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#溺愛
高瀬船
934
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
502
「オースティン・メイブルム、リスティアナ・メイブルム。そしてリオルド・スノーケア。此度の其方らの働きでアロースタリーズは滅亡を免れた。オースティン・メイブルムは四大侯爵家の中で唯一国内で起きている異変にいち早く気付き、国の滅亡を阻止する為に報せをくれ、自らも戦地へ赴く行動を起こしてくれた事、感謝してもし切れぬな。……その過程で、足を失ってしまった事は謝罪してもし切れぬ……。我が国で抱えている腕の良い医師や御殿医、全ての者を呼び寄せ最善の医療を約束しよう。ウルム国から来て頂いたティシア殿も心配しておった。あちらの国の医師も呼んでくれるとの事だ。暫くゆっくりと休んでくれ」
「──有り難きお言葉でございます」
国王バルハルムドの言葉に、リスティアナの父オースティンは深く頭を下げる。
そして、バルハルムドはリスティアナとリオルドが通う学園の事についても説明してくれた。
国の諜報専門部隊が学園内の騒動を確認した所、やはり帝国の手の者達がナタリアを擁護する声を上げ、帝国と通じていたこの国の貴族の家の者達がそれに便乗するようにナタリアとヴィルジールの仲を肯定した。
ナタリアを誉めそやして回り、リスティアナについての悪い噂を流していたと言う証拠も出た。
メイブルム侯爵家を王家から遠ざけ、同時に他の三家の侯爵家にも、大なり小なり小さな事件を起こす。
一つ一つは小さな事件でも、それが増えて重なり、王家に報告が行けば処理しなければならない事が増える。
そうして、国の中心部がタナトス領から目が逸れた時を待ち、タナトス領を落としに掛かると言う筋書きだったようだった。
「──まあ、そこに居る兄上……いや、兄上とも最早呼ぶ事も出来まいな。……叛逆者バジュラドはタナトス領を落とした帝国軍と共に王都まで攻め上がり、私を亡き者としようとしていたらしいが……。帝国軍が撤退した際に切り捨てられたらしい」
玉座に座り、肘置きに手を置いた手で頬杖を付きつつバルハルムドは凍てつくような視線と声音でバジュラドを射抜く。
「……叛逆者には死を以て罪を償って貰わねばならん」
「──バルハルムド! 貴様!」
バルハルムドの言葉に怒りや怨嗟の籠った視線を向ける。だが、近くに居た衛兵にすぐに頭を押さえ付けられ、床に這い蹲る。
その様子を見つめていたバルハルムドは考えの読めぬ瞳でバジュラドを見詰めていたがふっ、と視線を外すとよく通る声で言葉を発した。
「──叛逆者、バジュラドの処刑は明日。国民の前で行う。それと同時に、此度の騒動の説明を国民達の前で行う」
バルハルムドの言葉を聞き、バジュラドは暴れ騒ぎ、逃げ出そうと藻掻いた。
バルハルムドの「連れて行け」と言う言葉に衛兵達がバジュラドを半ば引き摺るようにして謁見の間から連れ出し、退出して行った。
謁見の間は先程まで騒いで居たバジュラドが退出したからか、耳に痛いほどの静寂に包まれている。リスティアナとリオルドは処刑を言い渡された者の悲痛な叫びが耳にこびり付いているようで、若干顔色が悪い。
リスティアナとリオルドとは違い、オースティンは表情を変える事なく冷静なまま、バルハルムドに視線を向けている。
バルハルムドは、オースティンのその視線に気付くと片眉を上げて唇を開いた。
「オースティン・メイブルム。何か言いたい事が?」
「──はい。陛下にご相談が……」
オースティンの言葉に、バルハルムドは「聞こうか」と口元をゆったり緩めた。
オースティンはリスティアナとリオルドにちらり、と視線を向けたあと、バルハルムドに視線を戻す。
「これから先、ご相談したい内容はこの場では少し……。故に、まことに勝手ながら場所を移したく……」
「……なるほどな。ならば場所を移そうか。……ウルム国の追軍についての報告も得ているので、リスティアナ・メイブルムとリオルド・スノーケアは帰宅しても良いぞ。──この度の働き、感謝する」
「──はっ、ありがとうございます」
