水曜日。日本酒のお陰でぐっすりと眠れた伊織。
仕事がある日と同じ時間に起きることなく寝ることができた。
「…ぱい…ぱい…んぱい…先輩」
少しアルコールが残っているのと低血圧でボーっとする伊織。
しかしそのボーっとした感じもすぐに吹き飛んだ。なぜなら目の前にルビアの顔があったからである。
「うわっ!…なんしてんの」
「なんしてんの?じゃないですよ。LIMEしても電話しても
ピンポンしても全然応答なかったので入ってきました」
「入ってきた…。まあ、ピンポンで起きると思ってたから助かった面はある」
ベッドから起き上がる伊織。昨晩日本酒を飲んだが、二日酔いになるほど飲んだわけではない。
しかしいつも通り低血圧なので起き上がった後しばらくじっとしないといけない。
「あ、なんかいります?あ!鉄分!買ってきますよ」
「あぁ。ありがと。でも冷蔵庫にあるから、取ってきてくれると助かる」
「わかりました!」
ルビアは冷蔵庫を開く。食材はほとんどなく、あるのはおつまみくらい。
あとはビールや日本酒などで覆われている。その一角に青と白の紙パックの飲み物が置かれている。
仕事のときも毎朝飲んでいる約1日分の鉄分 のむヨーグルトがずらっと置いてあった。
「おぉ。ここだけ異質」
と言いながらも1本手に取り伊織の元へ戻る。
「先輩」
「おぉ。さんきゅ」
ストローを刺して飲む。
「それって効くんすか?」
「さあ。そーいわれるとわからんけど、学生のときからずっと飲んでるからなぁ〜…」
「そうなんですね」
「何回か立てなくなってるからね。貧血で」
「そんななんですね」
「そう。でもレバーは好きじゃないのよ」
「はいはい。亜人のひかりちゃんが食べてるやつですね?」
「…?知らんけど。その子を。だからまあ、毎日気軽に飲めて、飲みやすいこれがオレの味方なわけよ」
ズズズズズ。紙パックの中が空になった合図がストローから聞こえる。
「よし。朝ご飯食べよ」
「昼ですけどね」
「オレにとっては朝。あ、歯磨いて顔洗ってくるから、テレビでも見てて」
「あ、朝ってパンです?」
「あ。うん」
「焼いときますよ」
「マジ?」
「マジっす」
「じゃあ、頼むわ。ありがと」
「うっす」
ということで伊織は洗面所へ歯と顔を洗いに、アイビルはキッチンのトースターでパンを焼きに行った。
パンの香ばしい香りが部屋中に漂い、顔をタオルで拭き、リビングへ戻ると
ローテーブルの上にジャムとこんがりトーストが置いてあった。
「おぉ。焼き加減抜群」
と言いながら冷蔵庫から心の紅茶のストレートティーを出し
グラスに注いで、その場で1杯飲み干し、もう1杯入れる。
伊織はストレートティーの入ったグラス2つを持ってリビングへ行き、ローテーブルにグラスを置く。
「ストレートティーでよかった?」
「あ!すいません。ありがとうございます」
「いーえー」
伊織は座って
「いただきます」
と手を合わせてからいちごジャムの蓋を開け、スプーンで掬ってトーストに塗りつけて
スプーンを舐めてトーストの端を齧った。
「ルビアはいいの?朝」
「さすがに食べてきましたよ」
と笑うルビア。
「ま、それもそうか」
ザクザクしたパンを食べ進め
「ご馳走様でした」
手を合わせて、食器を持ってキッチンへ。部屋着兼寝巻きを脱ぎながら
「そういや、今日どこ行くん」
とテレビを見ているルビアの背中に向かって問いかける。
「今日ですか?今日はですねぇ〜」
「アウトレットに買い物に行こうと思いますぅ〜!」
助手席でルビアが手を叩く。
「で。なぜオレが運転してんだよ」
「僕免許まだ取ってないんで」
「取れよ。悪魔だろ?」
「いや、悪魔関係ないっす」
と笑うルビア。
「ちなみに記憶力ってどうなの?」
「記憶力っすか?記憶力はまあ、人間よりははるかにあるっす」
「じゃあ、学科はよゆーだ?」
「まあ。たぶん余裕です。あ、そうだ」
と言って助手席のルビアがナビを入れる。
「この案内通りにお願いします」
「あいよ」
とカーナビに案内されて着いたのが
「OMATASE(お待たせ)!」
「累愛(るあ)も誘ってたのか」
累愛の家だった。
「おぉ!ルビアくん!お疲れー!あ、伊織も」
「お疲れ様です!累愛先輩!」
「今日は?何しにいくの?」
「アウトレットでお買い物です」
「なるほど?アウトレットか。ひさびさだな。いいじゃんいいじゃん。じゃ、レッツー…」
「「ゴー!!」」
「はいはーい」
ということでナビはアウトレットへと案内を始め、3人の休日のお出掛けが始まった。
「これ伊織の車?」
「いや?あ、そういえばこの車なに?まさかルビアの?」
