その夜。
華はひとり、街の居酒屋の隅の席に座っていた。
テーブルの上には空いたグラスがひとつ、ふたつと並び始めている。
「……返事って……何のことよ……」
小さく呟いて、ジョッキを口に運ぶ。
冷たい液体が喉を通るたび、胸のざわめきが少しずつ熱に変わっていった。
(律さん……美咲さんにだけ、特別な顔を見せてるの?)
(私……嫉妬なんかしてない。してないはずなのに……)
気づけば、視界がぼんやり揺れ始めていた。
グラスを置く手がわずかに震え、頬が赤く熱を帯びていく。
「……もう、やだぁ……」
華の声は、店内の喧騒にかき消されるように小さく滲んだ。
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