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#ミニ知識
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猫太宰です。発情期あります。えっちします。ニッコリ
ヨコハマの夜霧が窓の外を白く染める中、ポートマフィアの最上階に近い一室で、中也は酒を飲む手をとめて絶句していた。目の前に座る男は、数分前まで確かに、いつもの癪に障る皮肉を並べる太宰治だったはずだ。
「……おい、太宰。お前、その頭……」
中也の指が、震えながら太宰の頭頂部を指す。そこには、普段の緩いウェーブがかかった茶髪を割るように、黒い、産毛の生え揃った猫耳が対になって生えていた。さらに、太宰が狼狽して立ち上がると、コートの裾を跳ね除けて、しなやかな黒い尻尾が一本、床を叩くように激しく振られた。
「……何だい、中也。そんなに間抜けな顔をして。私の顔に何かついているのかい?」
太宰は当初、自分の異変に気づいていない様子だった。だが、中也のあまりに真剣な、そして引き攣った表情に違和感を覚えたのか、おそるおそる自分の頭に手を伸ばした。指先が、自分のものとは違う感触――熱を持ってピクピクと動く獣の器官――に触れた瞬間、太宰の顔面は蒼白になった。
「にゃ……っ、いや、なんだこれは……!? 鏡、鏡を持ってきてくれ中也! 私の身体が、何か得体の知れない事態に陥っている!」
太宰は混乱し、自分の耳を掴もうとして空を掻いた。耳は彼の意思とは無関係に、不快な刺激を避けるように後方へ伏せられる。さらに、彼が口を開くたび、唇の隙間から覗く犬歯が異常に鋭く、光を反射して白く輝いているのが見えた。
中也は驚きを通り越し、腹の底から込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった。この、常に自分を出し抜き、高みの見物を決め込んでいる宿敵が、あろうことか猫のような姿に成り果てている。
「随分と可愛くなっちまったじゃねぇか、なぁ太宰? 普段の『猫を被った』態度が、ついに外側まで染み出してきたのか?」
「笑い事じゃない! これは明らかに、先日調査した異能力者の残留思念の類だ……っ。くそ、忌々しい、触れるな中也!」
中也の手が、好奇心に抗えず太宰の猫耳の付け根へと伸びる。太宰は威嚇するように牙を剥いたが、中也の指先が耳の裏の柔らかい部分を愛撫するように掻いた瞬間、太宰の全身から力が抜けた。
「……っ、ふ、あ…………」
喉の奥から、ゴロゴロとした、獣特有の低い鳴き声が漏れる。太宰は膝から崩れ落ちるのを堪えるように、中也の腕を掴んだ。中也に触れられている場所から、脳髄を痺れさせるような暴力的な快感が広がり、彼の冷徹な思考を麻痺させていく。
「お、随分と懐っこい猫じゃねぇか。牙まで生やして、俺を噛むつもりか?」
「……噛んで、やる……っ。離せ、その汚い手で私を……ゴロ、ゴロ……っ、くそ、止まれ、止まってくれ……!」
太宰の意思とは裏腹に、喉は喜びを表現し続け、尻尾は中也の脚に絡みつこうと甘えるように動く。中也はその光景を、サディスティックな愉悦に満ちた瞳で見下ろした。
「お前、そんなに気持ちいいのか? ……なぁ、太宰。腹減ってるんだろ。キャットフードでも買ってきてやろうか? ちょうど下がコンビニだぜ」
「……いらないよ! 私は人間だ、そんな屈辱的な提案をするなんて、君の脳みそは本当に重力で潰れているんじゃないかい……っ!」
太宰は精一杯の毒を吐いたが、その顔は赤く染まり、瞳は潤んでいた。 事態が悪化したのは、それから一時間ほどが経過した頃だった。 中也はソファで太宰の変化を観察していたが、次第に太宰の様子が「混乱」から「熱病」のようなものへと変貌していくのに気づいた。
太宰は、ベッドの上で丸くなることもできず、もどかしそうにシーツを掴んで身悶えしていた。着ていたコートやシャツを、まるで肌に触れることさえ苦痛であるかのように脱ぎ捨て、半裸の状態で肩を震わせている。
「……おい、太宰。顔が真っ赤だぞ。体調でも悪いのか?」
「……あつ、い……。中也、……何かが、おかしいんだ……」
太宰の声は、湿り気を帯びて震えていた。猫耳は力なく横に倒れ、尻尾は激しく揺れ動いている。中也がベッドに近づくと、太宰は吸い寄せられるように自分から中也に縋り付いてきた。その肌は、触れた場所が火傷しそうなほど熱い。
「っ……あ……中也、……触れて……もっと、強く……」
太宰の瞳は、もはや理性の光を失い、焦点が合っていない。瞳孔が大きく開き、ただ本能のままに中也の体温を求めている。その仕草は、完全に「発情期」のそれだった。猫化の影響は、生殖本能にまで深く食い込み、二十二歳の知性あふれる男を、ただの欲情する獣へと堕としていた。
中也は、太宰の腰を掴み、自分に押し付けた。太宰は喉を鳴らし、中也の首筋に顔を埋めて、熱い吐息を吹きかける。
「……お前、自分が今、どんな顔して誘ってるか分かってんのか。……クソ、これは俺のせいじゃねぇからな」
中也は太宰をベッドに押し倒すと、自身の衣服も乱暴に脱ぎ捨てた。 太宰は、待っていたと言わぬばかりに脚を広げ、中也を迎え入れる。猫耳が激しくピクピクと動き、快楽への予感に全身が震えていた。
