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◻︎サクッと話し合い
それからしばらくして、お義父さんたちと月子夫婦と私たち夫婦で、話をすることになった。この際、みんなでこれからのことを話し合っておいた方がいいだろうという、夫からの提案だ。普段はぼーっとしてるようで、こんな時はしっかりしていると思う。
終活や遺産の話なんてお義父さんとお義母さんにしたらなんだか残酷な気がしたのだけど、遅かれ早かれそういう時が来るんだからと、こころよく納得してくれたらしい。
また夫の実家へ向かった。
「お久しぶりです、お義姉さん」
殺風景になってしまったあの居間に入ったら、仁王立ちのように立っていた月子。その背後には隠れるように月子の夫の充がいた。
「お久しぶりです。お元気そうでなにより……」
「そんなこともないわ、もう更年期の症状が酷くて、寝込んでいる日もあるんだから」
「そんな体調でも大荷物を運び出すことはできるんだな」
夫の光太郎が、珍しく強い口調で返す。
「それはほら…お父さんたちのことを考えれば、でしょ?娘としては当たり前のことよ。お兄さんたちは何もしてくれてないようだからね。同居してくれてたら、私も終活とか考えなかったんだけど?」
「そのことは話し合って決めたことじゃないか。お父さんたちは二人で水入らずで暮らすって。生活に不安が出てきたら同居も考えるってことだっただろ?」
確かに、以前そんな話をしたことがあった。我が家の子どもたちも独立する頃、光太郎が同居をしようか?と両親にもちかけたのだ。そこは長男としての責任のようなものを感じていたからだと思うし、私も特に異論はなかった。でも、両親共々、せっかくだから誰にも気兼ねせず二人で暮らしたいと言っていたのだ。
万が一、病気その他で暮らしていくことに不安が出てきたらその時にまた相談するからと。
「忘れたのかよ、あの時、そう決めただろ?」
「そうだったかしら?忘れたわよ。どっちにしてもいずれ同居するのなら、この家はお兄さんが継ぐことになるんでしょ?だったら中身くらい私にも分けてもらってもいいと思うんだけど?」
「なんでそんなこと勝手に決めるんだよ。そんな話はまだしたことないだろ?」
その時、バン!と座卓を叩いたのは、お義父さんだった。
「な、なんだよ、親父」
いつもは無口なお義父さんが、座卓の上のこぶしを震わせている。
「俺と母さんは、どっちか一人になってもお前たちの世話になる気はない。その時はここを処分して施設に入ることになっている。だから、俺たちのことでごちゃごちゃ言い合うな」
お義母さんを見ると、にっこりうなづいている。
「そうなんですか?」
「そうよ、だから私たちのことは何も心配いらないわよ。あ、でもそういうことだからここの土地や家は遺せないと思うわ、残念だけど」
「そんなことはいいんですよ、うちはなんとかやってますし、これからも贅沢しなければ暮らしていける予定なので。ね!光太郎さん!」
「まぁな、なんとか暮らしていけると思うから、はなから遺産とかあてにしてない。親父とお袋がそう決めたのなら、僕はかまわないよ」
夫も私と同じ考えのようで、安心した。もともと両親の遺産など、私たちのライフプランには加味されていないのだから。
「え、ちょっと待ってよ!私はどうなるの?私は納得してないんだけど?」
月子は夫の充を見る。充は、月子に睨まれてここでキメのセリフを言わないといけないと思ったらしい。
「うちには、うちの計画があるのでそれはその……しないと……」
ボソボソとこもっていて、何が言いたいのかわからない。
「なんだよ、計画って。この土地をどうにかしようって言うのか?ってか、勝手に計画なんて立ててること自体、おかしな話じゃないか?そういうのを取らぬ狸のなんとやらって言うんだぞ」
「狸の皮なんかじゃないわよ、当然貰える権利があるんだから、そこは計算に入れるでしょ?お兄さんはいいわよ、まぁまぁのところに勤めていたんだから、がっぽり退職金が入ったでしょ?うちはそんなのないの、ずっと働かなくちゃいけないのよ、わかる?」
月子は会社員で、充は大型トラックの運転手のはず。なんでそんなにお金がないのだろう?いつだったか、世帯年収は1000万だと自慢していたのは、なんだったのか?
「なんでそんなに金がいるんだよ、子どもはまだ中学生と高校生だろ?大学には進学するかどうかもわからないってこの前言ってたじゃないか。何がそんなに必要なんだよ」
そこは私も訊きたいと思った。
「知らないわよ、気がつくとお金がないんだもん」
「「は?」」
光太郎と私の声が重なった。
よくよく訊けば、世帯年収1000万は総支給の額のようだ。二人でこれだけ稼いでいるから、これくらい買ってもいいよね?と車も家も犬もブランド品もアクセサリーもぽんぽん買ってるらしい。そして一度身についた似而非セレブ生活はレベルを下げることができず、気がつけば75歳までのローンを抱えているようだ。
「贅沢をやめて、売れるものは売ってしまえばなんとかなるだろ?だいたいそんなに金がないのに、なんでブランド品を持ち歩いてるんだよ」
「あら、これくらい私くらいの年齢なら当たり前よ。お義姉さんももう少し身なりに気をつけたらどう?いくらなんでもひどくない?」
まるで値踏みをするみたいに、私の頭から足までを見る月子。
___失礼な義妹だなぁ