カルダは凶悪だ。この悪夢の世界で大量殺人を企て、世界を我が物としようとしている。けれど、この世界は夢だ。死んだとしてもなんとかなるかも知れない。
ただ、家に帰ることを考えよう。
私はそう心に決め、剣と盾を置いて最後の戦いを勝ち抜けるように現実の神に、両手を合せて天に深々と頭を下げた。
「あ、何か感じるわ。ディオが呼んでいるわ」
呉林は何かを受信してから、長老のテントで大声で私を呼んだ。
当然、ディオは携帯を持っていない。
私と渡部と角田、安浦は、呉林姉妹がいる長老のテントへと走り出す。
「準備万端だそうよ。私と姉さんと恵ちゃんはこの村から出られないけど、戦で傷ついたら必ず戻ってきてね。絶対よ」
「ご主人様。超武運を」
「赤羽さん。勝利のお呪いよ」
霧画がそう言うと、私の頭上に何かの印を結んだ。
すると、私の中で一睡の眠気も粉々になった。
「死ぬでないぞ。夢の旅人よ」
テントの奥から出てきた長老が顔の皺を引き締めた。
「みんなありがとう。俺、行くから。それから……」
私は気取って呉林の顔をまじまじと見た。
「気を付けてね!」
呉林がいつもの調子で明るく言うと私に優しくキスをした。
「ご主人様ー!」
安浦は私の頭を本気で叩いた。
私たちはぞろぞろと、森の間の広場まで大勢で歩いた。その数おおよそ百名。それぞれ武器を携えている。ある者は斧、ある者は槍、またある者は弓、私と角田と渡部は剣と盾。など、原始的な武器だ。
「広場まで、後どのくらいだろう」
私は盾を持った腕で、額の汗を拭う。
森は南米だが寒かった。太陽が無く薄暗い森は、今でも猛獣や黒い霧が出てきそうだった。赤い月の下、何時間と夜の森を大勢で歩いた。
「呉林さんから聞いた話だと、歩いて28時間だそうです」
隣にいる渡部は、私と同じく寒さに強いようで汗をかいている。
「食事を間に挟さんでいこう」
私はここに来て呉林のようにリーダーシップを発揮した。
単調に寒い森を松明の明かりで進んでいくと、どうしても元の世界のことを考えてしまう。上村と中村は今、どうしているのかな。仕事かな、カラオケかな。などと、とりとめのないことを考えてしまった。
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