TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

「ここは……」


アレンが目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった。

木と酒の香りが漂い、どこか陽気な笑い声が響いている。


身体を動かそうとすると、全身に鈍い痛みが走った。ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。どうやらベッドの上にいたらしい。


(ここは……どこだ?)


手すりを頼りに立ち上がり、壁に寄りかかりながらも声のする方へと歩を進めた。


階段を降り、賑わうホールに出た。すると、カウンターの奥にいた女性が微笑み、こちらを見ている。


「あら、ようやく目覚めたのね」


美しい金髪の受付嬢だった。


「……えっと、ここは?」


「ここは、【冒険者ギルド】さ」


背後から野太い声が響いた。振り向くと、ボサボサの髪をかきながら近づいてくる中年の男がいた。


「マスター、また二日酔いか?」

「こんにちは、マスター!」


「おぉ、みんなは元気そうで何よりだよ〜……っと、頭が痛ぇ……」


周囲の冒険者たちは愉快そうに笑っている。


そんな光景を呆然と見つめていると、別の男が訝しげに尋ねた。


「ん? マスター、そいつは?」


「あぁ、その子はアリアが連れ帰った子だよ」


その一言で、空気が一変した。


「……えっ!? そいつが!……ほぇ…」


「……あ……の……」


突然注がれる視線に、息が詰まるような感覚を覚えた。声が出しづらい。よく見ると、全身が包帯まみれだ。


「傷に触るから、ほどほどにしとけよ」


ギルドマスターはそう言い残し、奥の方へと消えてしまった。


(冒険者ギルド?どうやって、それよりまだ生きて…!)


すると、さっきまで騒いでた人達が次々と集まってきた。


「なぁ、お前アリアさんとはどういう関係なんだ?」

「あなた、どこからきたの?」

「傷はもう大丈夫なの?」ーーー


質問責めに合うなか、1人の少年がストップをかけた。


「ストーーップ!!みんな落ち着けよ。いっぺんに言われても答えらんないって。ほら、困ってる。」


「えっと、僕はいったい…?」


その少年はアレンがここにきた時のことを事細かに教えてくれた。聞けば、どうやらここに運ばれてから 三ヶ月以上 も眠り続けていたらしい。


「…えっ…そんなにっ…!?」


改めて自分の姿を見ると腕や体が以前より細くなり、体力も落ちているようだ。


「俺はカイル・ロギンス、お前は?」


明るい声がかかる。人懐っこい笑みを浮かべた少年だった。


「僕は……アレン・ア……」


その瞬間、脳裏に父の言葉がよみがえる。


『**お前は魔獣に襲われ、**死んだことにする


(あの言葉……もう、葬儀も終わってる頃かな?生きていたとしても、あの場所へは帰れそうにないな)


「ん?アレンか、よろしく!しっかし、アレンお前、あの傷でよく生きてたな!あの森で生き……帰る……てーー」


「……っ!」


全身の力が抜ける感覚とともに、視界が暗転する


ドサッ


「おいっ! ……だ…い…ぶかっ…!ぉいっ…!」


意識が遠のいていく。無理に動いたせいか、それとも……あの悪夢のせいか。


後に聞かされた話によると、ここは隣国『アイルスリンド王国』。


自分の故郷である『グランベルト王国』からは、丸一日かけてようやく到達できるほどの遠い国だ。


次に目覚めたとき。


(……誰かの話し声がする?)


