テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第97話 〚壊させないもの〛(海翔視点)
最近、澪の歩き方が変わった。
海翔はそれに、誰よりも先に気づいていた。
前は、少しだけ足取りが軽くて、
それでいて周囲を気にしながら歩いていた。
今は違う。
軽いまま、迷いがない。
(……ああ)
それだけで、分かってしまう。
澪は、もう「逃げていない」。
昼休み。
教室の窓際で、澪がノートを見ている。
話しかけようと思えば、いつでも行ける距離。
でも、海翔はすぐには声をかけなかった。
——信じているから。
澪が、自分で立っていることを。
ふと、視線を感じて顔を上げると、
廊下の向こうに恒一がいた。
こちらを見ている。
いや、正確には——
澪を見ている。
海翔は、自然に一歩前へ出た。
澪を隠すわけでも、威嚇するわけでもない。
ただ、“間に立つ”。
その瞬間、恒一の視線が、わずかに揺れた。
(……届かない)
海翔には、それがはっきり分かった。
恒一は近づいているつもりで、
実際には、触れられていない。
澪の心に。
放課後。
一緒に校舎を出るとき、澪がぽつりと言った。
「……ねえ、海翔」
「なに?」
「最近さ、怖いのに……戻りたいって思わないんだ」
その言葉に、海翔は立ち止まった。
怖いのに、戻らない。
それは、誰かに引き戻されていない証拠。
「それはさ」
海翔は、少し考えてから答えた。
「澪が、ちゃんと選んでるってことだろ」
澪は驚いたように目を瞬かせて、
それから、小さく笑った。
その笑顔を見た瞬間、
海翔の中で、何かが“決まった”。
(……壊させない)
澪が作った、この距離。
澪が自分で選んだ、この立ち位置。
誰かの思惑で、
誰かの都合で、
壊されるものじゃない。
守る、じゃない。
信じる。
澪が、自分で立ち続けることを。
そして、自分は——
その横にいることを。
帰り道、背後から聞こえる足音に、
海翔は振り返らなかった。
追ってこない。
近づいてもこない。
恒一は、まだ“待つ側”にいる。
でも、海翔はもう知っている。
この壁は、
外から壊すものじゃない。
澪が自分で選び、
澪が自分で保っているものだ。
だからこそ。
(……絶対に、壊させない)
それは誓いじゃない。
宣言でもない。
ただの、確信だった。