バルハルムドの言葉に、リスティアナとリオルドは声を揃えてバルハルムドに返事を返すと、リスティアナはオースティンをちらりと気遣うように見やるが、オースティンから笑みを向けられてリオルドと共に謁見の間から退出した。
◇
「メイブルム侯爵のお話とは……何なのでしょう?」
謁見の間から退出し、廊下を歩きながらリオルドはぽつりと呟いた。
リオルドの呟きに、リスティアナは彼に視線を向けると眉を下げつつ答える。
「私にもよく分かりませんが……。お父様が私達二人を帰し、陛下とお話をしたいと言う事は、私やスノーケア卿が居ては話しにくい事なのでしょう」
「学院に通っている身では、まだ一人前の大人とは見られませんしね……」
「ええ。私も、今回の件で痛感致しましたわ。恐らく、これからお父様と陛下は此度の騒動について詳しくお話をするのでしょうから……」
リスティアナの言葉にリオルドも同意するように頷いた。
ふと顔を上げた二人は、前方からオルファが二人に向かって歩いて来るのが見えた。
「お兄様──?」
「メイブルム卿……?」
リスティアナとリオルドに軽く手を上げてオルファは応えると、二人の目の前までやって来る。
「リスティアナも、スノーケア卿も陛下との謁見が終わったんだな?」
「はい。今はお父様が陛下とお話を……」
「あー……そっか、もう始めたか……直ぐに行かないと……」
「お兄様も、お父様と陛下とお話を?」
「ああ。少し報告しなければならない事があってな……。そうだ、王城の門前にリスティアナの友人達が来ているぞ。あまり話せていなかっただろう? 話して来たらどうだ?」
「コリーナ達でしょうか!」
リスティアナがぱっと表情を明るくし、そわそわと廊下の先を気にするように視線を向ける。
その様子を見たオルファとリオルドが苦笑していると、オルファがリオルドに話しかける。
「スノーケア卿。まだ国内がごたついているから、リスティアナの護衛を頼んでもいいか? 邸まで送って貰えると助かる」
「わ、私でよろしければ……!」
「スノーケア卿ならば安心だからな。……さて、俺はご破算になった婚約について話して来るよ。また後で、リスティアナ」
けろっととんでもない事を口にして、ひらひらと後ろ手に手を振りながら去って行くオルファの背中を見ながら、リスティアナとリオルドはぎょっと瞳を見開いて驚きの声を上げた。
「ご破算……っ!? お、お兄様どう言う事ですか!?」
「メ、メイブルム卿……っ!?」
リスティアナとリオルドが慌てふためく雰囲気を感じながら、それでもオルファはゆったり歩を進めながらひらり、と後方に向かって手を振ると立ち止まる事無くそのまま廊下の先へと姿を消してしまった。
追うにも追えず、その場で立ち止まったままオルファの向かった先をリスティアナとリオルドは唖然と見詰めていた。
だが、その場に立ち尽くしていてもどうしようもない。リスティアナは溜息を吐き出すとリオルドに顔を向けて「行きましょうか」と声を掛けた。
◇
王城を後にしたリスティアナとリオルドは、オルファが言っていた通り門前にコリーナやアイリーン、ティファの姿を見つけると瞳を輝かせて三人の元へと駆け寄った。
「コリーナ! アイリーン嬢に、ティファ嬢!」
「リスティアナ! 良かった、無事だったのね!」
ひしっ、とリスティアナとコリーナが抱き合い、お互いの無事を確認し笑顔を浮かべる。
コリーナのフィリモリス侯爵家でも、此度の騒動について確認か、報告が行っていたのだろう。
オースティンが手を回していたのか、それともフィリモリス侯爵家が自ら調べたのかは分からないが、コリーナは内情を知っているようだった。
そして、コリーナと共にアイリーンとティファも王城にやって来ていると言う事は、二人にも情報を共有したのだろう。
「リスティアナ。貴女がタナトス領に向かったと聞いて、どれだけ心配したか。無事で良かったわ……」
「心配掛けてごめんなさいね。コリーナやアイリーン嬢、ティファ嬢にも連絡をする余裕が無くて……」
「あれから、学園内では色々と騒ぎになりましたのよ……そのお話もさせて下さいね」
「何はともあれ、リスティアナ嬢がご無事で良かったですわ……」
