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偉猫伝~Shooting Star

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偉猫伝~Shooting Star

25 - 第25話 決別の時。そして……①

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2025年06月04日

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――あれは突然の事だった。



家族間での重要会議を、オレが局長として頂点から伺う最中の事。



『アカネがもう少し大きくなるまで、ほしを向こうの実家に預けた方がいい』



……別段驚きはしなかった。考えれば当然の事。



赤ん坊の内は、まだまだ細菌による抵抗力が弱い。



オレは三日に一回は風呂に入らねば、我慢出来ない程に綺麗好きな性質とはいえ、僅かな毛並みすら赤ん坊にとっては起爆剤と成りかねないのだ。



『ほし……少しの間だけ、我慢出来る?』



女神がそう不安そうな泣き出しそうな表情で、オレを膝上に乗せながら問いただしてきた。



そう自分を責める必要は無い。妹の健やかな成長を願うのは、兄として当然の勤めだ――と伝えてやりたかったが、言葉を交わせないのはやはり不便と言わざるを得ない。



この時ばかりは、崇める筈のヒンドゥのヴィシュヌ神も只の信仰外、寧ろ破壊のシヴァ神に鞍替えしそうになってしまっていた。



――結局の処、伝わったかどうか定かではないが、オレの行き先は『前屯所に戻る』で決定事項として落ち着いた。



局長が左遷される等、聞いた事も無い重大事件だが、全ての決定権はオレにあるからこそだ。



これはオレが選んだ無償なる愛の道。即ち――“クレデリックロード”。



ただし条件がある――



『休みの時はアカネを連れて、おばちゃん家に遊びに行くからね』



……流石だ。オレが条件を提示する前に、女神はオレの気持ちを事前に汲み取っていたのだ。



流石に忘れ去られるのは、オレも哀しみに暮れると言うもの。



是非もない。それで呑もう。



だから暫しの御別れだ。これは『サヨナラ青き日々よ』ではない。



新たな幸せを掴む為の、一時の別れ……。



『ごめんねほし……』



だから泣く必要は無い。笑って見送るのが正しい……筈なのに――



『ううぅ……』



嗚咽しながらオレを抱き締め、泣きじゃくる女神の前に、オレも釣られて涙を流したものだ。



ここからでは他の連中に見えないのは幸いだった。猫は人に弱みを見せないからな。



***********



『――おぉいらっしゃい。ほしを暫く預かる? いいよいいよ』



『ごめんねおばあちゃん、また……』



行動は早かった。後日にはオレは女神と妹、それに運転手以外に何の取り柄も無いはずれ者と共に、前屯所へと赴いて来たのだ。



此所も久々だな――と感慨に浸る訳がない。



休日の度に遊びに連れて来られていたのだから、今更どうという事もないのだ。



威厳たっぷりの此所の主、冥王はオレの暫しの局長襲名に歓迎の意を示す。



やはり何処でも、オレが序列では最高位なのだ。



『ほしぃ? 夜はおばあちゃんと一緒に寝ようなぁ?』



――しまった!



オレは所詮と高を括っていたが、これがあったのだ。



誰もがオレと寝たがるのは、種別を超えて当然の事だが、生憎オレはそう安くはない。



許可無しでオレと夜半を共に出来るのは、女神唯一人。後は拝み倒してようやくだというのに……。



オレは現実をすっかりと忘れてしまい、急に難色を示して泣きたくなってしまった。



『そんなに喜ばんでもいいんだよ』



何を勘違いしているのか、露骨に嫌悪を剥き出しにしているのに、伝わらない冥王の思考回路を本気で正したい。



『――じゃあほし? また来るから良い子にしててね』



しかし全ては後の祭り。



女神にそう懇願されたら、如何なオレでも従う以外有るまいて。



それにこれは妹の為でもあるのだ。



なぁに――アカネが『ヨチヨチ歩き』が出来る、ほんの1~2年の辛抱よ。



普通の猫だったらこんなに待てぬ。早々に心神喪失でブチ切れて、家出敢行間違いなしだろう。



つくづく思う――オレ程物分かりの良い猫は、世界中を見回してもオレ位なものだと。


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