「あ、いえいえ。ま。自分のっちゃ自分のですけど」
「マジ!?こんな高級車?」
「いや、一緒に住んでるやつの車なんで、自分のではないんですけど」
「え!?ルビアくん彼女いんの!?」
「あ、いえいえ。彼女ではないですね。ルームシェアっていうんですか?そいつの車借りたって感じです」
「ほえぇ〜。いい車持ってんのね」
「そうですね」
「なんか他人様の車だと思うと、途端に緊張するな」
「安全運転でおねしゃす!」
「お願いします!」
「はいはい。わかっとるって」
しばらく車を走らせる。
「アウトレットって急にどーしたん?」
後ろの席の累愛が前の席の2人のどちらにでも聞いているようの聞く。
「オレに聞かんで」
「あ、ルビアくんの案なんだ?」
「そうです。なんか伊織先輩の休日が、仕事モードじゃないときの伊織先輩の顔と同様、死んでたんで
後輩である僕がなにかしてあげようと思って」
「先輩に向かって死んでるって失礼な」
「でも当たってんじゃん」
「まあ。死んでる自覚ないけどな」
「いや、でも偉い!なんて先輩想いも後輩なんだ!オレもそんな後輩がほしいもんだ!」
「ありがとうございます!」
伊織はただただ運転に集中し始める。
「そういや伊織の私服見んのひさびさだわ」
と言われた伊織も
「あぁそうか。ルビアの私服って見たことないか」
「そうですね。スーツでしたからね」
「そっかそっか」
そんなルビアの私服は薄い紫のパーカーに、濃いめの紫の薄手のロングカーディガンに
色が濃いめのジーパン。紫のスニーカーだった。
「なんというか。大人っぽいというか」
「なんかエロいな」
と累愛(るあ)が言う。
「それか。なんか色っぽいな」
「そうですか?」
「色か。紫だから」
「あぁ。それか」
「色関係あるんですか?」
「言わない?紫ってなんか…エロいって」
「語彙力」
「でもわかるっしょ伊織」
「まあな」
「へぇ〜。そうなんですね」
という話をしながら車を走らせていくと
「MUTUI OUTLET PARK(六井アウトレットパーク)」という文字が見える。
「え。駐車場どこ」
「そこ入ればいいんじゃね?」
「あ、Pって書いてあったわ」
通り過ぎる。
「おい!」
「いや、今ので右折したら違反だろ。どっかでUターンしまーす」
「え。あ、TOSCKO(トスココ)あんだ?うわ、棚ぼただ」
と棚からぼたもち情報がありつつ、少し先にあった駐車場をお借りしてUターンし
六井アウトレットパークの駐車場に車を止めた。
「いやぁ〜、駐車場埋まってると思ってたけど、案外空いてたね」
「ま、水曜だからな」
「あ。そうか。忘れてたわ」
「不動産業は普通の会社員と休日合わないから、学生時代の友達と会わなくなるよなぁ〜」
「お。伊織。韻踏んだ?」
「踏んでねぇ」
「ずっと内に秘めてた恋心、きっとすでに決めてた行(ゆ)くロード」
「お。うまい」
「ま、Colorful wing crowの曲の1節だけど」
「既存のやつか」
「そ。愛ファス(愛嬌ファーストクラスの愛称)のメンバーの1人が
Colorful wing crow好きでね?で聞き始めた」
「自我がねぇ」
「はぁ〜?休日に後輩に可哀想に思われて借り出されてる伊織くんよりはマジですぅ〜」
「それはそう」
「認めちゃったよ」
という感じで3人でアウトレットに足を踏み入れた。
「伊織先輩って服って」
と言いながらルビアは伊織の服を見る。
白いパーカーに黒に近い濃いグレーのパンツに薄手のグレーのロングコート。
「めっちゃ無難っすね」
「な」
という累愛(るあ)も累愛で
「いや、累愛も無難だろ」
無難だった。
「そうか?まあ、服に金かけるなら愛ファスに注ぎ込むからなぁ〜」
「え。服買ってないんですか?」
「いや買ってないことはない。さすがに同じ服ばっかでライブには行けんし。恥ずかしくて」
「へぇ〜」
「だからnyAmazonでときどき買うね」
「ネットかぁ〜。そうですよね。ネットで事足りますもんね。伊織先輩は?」
「オレ?…オレはネットでも買ってないな。年1くらいかな。正月に実家行ったときくらいかな。
イオフ(AEOFF(元ネタ イオン)とか、それこそアウトレットに
運転手として付き合わされたときに、あー、部屋着もう1着買っとくか。くらいで」
「あ!今ので思い出した!オレ家族から貰うわ。プレゼントで」
「あぁ。オレもだわ。誕生日プレゼントで貰う」
「あ、ご家族から」
「そうそう。妹たちからのアドバイスで家族からーって」
「あ、累愛先輩妹さんいらっしゃるんですね」
