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ある日、僕は父上の命令で訓練場へ呼び出された。
そこにいたのは、杖を握るラナがいた。
「お兄様……」
不安そうに揺れる瞳。
そして、その隣には冷たい表情の父上。
「アレン。今日からお前はラナの訓練相手だ」
「……訓練相手?」
「的役だ」
言葉が出なかった。
「始めろ」
ラナの手が震えている。
「お兄様、ごめんなさい……!」
「……気にするな」
僕は目を閉じ、構えた。
次の瞬間、水球が胸にぶつかった。
鈍い痛みが走る。
続けて二発、三発。
ラナの方が泣きそうな顔をしていた。
「ラナ!”それ”に構うな。お前は次期当主として強くあらねばらなん」
父上の声が響く。
「……はい」
ラナの返事は小さかった。
僕は無理やり笑った。
「僕は大丈夫だ」
本当は、全然大丈夫なんかじゃなかった。
そんな日々が続き、二年が過ぎた。
別邸の庭で剣を振っていた僕は、遠くの訓練場にラナの姿を見つけた。
水流が渦を巻き、氷の槍が次々と的を貫く。
その技術は見違えるほど鋭く、完成されていた。
「遅い」
父上の声。
「……申し訳ありません」
ラナはすぐに次の魔法を放つ。
そこに迷いはない。
感情も、ない。
「ラナ……」
あの頃、無邪気に笑っていた妹は、もうそこにはいなかった。
今の彼女は――
まるで、笑い方を忘れてしまった人形のようだった。
――強くなって妹を守りたい。
その想いは日を重ねるほど強くなり、一方で僕が魔法を使えないことで、ラナ1人に父の期待を一身に背負わせてしまったという罪悪感が僕の心を蝕む。
訓練後、別荘への道を歩いていると後方より誰かが来る音がした。
「お兄様!」
それは慌てた様子のラナだった。息を切らしながら走ってきたのがわかる。
「あ、あの!…先ほどはっ!ーー」
「気にするなラナ。お前は悪くない…」
ラナの言葉を遮り、僕はその一言だけを残し再び歩き出した。
「はぁ….いつつ」
体をさすりながらベッドに横になった僕はふと昔のことを思い出していた。
〜〜〜〜
ラナはよく僕の部屋に忍び込んできては魔法の成果をみせてきたものだ。
「お兄様!今日ね、新しい魔法を覚えたの!」
無邪気な笑顔でそう言いながら、僕の前で小さな水の魔法を披露してくれた。
「すごいな、ラナ!まだ、儀式を終えて数日しか経っていないのに!」
「えへへ、お母様やお父様に褒めてもらえるかな?」
当時のラナは、父の期待に応えようとしながらも、まだ普通の少女らしい一面を持っていた。
魔法を成功させれば嬉しそうに笑い、失敗すれば少し涙ぐみ、それでも懸命に努力する――そんな姿を、僕は何度も見てきた。
〜〜〜〜
あの日々が遠い過去のようだ。
そんな日々が過ぎ、2年の月日が流れた頃。
別邸の庭で剣の鍛錬をしていた僕の目に、ラナの姿が映った 。
(今日は外での訓練なのか)
最近になり外での訓練も増え、別邸からは遠いが訓練の様子も見ることができた。
「ラナ…」
水が激しく渦を巻き、氷の刃が宙を舞う。精密に計算された軌道で的に命中し、砕け散る氷片が光に反射してきらめいた。
「――遅い!」
父の低い声が響く。
「水流を操る速度が足りん、それでは回避する隙を与えてしまうぞ。」
「……申し訳ありません」
「もう一度だ」
ラナの返事は淡々としていた。
彼女はすぐに魔力を練り直し、今度は鋭い氷の槍をいくつも作り出し一片の迷いなく 、的へと放った。氷槍は寸分の狂いもなく命中し、氷の破片が静かに散る。
「……よし、今日はこれで終わりだ」
父の言葉にはほとんど感情がなく、ラナもそれを当然のように受け止め、ただ静かに頷くのみ。
「ラナ……」
そこにはあの無邪気な妹の姿はなく、今のラナは――まるで感情を押し殺した人形のように、淡々と訓練をこなしていた。
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