リスティアナ達四人は、一頻り再会を喜ぶ。リスティアナ達から少し離れた場所で所在なさげに佇むリオルドに気が付いたコリーナは、視線を向けた。
「あら? スノーケア卿とこの後も何かお約束でもあるの、リスティアナ」
コリーナ、アイリーン、ティファから視線を向けられたリオルドは僅かにたじろぐと、リスティアナが「ああ」とコリーナに言葉を返す。
「スノーケア卿は、邸に戻るまで護衛をして下さるのよ」
嬉しそうに笑うリスティアナに、コリーナ達は瞳を微かに見開くと「まあまあまあ」と嬉しそうに表情を綻ばせてリスティアナとリオルドに交互に視線をやる。
花開くような明るい笑みを浮かべ、嬉しそうに笑うリスティアナ。
コリーナ達は、自分達の預かり知らぬ間にリスティアナとリオルドの間に何かがあったのだと瞬時に察する。
王太子ヴィルジールと婚約を解消してから、暫く。
辛さを表には出さずに耐えていたリスティアナが、心の底から嬉しそうに笑い、リオルドと視線を交わしている。
コリーナ達は、リスティアナが心の底から嬉しそうに笑い、楽しげに表情を綻ばせている事に、自分事のように嬉しくなった。
◇
リスティアナやコリーナ達は、リオルドとメイブルム侯爵家の複数の騎士に馬車を護衛され邸に戻って来ると、暫しサロンで歓談した。
リスティアナとリオルドが退席した後の卒業パーティーの事。
ヴィルジール王太子の事。
帝国の甘言に騙され、国を裏切る行為をした貴族家の処遇を教えてくれた。
だが、不自然な程ナタリアの事は一切誰からも話が出ない。
恐らく「存在そのもの」を消されてしまったのだ。
それを察したリスティアナは、何とも言えない感情を抱いた。
リスティアナ達がタナトス領から戻ってくる前に、国王バルハルムドが貴族達に今回の事態について説明があったらしい。
叛逆に手を貸していなかった家の当主が集められ、事の次第の説明。
その後、叛逆に加担していた家の者達が後から連れられてきた。そして、裁きの間に場所を移した国王が罪を犯した家を貴族に告げたらしい。
明日の王兄バジュラドの処刑の後に、国民の前で罪を裁く事になるらしい事をコリーナから説明され、リスティアナとリオルドは表情を引き締めた。
国内の貴族の内、約四分の一程の家が些細な件でも関わっていた事から、大規模な粛清が行われるだろうとの事らしい。
「──そう。それ程の家が罰を受けるのね」
リスティアナが深く溜息を吐き、小さく言葉を零す。
ティーカップに口を付けていたコリーナがカップをソーサーに戻すと「ええ」と言葉を返す。
「些細な罪であれば取り潰しは行われないでしょうけど……大罪を犯した家は……爵位返上の上、身分を落とされるか、処刑……でしょうね」
「叛逆を企てていたのだものね……。仕方ない結果だわ」
室内に沈黙が落ち、重い空気になってしまった所で、時間も時間となってしまったのでリスティアナの友人達は会話を纏め、邸を後にした。
◇
リスティアナはコリーナ達を見送った後、リオルドと庭先で話をしていた。
すると、王城からオースティンとオルファが丁度戻って来た。
夜も遅いから、とリオルドが邸を後にしようとしたが、オースティンから「話がある」と言われ、リオルドはリスティアナと顔を見合わせた。
コメント
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ん~、第37話読んだよ。戦後処理の重みと、それでも少しずつ日常が戻っていく様子が丁寧に描かれてて、じんわり来た…。 バルハルムドの冷徹な王としての姿と、オースティンへの感謝と謝罪の温度差が印象的だった。それにオルファ兄様、まさかあんなにあっさり「ご破算になった婚約の話」って口にするんだね…😳 リスティアナとリオルドが揃って慌てるシーン、思わず笑みがこぼれたよ。 そして最後、コリーナ達との再会でリスティアナが心から笑えるようになったのが、何より嬉しかった。彼女の傷が少しずつ癒えていくのが伝わってきて、こっちも温かい気持ちになった。リオルドとの距離も縮まってるみたいで、その空気感がまた良いんだよね。 次はオースティンの「話」の内容が気になる…。また読みに来るね🖤