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#溺愛
高瀬船
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#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
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#ハッピーエンド
黒猫ている
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リオルドの兄、マーベルの言葉にリスティアナとリオルドが真っ青になる。
二の句を紡げないでいると、共に話を聞いていたルカスヴェタが「では」と明るく声を出す。
「タナトス領は落とされかけ、アロースタリーズ国が窮地に陥る手前ではあった。だが、今はその脅威は取り除かれた、と考えてよろしいですか?」
「ええ。貴殿ら……ウルム国王女殿下、ティシア様のお陰で我が国は窮地を脱しました。……貴殿らにも犠牲が出ると言うのに、我が国への援軍、ありがとうございます」
「とんでもない。古くからアロースタリーズとは貿易を行っております。窮地に陥った隣人を助けるのは当然の事でしょう」
穏やかにマーベルとルカスヴェタが会話をする。
リスティアナとリオルド二人は、この度の事の顛末と、捕らえた王兄バジュラドの護送を、タナトス領当主マーベルから命じられた。
「あ、兄上……ですが兄上はどうなさるのですか? 王兄バジュラド様を捕らえ、国王陛下へのご報告はタナトス領当主であられる兄上か、捕縛した軍隊長殿が──」
リオルドが焦って言葉にすると、マーベルはゆるりと首を横に振り、リオルドに視線を向けた。
「いや。私は侵攻され、甚大な被害を被ったタナトス領を復興しなければ。王都までの道はタナトス領の兵士達に護衛させよう」
「それに私も王女殿下のご指示通り、タナトス領に残り、再び帝国軍が攻め入って来るのを防がねばなりませんから。王都へのバジュラド移送は、お願い致します」
「それに。メイブルム嬢……。お父上のメイブルム侯爵を王都の王宮医に診て貰った方が良い。腕の良い医師に切断した足を診てもらい、義足を作成すれば再び立って歩く事が出来るようになるだろう?」
マーベルから気遣いの言葉と提案を受ける。
リスティアナは自らの治める領地が敵国に侵攻され、被害を負ったと言うのに他者を思いやる気持ちを持つマーベルに、心の底から感謝した。
戦の事を何も知らず、このままこのタナトス領に残っても役に立てない自分は、王都に戻った方がやれる事が多々あるだろう。
リスティアナはきゅっ、と唇を噛み締めるとマーベルに向かって深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べた。
◇
タナトス領、スノーケア辺境伯の居城から王都までは、馬で駆ければ十日と少し。
だが、叛逆者である王兄バジュラドを馬車で護送すれば二十日程かかる。
砦で療養しているオースティンも連れて帰るとなれば、更に時間は掛かるだろう。
リスティアナは、急いで王都に戻る為に休息もそこそこに出立の準備を終え、スノーケア邸を後にした。
邸を出る前も、スノーケア辺境伯マーベルとウルム国の軍隊長であるルカスヴェタには最後にしっかりと挨拶とお礼を告げた。
「──タナトス領での戦いは一先ず決着が着いたけれど……。私達中央貴族の戦いはこれからだわ」
「仰る通りですね、リスティアナ嬢」
ぽつり、と呟いたリスティアナの言葉にリオルドの声が返って来る。
リオルドは、兄であるマーベルの手伝いの為にこの地に残る物とばかり思っていた。
だが、彼はリスティアナと共に王都に戻ってくれるらしい。
「──スノーケア卿、本当によろしいのですか? せっかくお兄様とお会いできたのに、ほとんどお話しできなかったのでは?」
「好きな女性を……大切な女性を一人で帰す事などできませんよ。リスティアナ嬢は私がしっかりとお守りします」
「──っ」
にっこりと笑顔で告げられたリスティアナは、瞳を見開くと真っ赤な顔のまま唇をぱくぱくと開閉してしまう。
何か言葉を返したいのに、上手く言葉を返す事ができず、リオルドは僅かに頬を染めたまま「さあ行きましょうか」とリスティアナに向かって声を掛けた。
前を歩くリオルドの耳が赤くなっている。
周囲は夜の闇に包まれていると言うのに、月明かりのせいでしっかりとその様を見てしまったリスティアナは、赤く染まる自分の頬の熱を何とか冷まそうと、手のひらで必死にあおいだ。
王都に帰還したら。再び王都は騒がしく、そして混乱するだろう事が分かる。
リスティアナは唇をきゅっと噛み締め、強い視線で前を見据える。
そして少し前を歩くリオルドの後を追うように駆けた。
◇◆◇
