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「なあ🌸」
テレビを眺めながら、黒尾が何でもないトーンで声をかけてくる。
「今年の年越し、どうすんの?」
「急だね」
「いや、もう年末だし?そろそろ押さえとかないとさ」
そう言って黒尾はソファに寄りかかり、横目でこちらの反応を探ってくる。
その顔がやたらと余裕そうで、逆に怪しい。
「実家帰るとか、友達と集まるとか、予定あんの?」
「今のところはないかな」
🌸が答えると、黒尾は一瞬だけ口角を上げた。
ほんの一瞬なのに、分かりやすすぎる。
「じゃあさ」
「うん?」
「俺と一緒にいよーヨ」
あまりにも軽い言い方に、思わず笑ってしまう。
「誘い方が雑」
「いや大事なことほど軽く言うタイプなんで」
そう言いながらも、黒尾は少し身を乗り出す。
「別にさ、派手なことするわけじゃねーけど。
年越しそば食って、テレビ見て、
『あと10秒!』とか一緒に言って」
「想像できすぎる」
「だろ?俺もできる」
🌸が返事に迷っていると、黒尾は冗談めかした声で続ける。
「まさか他に一緒に年越したい男とか?」
「そういう聞き方する?」
「冗談冗談。……半分くらい」
冗談と言いつつ、視線は真剣で。
🌸は小さくため息をついた。
「別に断る理由もないけど」
「“けど”が出たな」
「最後まで聞いて」
🌸が言うと、黒尾は素直に黙る。
「黒尾、絶対カウントダウンの瞬間うるさいでしょ」
「否定できねーな」
「しかもテンション上がって絡んでくる」
「それも否定できねー」
自分で認めてから、黒尾は少し声を落とした。
「でもさ」
冗談の空気がふっと薄れる。
「一年の終わりと始まりを一緒にいれる相手って、
俺は結構大事にしたいんだよね」
🌸が黙ると、黒尾は続ける。
「別にイベント好きってわけじゃねーけど。
『今年もありがとな』とか
『来年もよろしく』とかさ」
照れ隠しみたいに視線を逸らしながら、
それでも言葉は誤魔化さない。
「そういうの、🌸とやりたい」
少しだけ間が空く。
🌸が微笑むと、黒尾はちらっとこちらを見る。
「……なに、その顔」
「もう決まりじゃん」
「え、いいの?」
さっきまでの余裕はどこへやら、
黒尾は一気に表情を明るくした。
「やった。じゃあ年越しは確保な」
「確保って」
「だって逃がさないし」
冗談っぽく言いながら、
そっと🌸の手を取る。
「来年もさ。
当たり前みたいに一緒に笑ってたいじゃん」
その言葉は静かで、でも確かで。
「だから一番最初の瞬間は、
俺の隣にいてよ」
🌸が「うん」と答えると、
黒尾は満足そうに笑った。
「よし。じゃあ年越しそばは俺担当な」
「急に現実的」
「現実大事。来年もな」
軽口の奥に、ちゃんとした想いを隠すのが
黒尾鉄朗という男だった。