中也は太宰の最深部へと、溜まっていた欲望をぶつけるように深く沈み込んだ。
「っ、あ……あああああぁぁぁ!!」
太宰の叫びが部屋に響く。 内側を強引に蹂躙される衝撃。だが、それは苦痛ではなく、頭蓋の裏側を直接叩くような、破壊的な多幸感を伴っていた。太宰の指先は中也の背中に食い込み、鋭い牙は中也の肩に深く突き立てられた。
「は、ぁ……っ、中也、中也……っ!」
中也は、太宰の最も敏感な場所を、逃さず、執拗に突き上げ続けた。 太宰の脳内では、もはや言葉にならない信号が火花を散らしている。猫耳は快楽の極地で後ろに反り返り、尻尾は中也の腰を締め上げるように強く巻き付いた。
中也は重力操作を無意識に、けれど精緻に発動させていた。太宰の脳内を巡る血流に、快楽を増幅させるような微かな圧を加える。
「あ……が、っ、あ、あああああ!!」
太宰の視界は真っ白になり、すべての思考が吹き飛んだ。 それは、肉体的な絶頂を遥かに超えた「脳イき」の状態だった。自分を貫く中也の熱が、自分の脳髄までをも支配し、塗りつぶしていく。太宰は口を大きく開け、酸素を求める魚のように喘ぎながら、意識を快楽の深淵へと投げ出した。
中也もまた、太宰の内部から伝わる強烈な痙攣と締め付けに、自らの理性を完全に手放した。 二人の咆哮が重なり合い、絶頂の瞬間、世界が爆発したかのような錯覚に陥る。
どれほどの時間が過ぎただろうか。 荒い息だけが部屋に満ちる中、中也は太宰の上に倒れ込んでいた。 ふと、視界に異様な変化が映る。
「……あ?」
中也が声を上げると同時に、太宰もまた、自分の身体の異変に気づいた。 中也の胸元に触れていたはずの猫耳が、跡形もなく消え失せていた。さらに、自分の腰に絡みついていた尻尾も、霧のように霧散している。鋭かった牙も元通りになり、太宰の身体は、完全に「二十二歳の人間」としての姿に戻っていた。
「……治った、のか?」
「……の、ようだね……。全く、酷い目にあったよ……」
太宰は掠れた声で答え、精根尽き果てたように枕に顔を沈めた。 完治した理由は不明だ。性的な刺激によるショック療法だったのか、あるいは異能力の期限が切れたのか。どちらにせよ、彼はいつもの太宰治に戻っていた。
だが、部屋の静寂の中で、太宰は中也の腕の中から抜け出そうとはしなかった。 脳裏に焼き付いた、あの異常なまでの快楽の記憶。自分を塗りつぶした中也の熱。それは、異能力が解けた後も、呪いのように太宰の意識の底に刻み込まれている。
「……中也。今夜のことは、墓場まで持っていく義務が君にはあるよ」
「……分かってるよ。だが、……お前のあの『ゴロゴロ』鳴いてた声、俺は一生忘れねぇぞ」
中也は不敵に笑い、太宰の額に軽く唇を寄せた。 太宰は忌々しげに目を逸らしたが、その頬は微かに赤らんでいた。
二人は、乱れたシーツの上で、再び深い眠りへと落ちていく。 ヨコハマの夜が明ければ、二人はまた敵対する組織の人間として向き合う。だが、この夜、脳の奥深くで共有した絶対的な熱量だけは、二人の間に消えない絆――あるいは、逃れられない呪縛――として、永遠に残るのだ。
太宰は、中也の腕の中で、今度は人間としての幸福な溜息を吐き、静かに目を閉じた。
翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日が、荒れた部屋を容赦なく照らし出した。 中也は、隣でまだ眠りについている太宰を眺めていた。耳も尻尾もない。けれど、昨夜の狂乱の感触が、中也の掌に、腰に、そして脳の裏側に、嫌というほど生々しく残っている。
太宰が微かに身じろぎをし、目を開けた。そこには、いつもの底知れない虚無と知性が混ざり合った、太宰治の瞳があった。
「……まだいたのかい、中也」
「俺の部屋だっつの。……お前、身体はもう平気なのか」
太宰はゆっくりと起き上がり、自分の身体を確認するように手足を確認した。異能の気配はない。ただ、腰の辺りに残る鈍い痛みと、首筋に刻まれた鮮明な痕跡だけが、昨夜の出来事が現実であったことを物語っている。
「……ああ、完全に元通りだ。……ただ、少しだけ、残念な気もするね」
「あ?」
太宰は不敵に笑い、中也の首筋に指をかけた。
「君が、あんなに必死に『猫』を愛でる姿なんて、もう二度と見られないかもしれないからね」
「……っ、この野郎……!」
中也は太宰の胸ぐらを掴んだが、太宰はそれを楽しげにいなした。 たとえ猫耳が消えても、太宰は太宰だ。けれど、この朝を境に、二人の距離は、以前とは決定的に違うものになっていた。
中也は、立ち去ろうとする太宰の手首を掴んだ。
「太宰。……次、もしまたああなったら。……いや、なってなくても、……また来い」
太宰は一瞬だけ、その目を大きく見開いた。そして、吸い付くような笑みを浮かべる。
「……考えておくよ、中也」
その答えに、中也は満足げに鼻を鳴らした。 猫化という「御都合主義」が招いた一夜だったが、それは二人の深淵に、新たな、そして消えることのない火を灯した。
太宰はコートを羽織り、いつものように軽やかな足取りで部屋を後にした。 残された中也は、まだ太宰の残り香が漂うシーツの上に身を投げ出し、自分もまた、あの脳が痺れるような快楽の余韻に、静かに浸り続けるのだった。