ツバメと白昼夢
ーattentionー
・挫折、スランプなどの表現があります。
・なっっっっがいです。
・その他自衛をお願いします。
そんじゃ、いってらー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カリカリ…ペラッ
静かな部屋に響く、
鉛筆が紙と擦れる音と、
原稿用紙がめくられる音。
俺は、この音が好きだった。
「ここはこうして…うん、その方がいいな」
すらすらと文字が並べられていって、
物語が少しづつ出来ていく、
その感覚が、とても好きだった。
「…ここは、、どうしようかなぁ」
「……こんなんじゃダメだ、ここはもっと、、」
でも、次第に筆が進まなくなっていった。
それに追い討ちをするように、
自分の理想とする小説と、
自分が生み出す小説の格差を
嫌という程感じられた。
それでも俺は小説を書き続けた。
「トラゾー、お前はいつまでそんなことをしているんだ?」
「母さん、貴方の成績が心配よ。」
だが、親はそれを許さなかった。
前までは応援してくれる近所のお兄さんや友達がいたが、
もうそろそろ僕は引越しをすることになっており、
その人達ともお別れになる。
そして、1つの疑問が浮かび上がった。
「じゃあ、僕が小説を書く意味って…?」
俺は、小説を書く意味を失った。
俺が小説を書いても、誰も喜んでくれはしない。
「じゃあ、俺は小説書くのをやめるべきなのかな…」
ぐるぐると、頭の中に今までの記憶が蘇る。
呆れていた父さん、
心配していた母さん。
どちらにも迷惑をかけているし、
心配をかけている。
「ッ…やっぱやめよう、誰のためにもならない小説書くなんて。」
…俺は小説が書かれたノートを、
くしゃくしゃに丸めて、机の中にしまった。
「……さよなら、俺の夢。」
そして、俺__トラゾーは、
小説を書くのを諦めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
__ピィピィ、ピチチ…
2羽のツバメが窓辺で戯れている声で目が覚めて、
まだ眠気が抜けない体を起こす。
「ん…、昔の夢かぁ……。」
昔は、小説を書くのが好きだった。
だが、物語の佳境まで書いて、
自分の才能のなさと
自分が小説を書く意味の無さに気がつき、
書くのをやめてしまった。
「…よし、気晴らしに散歩でもしますかぁ〜!」
朝だと言うのに気分が重たくなってしまったので、
気分転換に、近所の公園へと出向くことにした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ぽつ、ぽつ、ぽつ
ぴちゃっ、ぴちょん
静かな朝の公園には、
少し雨が降っていた。
でも、なぜか全く鬱陶しいことはなく、
むしろ心が洗われるようで、
なんだか心地よかった。
「……あれ、この時間に散歩なんて珍しいね、おにいさん。」
ぼーっと公園を歩いていると、
東屋の中にいる1人の少年が話しかけてきた。
俺よりずっと、ずぅっと年下に見えるし、
きっと小学生くらいだろう。
「君こそ、まだ小さいのに散歩だなんて珍しいね。」
「あはは、そうかなぁ?」
少年は少し笑って、
ゆったりと公園を見渡した。
その様はなんだか大人びていて、
なんだか、自分よりもずっと大人に感じる。
「この時間帯に来るとね、筆が進むんだぁ」
「……君は絵を描いてるの?」
そう問いかけると、
少年はふるふると首を横に振った。
「小説、書いてるんだ。」
「……小説を…?」
少し驚きながらそう返すと、
少年は微笑みながら頷いた。
「小説を書くのが好きなんだ。」
そう言って、
少年は空を見上げた。
「なんの変哲もない、いつもの空だよ。」
「だけどね、小説に書き起こすと、それは一気に変わるんだ。」
「紫がかった朝焼け空、まだ薄く広がっているうろこ雲。」
「その下には朝露を纏う、春の草花。」
「__どう?なんだか、いつもの景色も素敵に思えてこない?」
その文才に感嘆して、
思わず息を呑み、少年に言った。
「君は、君は小説家になれるよ…、」
「いや、脚本家も向いてるかもしれない…!!」
興奮気味に早口でそう言うと、
少年は綻んだ笑顔を見せて、こう言った
「僕は脚本家になりたいんだ、」
「父さんと母さんはそれを反対してるけど、僕はなりたいんだ。」
その姿に過去の自分を重ねてしまい、
咄嗟に励ましの言葉をかけてしまった。
「大丈夫だって、君ならなれるよ!」
「だってそんなにも文才があるんだから、」
「君ならプロを目指せるはずだよ!」
そこまで言ったところで、
俺はハッとした。
これは俺が掛けてもらいたかった言葉だ。
俺が、俺が目指したかったことだ。
__こんなの、俺が叶えられなかった夢の押し付けじゃないか。
「__嬉しい、ありがとう!」
ぐるぐると巡る思考を断ち切るように、
その子の笑顔が俺の目に突き刺さった。
「……あ!もう帰るね、僕、塾あるから!」
「またね、おにいさん!」
そう言って少年は無邪気に手を振って、
走り去っていった。
「…俺も、帰ろうかな」
1人そう呟いて、俺は帰路に着いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ピピピッ…ピチチチ…
ピヨッピヨッピヨッピヨッ…
目が覚めて窓辺を見ると、
また雨が降っていた。
その雨から逃れるように、
2羽のツバメは窓辺で巣作りをしていた。
「…ツバメも大変だなぁ。」
一言そう零して、
俺はまた、あの公園に散歩をしに出かけた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「お、また来たんだね、おにいさん。」
少し嬉しそうに微笑み、
いつものように東屋にいる少年は、
俺の手を引き、東屋に入らせた。
そこからしばらく、
少年は小説を書きながら俺と話しており、
すらすらと小説を進めていた。
だが急に手を止め、俺に話しかける。
「…ねぇおにいさん。」
「どうしたの?」
「愛って、なんだと思う?」
「…愛……か、、」
難しい質問だ、
『愛』の定義とは、なんなのだろうか。
人を慈しむこと?
