テラーノベル
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(なんで、二人はこんなに落ち着いてるの、?)
状況を知りたくて声を出そうとしたとき、なぜか上手く日本語が喋れず、口がテープのようなもので塞がれていることに気が付いた。
(え……?なに、これ…口になにか巻かれてるの…?)
「玲那、ホットココア飲んだろ?」
冷たく硬い床にへたりこんだまま、壁に打ち付けられた鎖に繋がれた私の視界に
一颯くんの顔がぬっと現れた。
彼は私と同じ目線になるように、ゆっくりと膝を折ってしゃがみ込む。
その声は、かつて私を優しく包み込んだはずの温かさとはかけ離れ
どこか底知れない響きを帯びていた。
唐突な問いかけに、思考が追いつかないまま私はただ力なく頷いた。
喉の奥がカラカラに乾ききっている。
私の返答に、一颯くんと和くんは顔を見合わせ
まるで秘密を共有する子供たちのように
楽しげに、しかし私には理解できない不気味な笑みを浮かべた。
その笑みは、私の心の奥底に冷たい氷の塊を落とし込む。
「あれに睡眠薬を混ぜたんだ」
和くんの声が、ひどく遠くから聞こえる。
その言葉は私の頭の中で何度も反響し、現実味を帯びていく。
睡眠薬。あの甘く香るココアに、そんなものが?
私の口が、何かを言いたげに
しかしガムテープに阻まれて意味のない動きを繰り返すのを察してか
和くんは少し考える素振りを見せた後、再び口を開いた。
「んー、やっぱガムテープしてると話しづらいよね、1回取るね?」
彼の指が、私の頬に貼られたガムテープに触れる。
ゆっくりと、しかし容赦なく剥がされていくテープの粘着音が、耳元で不快に響いた。
皮膚が引っ張られる痛みとともに、やっと口で呼吸ができるようになった私は
乾いた喉から「はあ、はあ」と、途切れ途切れの息を吐き出した。
酸素が肺を満たす感覚が、かろうじて私が生きていることを教えてくれる。
「な、なんで…どうしてこんなこと…?どうして、私は手足を縛られてるの…!」
混乱と絶望が入り混じった声が、ひび割れたように口から漏れた。
頭の中は疑問符で埋め尽くされ、目の前の現実が理解できなかった。
手足の自由を奪われたまま、冷たい鎖が皮膚に食い込む感覚だけが、私を現実へと引き戻す。
私の問いかけに、一颯くんは、まるで当然のことのように、何の悪びれもなく答えた。
「どうしてって、ずっと一緒にいるためだよ」
彼の目は、私を真っ直ぐに見つめていた。
その瞳には、かつて私が知っていた愛情とは異なる、執着と歪んだ確信が宿っている。
「俺、今日、これからはずっと一緒だって言っただろ?そのとき玲那もずっと一緒だと言ってくれた。」
一颯くんの言葉に、和くんが
まるで合いの手を入れるように続けた。
「僕たちと玲那ちゃんがずーーーーーっと一緒にいるために、何ができるか考えたんだよね」
彼の声には、抑えきれない興奮が滲み出ていた。
「そうして完璧な答えを導き出したんだ!」
二人が私を見て、再び狂気じみた笑みを浮かべた。
その顔は、私が知る彼らの面影を完全に消し去り、底なしの闇を覗かせているようだった。
彼らの瞳の奥には、私には理解できない
しかし確固たる信念のようなものが燃えている。
「ああ、和の言う通り。きみと一緒にいるためには、君をずっと部屋に閉じ込めておけばいいと思ったってわけだ。名案だろ?」
一颯くんの言葉は、私の心を深く抉った。
本当にこの人は、あのとき会社で私を嫌なお局から救い出し
真剣な眼差しでプロポーズをしてくれた、あの天宮一颯なのだろうか?
疑心暗鬼の波が押し寄せ、私は全身を震わせるほどの恐怖に包まれた。
この狭い部屋の空気は、彼らの歪んだ愛情で満たされ
私を窒息させようとしているかのようだった。
「玲那ちゃん、僕たちのこと嫌いになった?でもどっちみちもう逃がさないから。」
和くんの言葉が、私の背筋を凍らせた。
彼の声は優しげでありながら、その内容は絶対的な支配を宣言していた。
今の私に、彼らから逃げ出す体力も、気力も残されていないことは明白だった。
ただ怯え、足が竦むばかり。
後ろに下がろうとしても、冷たい壁がそこにあるだけだ。
それでも、私は無意識に後ずさりしてしまう。
「いやだ…っ!どうしちゃったの二人とも!!ひどいよ、それにこの部屋はなん、なの……?これが愛している相手にすることなの……?!」
私の叫びは、彼らには届かないようで
彼らは私の反応を見て、満足そうに微笑んだ。
その微笑みは、私の絶望を嘲笑っているかのようだった。
「何言ってるんだ、愛しているからだろう? 写真も、きみを好いている旦那がここに二人もいるんだから」
「左右対称に貼ってあってもおかしいことじゃない。…玲那はただ黙って俺たちを受け入れてくれればいいんだ。夫婦なのだから」
部屋の壁には、私の写真がびっしりと
不自然なほどに左右対称に貼られている。
それは、かつて私が彼らと過ごした幸せな時間の記録だったはずなのに
今ではただの監視の証拠にしか見えない。
「そうだよ、玲那ちゃんはなにも考えなくていいの、僕たちに身を委ねてくれればそれでいいんだよ?」
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