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硝煙の匂いがまだ鼻腔に残る戦場を抜け、少年は歩を止めた。前線から一度退却し、体制を整え直すよう命じられたばかりだった。灰色の空の下、散らばった武器や、倒れた仲間たちの影が不吉に揺れる。
やがて、別の隊と合流する場所にたどり着く。顔を見知った者たちの表情は、戦場で擦り切れ、疲れ切っていた。だが、その中に、ひとつだけ異質な沈黙があった。
「アゼリア…聞いてほしいことがある。」
隊長の声は、どこか震えていた。
「セリスが…死んだ。」
その言葉は、少年の胸に重く落ちた。
一瞬、世界が音を失ったように静まり、心臓だけが耳元で打ち鳴らされる。信じられない。
セリス…そんなはずはない。
「いや…いや、違う、そんな…。」
言葉は喉に詰まり、声は震えた。目の前の隊員たちの顔も、色が失せ、灰色に見えた。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
少年の視界が揺れる。思い出すのは、初めて出会った時のこと、共に笑った日々、悩みを受け止めてくれた事。
その人が、もうこの世にいない──その事実が、胸を引き裂いた。
崩れ落ちるように膝をつき、少年は地面を握る。
「なんで…なんでっ…!」
声は嗚咽に変わり、ただ無力感だけが全身を覆った。
戦場の喧騒が遠く、時間が止まったように感じられる。その瞬間、少年の中で何かが静かに決壊し始めた。これまで信じてきた正義も、世界のルールも、すべてが色あせる。
少年は荒れ果てた空を見上げる。
涙と灰で視界は霞む。 膝をつき、砂と涙にまみれたまま、少年は静かに呻いた。
胸の奥の痛みはまだ消えず、でもその痛みに混じって、熱く、刺すような感情が湧き上がる。
――なんで…なんでセリスが…
――誰のせいだ…
頭の中で問いが反響する。目の前に広がる戦場、焼けただれた大地、散らばる仲間たちーーそのすべてが、一つの答えに向かって収束していく。
「…悪魔…」
怒りが、悲しみの隙間から押し寄せる。
「こんな…こんなこと…絶対に…!」
声が震え、拳が砂を握りつぶす。指の間に血の匂いと埃が混ざり、心の中の黒い炎がゆらめく。
しかし、怒りの熱は、同時に痛みを倍増させた。
悲しみと憎しみが、胸の奥で交錯し、熱い血のように体内を巡る。
少年は自分でも驚くほどの感情に飲まれ、ただ、歯を食いしばった。
ーーセリスを奪ったあいつら…絶対に許さない…
その思いが、わずかな光のように心を突き動かす。
涙と怒りの渦の中で、少年の中の小さな決意が、熱く芽吹いた。
「…必ず…復讐を…」
嗚咽の合間に絞り出した言葉は、悲しみと憎悪が混ざった苦しい決断だった。
その瞬間、少年の中で、天使としての使命と、個人としての怒りが交差し、剣を静かにとった。