ハウレス 人形遊び
主の担当執事として主の遊び相手をしていたボスキは、正直辛くなってきていた。
お絵かきやボール遊びならまだ良い。
でも、人形遊びは勘弁してほしい。
トリコにロボットさん人形を持たされ、ウサギのぬいぐるみとおしゃべりし続けて30分は経っただろうか。
そろそろボスキの表情筋と忍耐力は限界を迎えそうだ。
「こうなったら・・・おい!ハウレス!!ハウレス!!代わってくれ!!」
藁にもすがる思いでベルを鳴らして、妹が居たというハウレスを呼びつけた。
「何だ、俺は暇じゃないんだが・・・」
ハウレスが部屋に来ると、ボスキはロボットさん人形をハウレスに押し付けトリコの前に座らせた。
「茶と菓子持ってきてやるから、後は頼む」
「は!?ボスキ!?」
ボスキはハウレスに遊び相手を任せて部屋から逃げ出してしまった。
「はぁ、まったく・・・」
『ぼしゅき・・・』
「ボスキには困らされてばかりですね、主様」
『ねぇ〜』
トリコはボスキが急に居なくなってしまったことに驚いたようだが、ハウレスが代わりに遊んでくれると分かると嬉しそうに人形遊びを再開した。
おままごとセットから茶器を取り出し、ロボットさん人形とウサギのぬいぐるみに飲ませるフリをする。
『ろぉっとさ、おいし?』
「〈うん、おいしいよ!トリコちゃんありがとう!〉」
ハウレスは全力で可愛い声を作り、人形に声当てをする。
トリコはぱぁっと笑顔になり、ケーキやクッキーも食べさせる。
『おいし?』
「〈とってもおいしいよ!〉」
「ぶっ・・・
ハウレス、ここに置いとくからな」
「!?ボスキ、いつの間に・・・」
何時ものハウレスからは考えられないほど可愛い声で声当てしているのを見て吹き出したボスキは、雷が落ちる前にお茶を置いて退散した。
ハウレスは真っ赤になって人形で顔を覆ってしまった。
『はうぇす・・・?』
「・・・スーー、ハーーー・・・
大丈夫です。主様、俺達もお茶を飲みませんか?」
『もむ〜』
「もっ・・・ふふっ」
ハウレスはまだまだ発音が上手くならないトリコの言い間違いに笑いつつ、お茶の準備を整えた。
「はい、主様良いですか?
せ〜の、いただきます」
『いたぁきましゅ』
小さめのカップをトリコの小さな手に持たせて、自分で飲む練習をさせる。
「ここをしっかり持ってくださいね」
『あい』
ベリアンとミヤジが食事の間付きっきりで教えた甲斐あって、トリコはいくらか食器の使い方を覚えてきている。
しかし、まだまだ上手に使えないので執事たちはトリコが飲食するときは必ず側に付くようにしている。
ハウレスに見守られながら、トリコは温めのミルクティーを美味しそうにゴクゴクと飲み干した。
『ぷはぁ〜、うまぁい!!』
「ぶっっ!何処で覚えたんですか!?」
零さずに飲めたことを褒めようと思った矢先、トリコの口から予想外の言葉が飛び出してハウレスは吹き出した。
『?』
「さ、さっきの・・・うまぁいってやつは、誰が言っていたんですか?」
『えとね〜、べりあ!』
「ベリアンさんが!?」
『ん。・・・あ!かしゅがね〜、らめらよべりあ、もうおしゃけぁおしまい!おみじゅのんれ、って』
何となくベリアンの口からその言葉が出た状況を把握して、ハウレスは必死に笑いを堪えた。
「くぅっ・・・お行儀が良くないのでっ、それは、言っちゃダメですよ・・・」
『らえなのぉ?』
「ダメですよ。おいしいって言いましょうね」
『おいし!』
「はい、よくできました」
トリコの頭を撫でて褒めてやりながら、どこで主が見ているか分からないということを執事たちに伝えておかなくてはいけないな、と危機感を覚えたのだった。
その後、食事の時間になりハウレスも一緒に食堂へ向かった。
今日はミヤジがサポートに入る日だったようで、メニューを確認しているところだった。
「お疲れ様です、ミヤジさん」
「お疲れ様、ハウレス君。今日は君が主様と遊んだんだって?」
「はい、人形遊びとままごとをしました」
「そうか、ありがとう。主様も大分おしゃべりが上手になってきているから、この調子で続けてくれると嬉しい」
「はい、分かりました」
ハウレスとミヤジが軽く話していると、ロノが声を掛けてきた。
「主様〜、ミヤジさん!料理出して大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ」
『ごはん〜♪』
ウキウキのトリコの前にロノが料理を並べる。
「今日は、キノコグラタンにしました!熱々なので、フーフーして食べてくださいね!」
『あい!いたぁきましゅ!』
トリコは早速小振りで可愛い形のグラタン皿に入った熱々のキノコをスプーンで掬う。
「主様、ふーふーして!」
ミヤジが叫ぶも間に合わず、トリコは熱々のキノコを口に入れてしまった。
『っああ゛っ・・・あっっちぃ!!!』
ハウレス、ミヤジ、バスティンが吹き出し、ロノが固まった。
「・・・ロノにそっくりだ」
「バスティン!!」
バスティンにロノの真似をしているとバラされ、ロノはギギギ、と首を動かしてミヤジの方を伺う。
「・・・ロノ君」
「はっはい・・・」
「言葉遣いには、気をつけようね」
「はい・・・」
雷が落ちなかったことにホッとして、ロノはデザートの準備をしに行った。
トリコに冷たい水を飲ませ、やけどが酷くないことを確認し、食事を再開させた。
「・・・ということがありました」
「ありがとうございますハウレス君・・・まさか、主様にそのような姿を見られていたなんて・・・」
ハウレスはベリアンにトリコが執事達の言葉を真似していることを話した。
ベリアンは酔っていたとはいえ、みっともない姿を見られて落ち込んでいる。
「まぁ、俺もあまり良くない言葉を使ってしまうこともありますから、それぞれが気を付けるしかありませんね」
「そうですね、気を引き締めましょう・・・」
2人はうんうんと頷き合い、解散した。
コンサバトリーを出ると、階段の方から話し声が聞こえてくる。
近寄ってみると、トリコに何かを教え込んでいるラトとラムリが居た。
「・・・じゃあ、変な人に声を掛けられたら、なんて言いますか?」
『へんたい!!ろぃこん!!』
「では、豚さんに絡まれたら、なんて言うのかな?」
『さわんな!このやろー!!』
「完璧ですよ!主様!流石です〜!!」
「上手に言えたね、いいこいいこ・・・」
『えへへ~』
「「こ、こらーーーーー!!!!」」
「うわっ、やばっ」
「くふふ、今日ならハウレスさんと戦えそうですね」
変な言葉を教え込んでいた2人はこってりと絞られ、トリコは絶対に言ってはいけないと注意された。
しかし、一度覚えてしまった言葉を忘れる訳では無いため、予想外のタイミングで予想外の言葉が飛び出し、執事たちを苦しめることになるのだった。
例 フェネスと絵本タイム
『ねぇね、へねしゅ』
「はい、どうしましたか?」
『このひと、ろぃこん?』
「ロリコッ!?どこで覚えたんですか!?」
『なむいがね、へんなひとって』
「あ〜、変な人にも色々居ますから、ロリコンでは無いかもしれませんね」
『ふ〜ん・・・じゃあ、へんたい?』
「ぶっはっww」
耐えられなかったらしい。
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