人を大切に思うこと?
__いいや、なんだか、
それだけじゃ愛を語るには薄っぺらい気がする。
「…ね、おにいさん」
「いつか…、いつか、愛がなんなのか分かったら教えてよ。」
「……分かった。」
しばらくの沈黙の後、
ふと、少年に問いかける。
「…ねぇ、なんて小説書いてるの?」
「ん〜?『白昼夢』ってタイトルの小説書いてる。」
「へぇ、白昼夢?」
あまり普段使いはしないような聞きなれない言葉に、
思わず聞き返す。
「うん、白昼夢。」
「なんで白昼夢ってタイトルなの?」
そう問いかけると、
少年は悪戯っぽい笑顔を浮かべ、
こう言った。
「出来てからのお楽しみ!」
えぇ〜っ、と不満気な声を出しながら少年の手元を覗くと、
もう物語は佳境に入っているようだった。
「あっ、勝手に見ないでよぉ〜!」
「ごめんごめん、気になっちゃって、笑」
その後もしばらく喋って、
いつもの時間に俺らは別れた。
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ピィッピィッピィッ…
ピヨッピヨッピヨッピヨッ…
沢山の小鳥の声で目が覚めて、窓辺を見ると、
2羽のツバメは雛鳥を産み、
雨宿りをしていて、
ツバメの雛は餌を貰おうと必死に口を開けていた。
その様子を見た母鳥は、
ぽつぽつと雨が降る中、餌を探しに飛び去っていった。
「……愛、、」
これが、愛なのだろうか。
…だとしたら、少し愛について、分かったかもしれない。
「自分を犠牲にして、自分を削ってまでして、他の人を慈しむ心…」
それが、愛する心なのかもしれない。
愛する人と一緒に居ると時間が早く経つ気がするのも、
自分のことを削っているからではないだろうか。
「__行こう、あの子の所へ…!!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
外に出るともう雨は止んでおり、
空は青よりも青く、澄んでいた。
「はぁ、っ…はぁ…ッ、」
公園に駆け込み、
いつもの東屋に向かう。
「…っあれ、、?」
東屋には人影がなく、
いつもの少年はいなかった。
『おにいさんへ』
その代わりに、
小さいメモのような物がイスに置いてあり、
風で飛ばないように小石が乗せられていた。
「…なんだろう、、」
そっと小石を退かし、メモを手に取る。
__おにいさんへ
つづき、かいてね。
ーーーより。
「…そうか、少年は__」
もう俺には、分かった気がした。
短いこのメモの意味も、
少年の正体も。
「…帰ろう。」
俺は急いで駆けて、
家へと戻った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺は家に入るなり、
家の階段を駆け上り、
自室のドアを思いっきり開け放つ。
そして俺は、一直線に机に向かった。
ガラガラガラ…
引き出しを開けて、
俺は、あのぐちゃぐちゃに丸められた
ノートを取り出した。
「…あった。」
そう呟き、
ノートを丁寧に広げて、
ノートの表紙に付いた埃を払う。
綺麗になり、文字が見えるようになったノートの表紙には、
微かに、“白昼夢”
と、書かれていた。
そのノートはあの頃のまんま、
佳境まで書いて、
そのまま放置されていた
__ピチチッ、ピヨッ
バサバサッ
窓辺の巣から、
ツバメの雛鳥達…いや、
もう成鳥のツバメ達が飛び立った。
「…よし。」
__続きを書こう、
今なら書ける気がするから。
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