さんを好きだったのに、でも東堂さんは雫さんが好きって……つらいですよね」
何それ? って思った。
「あの人は、榊社長にも媚び売って、君とも仲良くして、慧さんとも。なんか見ててすごくイライラするんだよね。だから希良君、お願いだから早く雫さんと付き合っちゃってよ。付き合って……あの人のこと縛り付けてて。他の男に行かないように」
「どうしてそんな言い方するんですか? 雫さんは媚びを売ってなんかいませんよ。悪く言うのは止めて下さい。あの人は……ただ、みんなに優しいだけなんです」
希良君はムキになって言った。
「私、あの切ない慧さんの顔を二度と見たくないの。頭から離れないんだよ、あの時の悲しそうな顔が。早くもとの慧さんに戻ってほしいの」
涙が出てくる。
私の大好きな慧さんの笑顔、雫さんのせいで消えちゃったんだよ。
こんなの絶対嫌だよ、許せないよ。
「あの人は……雫さんは今、ちゃんといろいろ考えてるんですよ」
考えてる? 何を考えてるっていうのよ。
「恋愛って、そんな簡単じゃないと思います。一目惚れとかして自分に素直に生きてる人とか……人を好きになるのが当たり前にできる人もいれば、反対に、いろいろ過去のことを抱えてたり、元々恋愛が苦手だったりで、簡単じゃない人もいるんじゃないですか? みんなそれぞれに悩んで苦しんでる」
「なんなのよ、そんなの、ただフラフラしてるだけじゃない」
そうだよ、好きか嫌いか、自分の気持ちにはっきり答え出せばいいだけだよ。
「今、雫さんは必死で僕や東堂さんのために答えを探してくれてるんです。本当なら急ぐ必要なんてないのに、周りが答えを求めようとするから」
もう……私、頭がぐちゃぐちゃ。
「果穂さんは僕と一緒です。好きな人に振り向いてもらえないけど、大好きだから絶対に諦められない」
希良君……
「僕は……今は待ちます。たまに『杏』で雫さんに会えて、その笑顔を見られたらそれでいいです。雫さんはパン教室のことで忙しいし、見守っていたいと思ってます」
そんな……
「わ、私は待てない。慧さんが好き過ぎて、もう、どうにかなっちゃいそうだよ」
「わかりますよ。僕だって本当は……」
希良君は、それ以上言わなかった。
可愛い顔がどんどん切なげな表情になってく。
みんなを苦しめる雫さんのこと、やっぱり私は大嫌い。
雫さんより……私の方が絶対可愛い。
だから、いつか必ず慧さんは、あの人じゃなくて私を選んでくれる。
そう信じてるから……
だから絶対に、慧さんのことは諦めない。
私は希良君と別れて、うるさい友達が待つ、行きたくもないカフェへと向かった。
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