微かに聞こえてくる低い声と、澄んだ女性の声。


まぶたをゆっくり開けると、視界に映ったのはギルドマスターと、受付嬢の人だ。何か話していたみたいだ。受付嬢の人はすぐに退室して行ってしまった。


「おっ!…やっと、起きたか。具合はどうだ?すまんな、うちの連中が。」


ギルドマスターが苦笑いしながら、声をかけてくる。


「……いえ…大丈夫です…」


意識ははっきりしているが、まだ頭がぼんやりしている。


「そういえば名乗ってなかったな。このギルドのマスターのグラム・ラングストンだ!」


そう言い、手を差し出してきた。慌ててその手を取り挨拶をした。


「僕はアレン……ただのアレンです。」


「…?、そうかよろしくな、アレン。まぁ、挨拶はそこそこにしてと。お前に客人がきてんだ。入ってくれ!」


扉に向かってそういうと、女性が1人部屋に入ってきた。


その姿はまるで空を映したような翠の瞳

燃えるような赤髪を腰まで流したポニーテール。

しなやかでありながら、鋭い威圧感をまとった佇まい。


彼女がそこにいるだけで、空気が引き締まるようだ。その彼女が静かに口を開いた。


「初めましてかしら。私はアリア・ヴァミリオン


「こいつが、お前をここまで運んで来たんだ。森で【ブラッディベア】に襲われているところだったらしいな!」


と豪快に笑いながら言うグラムの言葉が、さらに彼女の威光を際立たせる。


「……すみません、なにも覚えていなくて……でも、助けて下さり有難うございます」


アレンの丁寧な物言いにグラムとアリアは少し不思議そうにしている。


「それより、アレンお前どこかの貴族の子か?」


「えっ…!」


ドキッとした。


(そういえば、昔読んだ本で他の国では、貴族は畏怖の対象とともに、嫌われる存在だとか。 バレると厄介払い…いや、最悪の場合、殺されるかもしれない…!)


ゴクリッと生唾を呑む。


「…町外れの村に…薬草採取をしていて……えっと…っ…」


目を右往左往させながら話す僕をみて、何かを察したのだろう。


トントンッ


「まっ、彼にもなにかしら事情があるんでしょうし、詮索はしないであげましょ」


アリアは静かに微笑んだ。その眼差しはどこか試すようでありながら、わずかに優しさを含んでいるようにも見えた。


(この人は……何者なんだ?)


だが、この出会いが自分の運命を変えることだけはーーなぜか、確信できた。


それから、カイルが世話係として色々な事を教えてくれるようになり、 ギルドでの生活にも慣れてきた頃。


ギルドの庭で素振りをしているとーー。


「なぁ、アレン。今日クエストに行こーぜ!」


「何のクエスト受ける気?」


こういう時カイルは、なぜか討伐クエストばかりを選んでこようとするが、即却下。


「ちぇっ、つれねぇなー」


「まったく、いい加減諦めろよ。」


不貞腐れるカイルを横目に木剣を振る。


(……もう、あんな思いはごめんだ…)


アレンが頑なに討伐依頼を受けない理由、それは、 以前討伐クエストに行った時のことだ。


〜〜〜〜


今回のクエストは、町外れにある村で畑を荒らす猪の魔獣【ボア】の退治だ。


「なぁなぁ!ボアの肉って美味しいらしいぞ!」


「はあ…お前は呑気でいいなカイル」


「はぁ!?誰が呑気だ!」


そんな話をしながら、例の畑につき情報収集を行った。村人が言うには、体長150センチほどのボアが2匹森の奥からやってくるそうだ。


「いつ来るのか分からないが、見張っておこう」


夕暮れ時。


「……来た…!」


「やるぞ…! アレン! ……ん? アレン?」


暗く染まる空。魔獣の獰猛な瞳。


脳裏に焼き付いた、あの夜の悪夢が蘇る。


(なんで…! 体が動かない…!)


ボアの突進。地を震わせる足音。迫る殺意。


「くそっ! ……こっちだ、クソ野郎!!燃えろ【ファイアボール】!」


カイルの怒声が響く。炎を纏った火球が彼の手から弾丸のように撃ち出され、ボアの左目を焼いた。


ブヒィィッッ!


悲鳴を上げた魔獣がカイルに向かって突進する。


(落ち着け…大丈夫だ…あの日とは違う。カイルもいる…!)


深く息を吸い、震える指に力を込める。


「……よし!」


ドドドドッッ!


片目を焼かれ、怒り狂ったボアが地を砕く勢いで襲いかかる。


「うおっ! あっぶねぇ!」


「すまない、遅れた! もう大丈夫だ…!」


「ったく、待たせやがって! ……よっしゃ! やってやろうぜ!」


カイルが火魔法で牽制し、アレンが素早く踏み込む。


剣閃が月光を反射し、ボアの喉元を正確に捉える。


ザシュッッ!


魔獣がバタリと倒れた。


「よっしゃー! やったなアレン! これで美味い肉が食べれるぞぉ!」


「そうだな。無事終わって——」


——その瞬間、背後から殺気。


ドドドドッ!


「……っ! 後ろだ、アレンっ!」


カイルの叫びと同時に、強引に突き飛ばされる。


「ぐっ…!」


地面に転がったアレンが目にしたのは、吹き飛ばされるカイルの姿だった。


「カイルっ!!」


——ゴッシャアァァッ!!!


