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最近折り紙で仕事をするのが憂鬱だ。ほんとうなら大好きな仕事のはずなのに……彼らのせいだ。
もうかれこれ半年くらいになるのかな。定期的に彼らはやってくる。時間はバラバラだから読めない。
ただでさえ赤字の店なのに、余計に客足は遠のき、今では閑古鳥が鳴くようになってしまったうちの店。原因は――
「おい早く持って来いよコラア」
「おせーんだよ、客を待たせんなッ」
「クソ暇な店なのに料理も満足に提供できない最低店だな」
中央の4人掛けテーブルを陣取り、強面のやくざみたいな男たちが3人揃って声を荒げている。難癖をつけるのが仕事かのように、大声でわめいてくる。
「マックン・ドナルドなんて、注文してすぐ料理でてくっぞ~」
「待ってる間にビール頼むからよぉ、ちょっと姉ちゃん、相手してくれ」
「オラ来いや」
やれ料理がまずいだの、提供時間が遅いだの、ビールを飲めば大声で騒いで他のお客様への迷惑行為を繰り返す彼ら。
なんど注意してもやめてくれないし、セクハラまでやりだす始末。警察に相談しても、殴られたり器物破損があったわけではないし、出入り禁止と言っても勝手にやってくる。こちらがひ弱な父娘だから、相手も舐めているのだろう。結果、根本的な解決には至っていない。
「ここは食堂ですよ。彼女に絡むのは止めていただけますか」
どうしようかと思っていたら、睦月君が現れた。やだ、大声で威嚇されていたから、中に入ってきたことにぜんぜん気が付かなかった!
「あぁ、なんだお前」
「彼女の夫ですがなにか」
「夫ぉ?」3人のチンピラのうちの一人が鼻で睦月君のことを笑った。「こんな年下のガキみたいなのが夫なんて、笑わせる」
やっぱりこんな年上の私に20歳の若い旦那様なんておかしいよね。世間の反応はそうだと思う。改めてその事実が苦いと感じた。
「笑いたければ笑えばいい。名誉毀損、恐喝、営業妨害、あなたたちの罪はいろいろありますね。覚悟しておいてください」
しかし睦月君はどこ吹く風。まったく気にした様子はない。
「あぁなんつったお前」
「シメるぞコラ」
「ガキはすっこんで……」
「そのガキの妻や店に手出してみろ! 地獄の果てまで追いかけてやるからな! 警察呼んだから署でしっかり話し合いだ!! なんなら今すぐ法廷で争うか?」
秀麗な顔いっぱいに怒りを滲ませ、睦月君が彼らを一喝した。さすがに分が悪いと思ったのか、「ちくしょうが」と捨て台詞を吐きながら3人は帰って行ったので、慌てて彼の下へ飛んでいった。
「睦月君ッッ。大丈夫だった? けがはない?」
「先生こそ大丈夫? 僕は平気だよ。あんな小物どうってことない」
「で、でもっ、睦月君になにかあったら……」
背中がヒヤッとした。勇敢に立ち向かってくれるのはいいけれど、彼らの報復が心配だ。睦月君になにかあったらと思うと……。
「昔、僕のアパートに借金取りに来ていた首まで墨が入っていたヤツとか、顔に傷入っていたヤツとかの方がよっぽど怖いよ」
そういえば家に借金取りが来るからかくまって欲しいと頼まれたことがある。
睦月君はチンピラ慣れしている……!
「そ、そういう問題じゃなくて……」
「いいから。それより先生、怖かったでしょ。もう大丈夫だよ」
睦月君にぐっと抱き寄せられた。「これからは僕が守ってあげるからね」
ふあぁぁぁぁぁっ!
だ、抱きしめられてる――っ!
ど、どどど…どうしようっ。こういう場合、どうしたらいいの?
ただ、ありがとう、って言えばいいの?
誰とも付き合ったことがないからっ
恋愛オンチ女すぎてわからないぃぃぃぃ――――!
年下なのにこのカッコよさはなに!?
ずるいよ睦月君ッ!
ドキドキしちゃうからやめてっ。
「だ、大丈夫よ、なんとかするから……」
し……心臓がッ。
睦月君は無駄にイケメンだから、急に抱きしめられたりするとおかしくなるよ!
「でも、佑里香先生になにかあったら、僕は生きていけないよ。しっかりした弁護士雇うから、この件は僕に任せて! 先生を傷つけるヤツは、この僕が責任を持って地獄へ送ってあげるからね」
なんか怖いこと言ってるし……!
「ね、先生。僕は先生に助けてもらった恩を返したいだけなんだ。僕に任せてくれないかな? もっと夫(ぼく)を頼ってよ」
そっか。偽装とはいえ夫婦だもんね。それに、睦月君は昔のことをすごく感謝してくれているみたい。別に大したことはしていないのに、一緒にご飯食べたり宿題を教えたり、年の離れた弟の面倒を見るみたいで私も楽しかったし、好きでやっていただけなのに。
「わかった。じゃあ、旦那様にお願いするね?」
「だ……旦那様……」
睦月君は旦那様、というワードがツボったらしく、何度もぶつぶつ『旦那様』というワードを繰り返していた。
「先生。あのね、僕、頑張るから!」
「ええ。頼りにしているからよろしくお願いします」
「任せておいて!」
睦月君は嬉しそうに笑った。
その笑顔にキュンとさせられてしまう。ドキドキと胸の高鳴りを覚えるのはどうしてなの?