テラーノベル
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部屋を飛び出したレイニルは、廊下でヘリオスと正面からぶつかってしまった。
「わっ……レイニルちゃん!?」
ヘリオスは様子を見に行ったというよりは、何か気になって部屋の前まで来ていた。
レイニルは顔を伏せたままで表情は分からないが、小さな肩を震わせて確実に泣いていると分かる。
それを見たヘリオスは、作戦が上手くいったという喜びは一切感じずに、ただ胸を突き刺す痛みに戸惑う。
レイニルはヘリオスから離れると、そのまま廊下を駆け出して外に向かうようだった。
「レイニルちゃん、待て!! 外は……!」
背中から聞こえてくるヘリオスの制止も聞かずに、レイニルは宿の外へと出て行く。
外は夜の暗闇で景色はほとんど見えないが、頭上に激しいシャワーが打ち付けられてレイニルの足が止まる。
(え? 雨……?)
それも、すぐに全身が濡れて前髪や長いブロンドの髪から水が滴るほどの大雨。
レイニルの頬に伝っていた涙さえ雨と一緒に流れて消えてしまう。しかしこの大雨は『恵みの雨』なんかではない。
(なんで降るの……やめて、やめて……)
あんなに雨が降ってほしいと願っていたのに、今は残酷な雨にしか思えない。
雨が降ったことで、契約の勝負はレイニルの勝ちとなる。これでシャインと離婚せずに夫婦でいられる。本来はそれを喜ぶべきだった。
(シャインは、お姉様と……)
温泉でレイニルを抱いた直後にベッドでローサを抱く行為が理解できない。貴族とは、王族とは、そういうものなのかと理解しようとしても追いつかない。
やっぱり契約結婚もシャインにとっては遊びだった。こんなに辛く悲しい思いをするなら、雨が降らずに正当な理由で離婚する方が良かった。
それに、サンディ国が水で満たされてしまえば、水を輸出している故郷のアメリア国の商売が成り立たなくなる。
レイニルは自分が悲しむ事よりも、ローサにも家族にも母国にも迷惑をかけたくないと思う。
(やっぱり私は、ここにいるべきではない……)
これ以上、愛されない雨女として生きるのは辛い。
最初から間違っていたのだと、レイニルは自分の存在価値がサンディ国にはない事を痛感させられた。
その時、誰かがレイニルの肩を正面から抱いた。放心状態で、涙か雨か分からないほどに濡れた瞳では視界が霞んで、それが誰だか認識できない。
(シャイン……?)
その淡い期待も虚しく、レイニルの前に立つのはシャインにそっくりな……弟のヘリオスだった。
ヘリオスも傘も差さずに全身を濡らしているが、気にもせずにレイニルを気遣っている。
「レイニルちゃん……」
「ヘリオス様、私……もうシャインを愛せない」
ヘリオスが何かを言う前に、レイニルは作り笑いをして声を振り絞った。その哀しい笑顔と力のない眼差しがヘリオスの心を突き刺す。
レイニルを絶望させて、その喪失感を突いて口説こうとする自分の醜さに、今になって嫌気がさす。
シャインを愛せないなら、オレを愛せと……そんな口説き文句すら声に出せない。
「あ、えっと……兄貴は酒癖が悪ぃから……」
自分が強い酒を飲ませて酔わせたくせに、ヘリオスはなぜか言い訳のようにシャインをフォローする。
レイニルにとっては、シャインが酒の勢いで一方的にローサに迫ったのだとしても納得できない。ローサとヘリオスは両思いの婚約者だと思い込んでいるのだから。
「ヘリオス様はローサお姉様を愛してあげてくださいね」
こんな時でも他人を気遣って笑顔を作るレイニルを見てヘリオスは理解した。シャインは純粋にレイニルの澄んだ心に惹かれたのだと。
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コメント
1件
うわ、この展開……胸が痛すぎるよ🥀 雨が降って勝ったのに、それが一番辛い終わり方になるなんて。レイニルの「もうシャインを愛せない」って言葉、すごく重かった。ヘリオスも自分の計画に罪悪感感じてて、複雑すぎる。続きが気になる……!