鈍い衝撃音とともに、カイルの身体が地面を転がる。口から鮮血を吐き、息が詰まるような呻き声を上げた。


「っ…カイル!? くそっ……!!」


握る剣に力がこもる。


一気に距離を詰め、剣を振り下ろした。


ザシュッッ!!


刃が肉を裂き、ボアの巨体が崩れ落ちる。


……なぜ、こんなにあっさり倒せた?


よく見れば、ボアの両目は完全に焼かれていた。


(カイルが……吹き飛ばされる瞬間に…?)


「カイルっ! おいっ!!」


血が止まらない。


「くそっ! すぐ村に!」


村の医者は応急処置を施してくれたが、表情は険しい。


「命は繋いだが、右脚と肋骨が折れている。早く街の医者に診せたほうがいい」


「……っ…はいっ! ……ありがとうございました!」


悔しさと焦りを抱えながら、アレンはカイルを背負い、夜の道を駆けた——。


(ギルドには凄腕の治癒魔法使いがいたはずっ!早く帰らないと!)


アレンは魔獣と出会さないことを祈りながら、必死に歩を進めた。

長い道のりだったが、ようやく見えてきたギルドの建物。彼の体力も限界に近く、息を切らしながらも足を踏み出す。


「はぁ…はぁ……だれかっ…!」


ギルドの中に入ると、受付嬢が驚きの表情で駆け寄ってきた。


「…っ!?どうしたのその怪我っ!?」


ギルド全員の視線が集まる。アレンは言葉を発することすらできず、ただカイルを抱えながらその場に崩れ落ちた。


「マスター!早く来て!!…カイルとアレンが!」


受付嬢はすぐにグラムと治癒魔法使いを呼んだ。


数秒後、グラムが急いで駆け寄り、治癒魔法使い4人がその後ろに続いてきた。治癒魔法使いの一人がアレンとカイルを見つめ、驚きの表情を浮かべた。


「何事だ!…っ!」


「この怪我は…!…っ!…ここで治療するぞ!」


ギルド全員が集まり、各々出来ることをしている。アレンはというと、ただ 静かに震えていた。


(もしカイルが目を覚まさなかったら……なぜあの時っ!)


治療が続く中、アレンは震える手を握りしめ、 その恐怖に心が押しつぶされそうになっていた。


「アレン、落ち着いて。カイルは強い子だよ。きっと大丈夫。」


アリアが優しく寄り添う。しかしアレンはうつむき、言葉にならない声を漏らす。


「僕のせいでっ…!カイルが……」


「アレンが悪いわけじゃないわ。誰だって、命を賭けて仕事をこなしているの。あまり自分を責めちゃダメよ…」


アリアの言葉は温かいが、アレンの中ではどうしても自分を責める気持ちが消えなかった。


数時間後。


ギルド内は静まり返り、ようやく治療が終わったみたいだ。

その時、カイルが目を覚ましたのだ。アレンは堪えきれず、カイルに抱きついていた。


「ここは…?そうか俺。って、痛ぇ!まったく……、情けねぇ顔しやがって……!」


カイルが弱々しく笑みを浮かべながら言った。その声にはまだ力強さが戻っていないものの、確かな生気が宿っていた。


「カイル、良かった…!本当に良かった…!」


アレンの声は震えていた。カイルは少し顔をしかめると、冗談交じりに言った。


「俺はそう簡単には死なねぇよ、そんなしけた面すんなって!……あたたぁ」


アレンは安堵し、カイルの無事を確認できたことに心から感謝した。それでも、まだ心の奥で何かが引っかかっていた。


「でも…僕のせいで、カイルが…」


アレンが弱音を吐くと、カイルは真剣な面持ちでゆっくりと口を開いた。


「…アレン、だったら強くなれよ。次はお前が俺を助けられるくらいに…」


その言葉にアレンは驚いた。そして、その言葉がどこまでも力強く、カイルらしいと感じた。


「うんっ!…強くなる…!」


カイルと拳を合わせ、心の中で強く決意した。


(これ以上、自分の弱さで、大切な人が傷つくのを見たくない。)


カイルは少し疲れた様子で目を閉じ、再び寝息を立て始めたが、アレンはその姿を見守りながら、決意を新たに心に刻んだ。


〜〜〜〜

この作品はいかがでしたか?

9

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