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◻︎危なかった
家に帰り着いてすぐ、夫はお義母さんに電話をしていた。
「うん、そう。月子のことだからきっとうまいこと言って、通帳とか持ち出そうとすると思う。だから……えっ!まさか!」
声が大きくなった夫の方を見た。電話をしながら、夫は私に向かって口パクで何かを言っている。
「え、なに?」
『や・ら・れ・た』
「まさか!」
「あー、わかったよ。僕からも月子に言っておくから、うん。またな」
そこまで話して電話を切った夫。
「先にやってたわ、月子。オレオレ詐欺に遭わないように、自分が預貯金を管理してあげるからって、親父の通帳を持ち出そうとしたらしい」
「それで?お金は引き出されたの?」
「それが、運がいいというか。親父もお袋も当時機械が苦手だという理由で、キャッシュカードを作らなかったらしい。だから、簡単には引き出せなくなってるらしいよ」
「窓口だと委任状とか身分証が必要になるってことね。それにしてもなんでそこまで?」
義理の妹とはいえ、お金に執着する月子に不気味な感覚をおぼえた。
___昔からそんな性格だったっけ?
ここはハッキリしておいた方がいいかもしれない。
「あなたの妹だし、私にとっても義理とはいえ妹になるから、こんなことは言いたくないけど」
「……うん、言いたいことはわかる」
「できるだけ、交流したくない。なんかおかしなことに巻き込まれそうだし」
「…だな!僕も縁を切りたくなったよ。今までにも似たようなことはあったけどさ、それでも親父やお袋にとっては可愛い娘だし、親父たちが何も言わなかったからそれでもいいかと思ってたけど」
「月子さんは、お義父さんたちにとっては可愛い娘だもんね」
月子は、最初の結婚に失敗して今の夫の充《みつる》とは再婚だ。最初の夫はどちらかといえば両親の勧めだったらしい。ところが金遣いの荒さとモラハラが発覚して、なんとか協議離婚が成立。子どもがいなかったことがせめてもの救いだったとお義母さんが言っていた。
その時の…自分たちが結婚を勧めたからといううしろめたさというか引け目から、特に月子には甘くなったと夫が言っていたことを思い出した。
___それにしても、そこにつけ込むなんてどんな娘よ
「一度月子にどういうつもりか訊いて、あとは関わらないようにしよう」
「うん、そうだね」
こんな時、夫との価値観が似ていてよかったと思う。“それでも大事な妹なんだ!”という人じゃなくてよかった。
「あ、お袋がさ、次はいつがいいか涼子ちゃんに訊いておいてって言ってたぞ。なんの話だ?」
「いつ?あー、あれか」
料理を作って届けるのは、いつがいいか?ということだろう。
「お袋、月子のことには怒ってるけど、なんだか楽しいことも見つけたようでよかったよ。良い趣味でもできたのかな?」
「そうかもね」
お義母さんが自分の口から言うまで、黙っておくことにした。楽しみというか張り合いができたことは、私にとってもうれしいし。
「あとは親父だな。マッサージチェアもなくなったからな」
「代わりのやつ、買ってあげる?」
「あー、考えとこう。月子には絶対持ち出さないように釘を刺してからな」