「あ、なんか近いな。」
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それでは、二人の物語を、お楽しみください。
第20話:『なんで、今ここで会うねん。』
土曜日の夕方。
コンビニの袋をぶら下げて、駅前の道を歩いてた。
空はうっすら茜色で、蝉の声が遠くに響いてる。
今日は誰とも会わんはずやった。
ゆっくり考える時間にしようって思ってた。
…せやのに。
角を曲がった瞬間、
人影が目の前に現れた。
一瞬、心臓が止まった気がした。
「……樹?」
振り返ったその顔は、
忘れようとしても忘れられへん、
ずっと心に居座ってた笑顔の主やった。
樹も、驚いたように目を見開く。
「光輝……なんで、こんなとこで。」
「……そっちこそ。、 」
ほんの短い沈黙。
その間に、胸の奥がざわざわしてくる。
離れてた日々の静けさが、一気に破られた。
声を聞いただけで、心があたたかくなるのが分かる。
(……あかん。またこうして会ったら。)
近づいたら、また苦しくなるって分かってるのに。
それでも、目を逸らせへんかった。
「久しぶりやな。 」
「……あぁ。」
他愛もない言葉。
でも、ずっと言いたかった言葉。
樹がコンビニの袋を揚げて、笑う。
「アイス買いにきてん。光輝は? 」
「俺も。……たまたま。」
また沈黙。
けど、その沈黙が、前よりも少し優しく感じた。
風が吹いて、夕暮れの光が2人を包む。
離れてた時間が、少しずつ埋まっていく気がした。
「……元気してた?」
「うん。まぁ……ぼちぼち。」
樹の声が、胸の奥に沁みる。
(やっぱり、俺……この声が好きなんや。)
喉の奥が熱くなって、
言葉がうまく出てこない。
気づけば、樹が微笑んでた。
「なんや、ちょっと大人なった顔してるやん。」
「そっちこそ。」
ふたりで、少しだけ笑い合う。
短い会話、それだけの再会。
けど、その一瞬で、
俺の心は、また強く揺れた。
「なんで、今ここで会うねん……
もう、忘れられへんやんか。」
心で、そっと呟いた。
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