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篠原愛紀
その日の昼。
休憩室で席を探していると、肩を軽く叩かれた。
「春川先輩」
声の主は、王子谷だった。
すっかりゲーム仲間になり、最近は昼休みに一緒にご飯を食べることが増えている。
ふたりでランチを広げると、王子谷がさっそく切り込んできた。
「白石さんと……うまくいってます?」
喉が詰まりそうになる。
(美形に彼女の名前を呼ばれるの、地味に刺さるな……)
「……まあ、ぼちぼちと」
曖昧に笑いながら、僕は白石さんが作ってくれた弁当を開けた。
鰻玉丼。
鶏むね肉とブロッコリーのサラダ。
牡蠣フライ。
「相変わらず……すごい弁当っすね。白石さん、ガチすぎません?」
王子谷は箸を止めた。
「そうですか? 健康にいいらしいですよ」
僕は本気でそう思っていた。
「……先輩」
王子谷はじっと僕の顔を見て、小さくため息をついた。
「白石さん、先輩のこと……殺す気じゃないっすよね?」
「え?」
意味がわからず首を傾げる。
「あ、そうだ」
僕は弁当袋の底から、いつもセットを取り出した。
・高濃度亜鉛サプリ
・マカ
・男性活力系の栄養ドリンク
「白石さんが『午後も頑張れるように』って」
王子谷は——完全に固まった。
「……」
「……?」
「……先輩」
震える声で言われる。
「それ、仕事を頑張るとか、そういう次元じゃないっす」
「え?」
王子谷は心の中で思った。
(白石さんエグっ……一体どんな夜の要求してるんだ……?先輩は明日生きて出社できるのか?……)
僕は完全に“同情の眼差し”を向けられた。
「先輩、すごい人だと思います」
「なにが……?」
「……白石さんの“愛”を、全部受け止めてるところが。男の中の男っていうか、英雄(ヒーロー)っすね」
「?」
「命だけは大事にしてください」
意味が分からないまま、僕は弁当を完食した。