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#ファンタジー
10月28日。
洛北祥雲学園の文化祭は華々しくその幕を開けた。
普段は静寂に包まれているこのエリート校が年に一度だけその熱を解放する日。
校舎は生徒たちの手による色とりどりの装飾で彩られ中庭には模擬店の美味しそうな匂いが立ち込める。
その喧騒を俺はどこか遠い世界の出来事のように眺めていた。
10月29日。
俺たち二年四組の演劇『ハムレット』の本番は二日目。
つまり今日だ。
本番当日の朝。演劇会場である講堂。
そこは最後の準備に追われる生徒たちの熱気で満ちていた。
俺は舞台技術の責任者として、舞台袖で最終チェックを行っていた。
全てが完璧だった。最高の舞台になる。その確信があった。
その時だった。
久条亜里沙が静かに、俺の元へとやってきた。
その顔には、完璧な女神の笑みが浮かんでいる。
「音無くん。本番前に少しだけ、確認したいことがあるの。少しだけ外の空気を吸わない?」
その有無を言わさぬ口調。
俺は無言で、彼女の後に続いた。
俺たちが向かったのは講堂の裏口だった。
薄暗く埃っぽい空間。
舞台の喧騒が、嘘のように静まり返っている。
久条は俺に一つのファイルを差し出した。
「あなたへの贈り物よ。あなたの出自の裏側を見せてあげるわ。受け取って」
俺はそのファイルを開いた。
そこに記されていたのは白蓮会による調査報告書。
俺の奨学金入学に関する真実。
俺の父の名前。「音無 智明」
学園との間で交わされた「特別待遇」と「守秘義務契約」の文字。
俺が全く知らなかった事実。
奏:「なんだこれは。ミラー分析しろ」
ミラー:「読んだままだ。お前の奨学金は純粋な能力評価ではなかったということだ。お前の父親と学園との間に、何らかの裏取引があったことを示唆している」
俺の思考は、完全に停止した。
久条はそんな俺の姿を満足げに眺めながら言った。
その声は蜂蜜のように甘くそして毒のように冷たい。
「あなたのお父様、素晴らしい方なのね。あなたのために学園に大きな『貢献』をされたとか」
「あなたの名門洛北祥雲学園の生徒という今の立場、全てはこの『密約』のおかげというわけね」
俺は何も言い返せなかった。
俺がこれまで信じてきたもの。
俺が唯一、誇りに思っていたもの。
超名門高校の特待生という立場。
その全てが、今この瞬間に偽物になった。
久条は立ち上がる。
「さあそろそろ、本番の時間よ。最高の舞台にしましょうね。演出家さん」
彼女はそう言うと、俺を一人残し舞台袖へと戻っていった。
俺はただその場に立ち尽くすことしかできなかった。
もうすぐショーが始まるというのに。
俺の頭の中は、完全に真っ白だった。
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