リスティアナとリオルドは、途中でメイブルム侯爵オースティンを迎え、合流してから王都に帰還した。
王兄バジュラドは帰路の最中も何度か脱走を企てていたが、全てオースティンにその企てを見破られ、脱走は未遂に終わった。
二十日以上の時間を掛けて王都に戻ったリスティアナ達は、王城に到着するなり直ぐに謁見の間に通された。
「──お父様、その足では陛下へのご挨拶も、ご説明も難しいのではございませんか? 陛下に事情をご説明し、お父様は別室でお休みになられては……」
謁見の間に通されたリスティアナ達三人と、罪人であるバジュラドは衛兵に両脇を固めらた状態で跪いていた。
オースティンは膝から下を失っているので跪く事が出来ず、衛兵が慌てて用意してくれた椅子に腰掛けていた。
「いや。こうして座らせて貰えば大丈夫だ。死した者達の痛みや絶望に比べれば、痛みを感じる事がどれ程恵まれているか……」
「ですが……顔色が悪いですわ……。血も大量に失っておりますし──……」
リスティアナがオースティンに向かって話していると、謁見の間の扉が勢い良く開かれ、リスティアナに向かって駆け寄って来る影が一つ。
「──リスティアナ! 無事だったか、良かった!」
「──殿下」
帰還の報せを聞いたのだろう。
王太子ヴィルジールがリスティアナに駆け寄り、抱き締めようと腕を伸ばして来た。
だがリスティアナの隣に控えていたリオルドがさっと彼女の肩を抱き寄せ、避ける。
「──リオルド・スノーケア! なぜお前がリスティアナを……っ」
誰の許可を得てリスティアナに触れているのだ、と言わんばかりの態度で憎々しげにリオルドを睨むヴィルジール。
リオルドは呆れたような表情で、口を開いた。
「王太子殿下。ウルム国第三王女であられるティシア殿下とのご婚約まことにおめでとうございます。ご婚約者様が居られながら、他の女性に触れようとするなど……ティシア殿下が知れば悲しみます」
「なっ、なぜ私がティシア殿と婚約した事を……っ」
「アロースタリーズの王都に近付くにつれ、殿下とティシア様のご婚約のお噂を、耳にする機会が増えておりました」
どうして婚約の話を知っているのだ、と狼狽えるヴィルジールに向かってリオルドが不思議そうに首を傾げながら答える。
ヴィルジールは、リオルドに抱き寄せられているリスティアナに視線を向けて言い訳をするように口を開いた。
「リ、リスティアナ……っ私は……っ」
「殿下、ご婚約おめでとうございます。ウルム国の王女殿下とアロースタリーズの両国が強い絆で結ばれる事は喜ばしい事ですわ」
リスティアナが本当に嬉しそうな笑顔でヴィルジールを祝福する。
その顔を見たヴィルジールは、悲しげに顔を歪めた。
以前もはっきりと言葉にしていると言うのに、とリスティアナは心の中で溜息を吐き出す。
どうしてヴィルジールは、婚約を結んでいた頃のように名前を呼ぶのだろう。なぜ、未だに自分に気持ちがあると自信を持っているのだろうか。
とっくの昔にヴィルジールへの想いなど、捨て去ったと言うのに。
リスティアナが呆れたようにヴィルジールを見返した、その時。
謁見の間の扉が再び開き、国王バルハルムドが姿を表した。
リスティアナ始め、リオルドも素早く頭を垂れるが、バルハルムドがすぐに「顔を上げてくれ」と言葉を発する。
「二人とも、無事の帰還なによりだ。……メイブルム侯爵……此度の働きに感謝する。足の怪我は、王宮医を遣わせるからしっかり診てもらってくれ」
「──有り難きお言葉、感謝致します」
バルハルムドと顔を合わせたオースティンは、ゆったりと口元に笑みを浮かべると座った体勢のまま、胸に手を当て頭を下げる。
「さて……。そこに居る愚息は報告の邪魔になるな……。衛兵、ティシア殿の元に連れて行ってくれ」
「──はっ。かしこまりました」
バルハルムドから冷たい言葉を向けられ、ヴィルジールは慌てて口を開いた。
「父上っ、お待ちください! 私はリスティアナと……っ」
「殿下、ティシア殿下の元へ。ティシア殿下がお待ちです」
ヴィルジールは、この場に何とか残ろうともがいたが、相手は屈強な衛兵複数人だ。
両脇を支えられ、バルハルムドの命令に従い謁見の間から連れ出されて行くヴィルジールの声が虚しく空間に響いた。
呆れたように冷たい視線をヴィルジールに向けていたバルハルムドは、表情を柔らかいものへと変えると、リスティアナ、リオルド、オースティンへと視線を戻した。
コメント
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リオルドの「好きな女性を一人で帰すことなんてできませんよ」に心臓が跳ねました…! マーベル兄上との再会もあっさり切なくて、でもちゃんとリスティアナを選ぶリオルドの想いが伝わってきて。ヴィルジール殿下が完全に蚊帳の外で、バルハルムド王に連れ出されて行くところはスッキリしました。次は王都での戦いが始まるんですね…続きが待ち遠しいです🥀