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偉猫伝~Shooting Star

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偉猫伝~Shooting Star

26 - 第26話 決別の時。そして……②

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2025年06月05日

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――さあ見廻りと行くか。



屯所全域を把握するのも局長たる者の勤め。また再びオレを御世話するのだからな。



「ほっ――ほしっ!?」



庭園を優雅に闊歩中、平和呆けして昼寝の最中だったクロが、オレの姿を一目見るなり間の抜けた声を上げた。



その瞳に宿るは“計算外”って奴か?



別段久し振りって訳でもなかろうに、相も変わらず臆病な犬だ。



図体に似合わず逃げ腰な姿を見ると、コイツにはサクラの爪の垢でも煎じて飲ませたくなってくる。



「ヒッ――ヒィィィッ!」



オレが接近の意向を示すと、クロは後退りしながら情けない悲鳴を上げるが、生憎鎖で繋がれている為、それ以上後退は出来ない。



コイツはオレを鬼か何かと勘違いしてるのではないか? まあ最強の“キャッツ”で在る事に間違いはないが――



「よっこらせ……と」



オレは今にも失禁しそうなクロの前で、どっしりとその腰を降ろす。



「ごごごっ――ご機嫌麗しゅうほし……サン、様?」



何処で覚えたのやら、あからさまな御機嫌取りに噴き出しそうになる。



「…………」



「――っ!」



無言を貫いていると、怒りを買ったと勘違いしたのか、クロの脅えが頂点へ。



「あああっあのぅ!?」



そのどもった口調が可笑しくて堪らない。



暫く観察するのも一興だったが、流石に可哀想になってきた。その目尻には涙が浮かんでいたからだ。



ここまでにしておこう。オレにも慈悲は在る。



「そう怯えるな。少しばかり挨拶に来ただけだ」



「……はい?」



まだ理解出来ぬとは……。コイツは脳筋だから致し方無いか。



クロの間の抜けた面を見ていると、思い余って爪を立ててやりたくなるが、ここは寛容な精神でな。オレも若さに任せたあの頃とは違う。



「再び此所で暮らす事になってな。お前とはまあ色々あったが……また宜しくな」



「えっ!?」



フン……。コイツが一瞬見せた“嫌そうな顔”をオレは見逃してはおらぬが――まあいい。



過去のトラウマが、いきなりまた此所で厄介になるのだ。その気持ちも分からんではない。



「嫌そうだな?」



分かってはいるが、少しばかり意地悪をしてみたくなるもの。



「そそそっ――そんな事無いっすよ! ほし……サンとまた一緒に暮らせるなんて、ここ光栄でっす!」



心にもない事をベラベラとコイツはまあ……。



まあいいか――



「ほしで良いほしで。もう少しシャンとしろ! 猟犬の誇りを持て。オレは別段お前が嫌いではないのだぞ?」



好きでもないがな。臆病者は兎にも角にも歯痒くなってくる。



「はいぃっ! ほ……ほしぃ!」



……テンション高過ぎだ。何事にも限度と言うものがあろうに。



「まあいい……」



コイツは何も変わってないな。強者にへつらう世渡り上手さは買うが。



「じゃあ宜しくな」



「ハイっ! イェッサー」



これでは“闘い”を楽しめないのは遺憾だが、オレは争いに来た訳ではない。



もう用は無いので、さっさと屯所へ帰還する事にした。



振り返るとクロが舌をだらしなく出した間抜け面――如何にも“造り物”の笑顔で見送っていたのに、オレはうんざり気味に溜め息を吐いていたものだ。



まあ暫くの辛抱だ。



食事はオレ専用となる『銀のスプーン』をまとめ買いして此処に置いていったものだし、無くなったら届けに来るとの事なので、さしあたり食に関しての不満は無い。



“銀のスプーンこそ至高の食”



思えばこれを切らして、『猫まんま』で誤魔化したはずれ者に爪を立ててやった事を思い出し、含み笑いを浮かべてしまった。



全く……奴は本当に使えぬ。



猫まんま等、とっくに死語だと言うのに――。



何か全てが懐かしい。決してホームシックになった訳ではないぞ?



少しばかりナーバスになっただけだ。



その夜――彼等の居ない『銀のスプーン』の味は、何時もと少しばかり違っていた。



――行く年来る年。あれからまた一つの夏を越え、冬を越え――時間は瞬く間に過ぎ去っていった。



その過ごした全ての時間が、オレにとって掛け替えのない宝物へと昇華していく。



なんて……センチメンタルだとは思わぬかね?



笑いたくば笑うがよい。猫と貴公等人間とでは、棲んでる時間軸が違うのだ。



オレにとっては一分一秒も無駄には出来ぬ。



無駄に長々と生きているだけ程、虚しい事は無い。



オレは全ての時間を有意義に生きた自負が有る。だからこそ、これ程までに清々しいのだ何時如何なる時でも。



貴公等もよく心の片隅に留めておくがいい。



命の価値は『どれだけ生きたか』ではなく――



“どう生きたか”だ。



それが十年でも一年でも、例え一分でも同じ事。



『どうしたんですか、いきなり?』とでも言いたそうな顔だな?



分からずともよい、今は……な。



何時か貴公等にも分かる時が来る。



その時が来たらこの偉大なる翁猫の格言を、思い起こしてみればそれでよい。



オレの言った“時間の大切さ”を痛感する筈だ。



『いいから早く先を話せ』とな?



そう急かすな。慌てずともすぐだ。



こんな機会、滅多に有るものではないし、貴公等も物足りぬであろう?



オレもこの限りある時間を、少しでも有意義に使いたいのだ。



貴公等はオレの戯言を、嫌がらず聞いてくれているみたいだからな。



だが『もういい』と思った者は、此処等で切り上げても構わぬ。



去る者追わず――来る者拒まず。














……ホウ? 一人も帰らぬとはな。



余程の物好きと見える。嫌いではないぞ、そういう輩。



『好き』とは口が裂けても言えぬがな。



それでは……もう少しだけ付き合ってくれ――。



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