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「う……」
僕が目を覚ますと、見慣れない木の天井がぼんやりと視界に広がっていた。窓からは温かな陽光が差し込み、微かに木と酒の香り、そして陽気な笑い声が響いている。
身体を動かそうとすると、全身に鈍い痛みが走るが、ゆっくりと体を起こし周囲を見渡す。どうやらベッドの上にいたらしい。
(僕は…どうして、生きているんだ?)
大熊に受けた傷を見ると身体中に包帯が巻かれていた。
(いったい誰が……それに、ここはどこなんだ)
なんとか手すりを頼りに立ち上がり、壁伝いに声のする方へと歩を進めた。
階段を降りると賑わう広間に出た。すると、カウンターの奥にいた金髪の女性が驚いた表情でこちらに駆け寄ってくる。
「よかった、ようやく目覚めたのね!」
「…ここは?」
すると、背後から野太い声が響いた。
「ここは【冒険者ギルド】、荒くれ供の溜まり場さ…ふぁぁ」
振り向くと、ボサボサの髪をかき上げあくびをしながら近づいてくる中年の男性がいた。
「マスター、また二日酔いか?」
「こんにちは、マスター!」
「おぉ、みんなは元気そうで何よりだよ〜……っと、頭が痛ぇ……」
周囲の冒険者たちは愉快そうに笑っている。
そんな光景を呆然と見つめていると、別の男が訝しげに尋ねた。
「ん? マスター、そいつは?」
「…?あぁ、こいつはアリアが連れ帰ったガキだ」
その一言で、空気が一変した。
「……えっ!? そいつが!……ほぇ…」
「生きていたのか!?」
突然注がれる視線に、息が詰まるような感覚を覚えた。
「傷に触るから、ほどほどにしとけよ〜」
マスターと呼ばれた人はそう言い残し、奥の方へと消えてしまった。
(冒険者ギルド?どうやって、それよりあの状況で生きて…!)
すると、さっきまで騒いでた人達が次々と集まってきた。
「傷はもう大丈夫なの?」
「あなた、どこからきたの?」
「なぁ、お前アリアさんとはどういう関係なんだ!」
興味津々とばかりに質問が飛び交う中、茶髪の少年が制止をかける。
「待て待て!一気に聞くなって!」
「あり、とう。僕はいったい…?」
「まぁ待て、飯でも食いながら話してやるよ!」
その少年は僕がここにきた時のことを事細かに教えてくれた。聞けば、どうやらここに運ばれて三ヶ月以上も眠り続けていたらしい。
「…えっ!そんなにっ…!?げほげほ」
驚きのあまり食べていたものが詰まりかけてしまった。
(そんなに時間が…。確かに、身体がだるいのもあるが以前より腕が細い気がするな)
「お!そういえば自己紹介がまだだったな!俺は カイル・ロギンス 、このギルドで最強になる男だ!!」
「…..」
あまりの勢いに呆気に取られてしまった。自信満々な自己紹介が不発に終わったからか、沈黙に耐えかねたのかカイルは咳払いをして話を続ける。
「…っと、お前は?」
「僕は……アレン・アーー」
その瞬間、脳裏に父の言葉がよみがえる。
『お前は魔獣に襲われ、死んだことにする』
あまりに衝撃的な出来事で、思い出すだけでも寒気がする。
「ん?アレンかよろしくな!しっかし、アレンお前、あの傷でよく生きてたな!あの森で生き….帰る…..て….」
(あれ?声が遠のいて……ダメだ、力が…)
全身の力が抜ける感覚とともに、視界が霞む。
ドサッ
「え?おいっ!だい…ぶかっ…!ぉいっ…!」
( 無理に動いたせいか、それとも……あの悪夢のせいか…)
ここが、隣国『 アイルスリンド王国 』ということを知ったのは――もう少し後のことだった。
その日の夕暮れ時ーー
(……誰かの話し声がする?)
微かに聞こえてくる低い声と、澄んだ女性の声。
瞼をゆっくり開けると、マスターと呼ばれていた男性と金髪の受付嬢の人が何かを話してたみたいだ。
「ん…」
「ーー!!目が覚めたのね、良かった!」
「おっ、起きたか。具合はどうだ?…すまんな、うちの連中が!」
マスターが苦笑いしながら、声をかけてきた。
「……いえ」
まだぼんやりとしている頭を起こしながら2人の方に視線をやる。
「マスター、では呼んできますね。」
「ああ、頼む」
そう言い、受付嬢は退室していった。
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺はこのギルドのマスターをやってるグラム・ラングストンだ、よろしくな!」
そう言い手を差し出してきた。僕はその手を取り挨拶を返した。
「僕はアレン…ただのアレンです」
「…..?そうかよろしくな、アレン。まぁ、挨拶はそこそこにしてっと、お前に客人がいるんだ。入ってくれ!」
マスターが扉に向かって呼びかけると、いつの間にか来ていた1人の女性が部屋に入ってきた。
「初めましてかしら。私はアリア・ヴァミリオン 、よろしくね!」
彼女の空を映したような翠の瞳が僕を捉える。さらに燃えるような赤髪がしなやかでありながら、静かな圧をまとっていた。
「こいつが、お前をここまで運んで来たんだ。感謝しとけよ!見かけた時、森で【ブラッディベア】に食われるところだったらしいからな!まったく運が良いのか悪いのか、がっはははは!!」
豪快に笑いながら言うグラムの言葉が、さらに彼女の威光を強くする。
「……すみません、なにも覚えていなくて……でも、助けて下さり有難うございます!」
「…..」
僕の言葉にグラムとアリアは少し不思議そうにしている。
「アレンお前どこかの坊ちゃんか?」
「っ…!?」
唐突な質問に、心臓が握られたかのような衝撃がはしる。
(そ、そういえば、昔読んだ本で他の国では、貴族は畏怖の対象とともに嫌悪な存在だとか。 バレると厄介払い…いや、最悪の場合、処刑されるなんて話も…!)
ゴクリッ
この時、僕でさえ呆れるほどの下手な誤魔化し方をしてしまう。
「い、いや…普通の家ですよ!村で…薬草を…」
慌てた様子で目を右往左往させながら話す僕をみて、何かを察したのだろう。
トントンッ
「まっ、彼にもなにかしら事情があるんでしょうし、詮索はしないであげましょ」
アリアは静かに微笑み話を進めた。
「ああ、そうだな!まぁ、これからここで過ごす事になるだろうし何か困ったことがあればこのアリアに聞くと良い!」
「は、はい」
グラムの自慢げな物言いに拳を構える人がいた。
コツン
「あだっ」
「そこは、俺がって言ってくださいマスター」
やれやれといったアリアの態度に少しばかり緊張が解けた。
(よ、よかった、ここの人達は悪い人たちではなさそうだ)
胸を撫で下ろし、優しさを滲ませるアリアに微かに感じるものがあった。
(この人は――何かが違う)
理由は分からない。
けれど、
その出会いが――
僕の人生を変えることになると、 そのときの僕はまだ知らなかった。
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