「いるいるー。ド思春期の妹が2人」
「何歳だっけ?」
「今ー…17?19?あ、違うか。16と18か」
「妹の歳くらい覚えとけよ」
「いや、2歳差ってのは覚えてるけど、わからんのよ。まだ高校生だっけな?ってくらい」
「伊織先輩はご兄弟いるんですか?」
「いるよー。弟と妹1人ずつ」
「何歳だっけー?」
当てつけのような言い方の累愛。
「弟が19で妹が16」
あっさり答える伊織。
「くっ…考えてる伊織に「伊織もじゃねーか!」って言いたかったのに」
「残念ながら。オレも3歳差って覚えてたし、弟は今年20だから、来年成人式かーっていうので覚えた」
「くっ…ズルい。…あれ?成人って18になったんよな?」
「なったね」
「成人式ってー…18?」
「20歳(ハタチ)。なんかオレも弟の成人式で気になって調べたら
成人は18なんだけど、成人式は自治体によって違うらしい。
18のとこもあるらしいけど、成人式はまだ20歳(ハタチ)のとこが多いらしい。
うちの地元はまだ20歳(ハタチ)だった」
「ほぉ〜。ええこと聞いたわ。これは営業で活かせるな」
「そうか?」
「そうそう。ほら18歳で上京で家探しで両親と一緒に、みたいなときに」
「はあ。まあ役立ったなら何よりですわ」
「お2人とも!今日は休日なんですから、仕事は忘れて楽しみましょうよ!」
とルビアに言われて、自然と仕事の話をしていたことに気づく。
「うわ。怖いな」
「それな」
「累愛(るあ)がいるからな」
「それな。職場のメンバーだと仕事の話になるよなぁ〜」
「ルビアも職場の仲間だし」
「ま、とりあえず服でも見ますか。テキトーに入って」
「うぃ〜」
「いいですね!」
ということで服屋に入った。
「ここは?有名です?」
小声でルビアが伊織に聞く。
「あぁ。そうね。割と有名。24/7 magicっていうカジュアルな店」
「あ、そうなんですね」
「見て見てー!」
累愛がハンガーにかかったTシャツを手に取り、見せてきた。
「安くね?」
「ま、アウトレットってそーゆーもんじゃね?」
累愛の近くに行ってハンガーラックにかかっている、ハンガーにかかったTシャツたちを開いて見ていく。
「見てみ?これとかJK喜びそう」
「妹に買ってったら?」
「あぁ。いいかもな。安いし」
「24/7 magicは普段から安いけどな」
「なんでそんなん知ってん。服に無頓着なくせに」
「いや、毎年毎年イオフとかアウトレット行ってりゃわかるわ」
「妹ちゃんのお陰か」
「そ。そーゆー累愛(るあ)のほうは妹2人もいるのに詳しくないのな」
「うちのお嬢様たちは伊織んとこの良い子と違って、高いものとか、ブランド物欲しがるお嬢様だから。
Dressing the heartってとこにはお世話になってるわ」
「あぁ。聞いたことあるわ。買ったこと…ないけど」
「やめとけ。アホみたいな値段だから。あ、でも姉妹店っていうの?
Dressing the heart handsってのは割とお安めだからおすすめよ」
「へぇ〜」
「ルビアくんは?ファッション詳しい系男子?」
「あ、いえいえ、全然。多少知識はありますけど、全然」
「ここ知ってた?…24…なんだっけ?」
「24/7 magic。英語で24時間365日って意味」
「ほお!覚えやすい!知ってた?」
「いえ、知りませんでした」
「お。これいいじゃん。「fool」ってバカって意味だよね?」
累愛がTシャツを手に言う。
「そうね」
「これ妹にあげよ」
「ひどい兄だな」
ということで累愛は「fool」と書いてあるTシャツを
伊織は部屋着として着るテキトーなTシャツを、ルビアは普段着れそうなTシャツを買ってお店を出た。
「ひさしぶりぃ〜。活躍してるみたいで」
「ひさしぶりぃ〜。どもども。ぼちぼちね。良い役ももらえるようになりまして」
気恵(キエ)は友達と電話をしていた。
「今日夜暇?」
「まあ、暇ーかな」
「じゃ、ひさしぶりに外食べ行こうよ」
「お。いいよ」
「じゃ、店探しとくわ」
「そうね。芸能人様だから個室とかでしょ」
「やめてくれ。そんな有名じゃないから。ま、とりあえずお店探して住所送るわ」
「あいあい。よろしくぅ〜」
「うぃ〜」
ティロリン。と通話が切れた。
「おぉ。今日お出かけか。メイクせねば」
と気恵は夜からの予定に、まだお昼なのに浮き足立っていた。
そして明観(あみ)はというと、朝までゲームをしていただけあってまだ眠っていた。
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