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「行ってきます。お父様、お母さま」
「気をつけてね」
「困ったことがあったらすぐに言うんだぞ」
少しさびしそうに笑う両親に、私は笑顔でうなずく。
「はい」
私、スティファニー・エル・ルブランは、今日、この国の王太子に嫁ぐ。
今まで何人もの方が婚約を申し込んでくれたけど、お父様がお認めにならなかったので、今まで婚約者ができずにいた。
けれど、今から一週間前。
私のもとに一通の手紙が届いた。
純白の封筒に、薄桃色の封。
まぎれもない、王族からの手紙だった。
「……これは」
手紙を受け取った私は、すぐにお父様のもとに行った。
そこで初めて、王太子様が私に婚約を申し込んだことを知った。
「お前はどうしたい? スティファニー」
私の家はこの国の要といっても差し支えない、王族とかかわりも深い商会。
そんな商会の娘である私に、王族からの婚約の申し出。
こんなの、受けない手はない。
「お受けいたします、お父様」
私はさっそく、返信の手紙を書いた。もちろん、「お受けいたします」と書いて。
そして、一週間後に城に来てほしい、と言われた。
その一週間後が、今日。
私は馬車に乗り込み、お城へ向かっている。
ぼー……っと窓の外を眺めていると、向かいに座っている女性が、私の顔を覗き込んだ。
「どうかなさいましたか? お嬢様」
「し、シフォン~っ!」
私は女性--メイドのシフォンにぎゅうっと抱きつく。
「まあ! どうなされたのです? お困りごとですか?」
やさしく背中をさすってくれるシフォンに思わず腕の力を込めてしまう。
「う、うぅ~……」
「ほら、話してみてくださいませ。このシフォン、必ずや力になりますゆえ」
シフォンは私が小さいころからずっと一緒にいた大切な友達。
私の弱いところもなんだって知っている。
「お、王太子様は……」
シフォンからはなれ、座りなおした私は話し出す。
「王太子様は、なんで私を選んだのかなぁ? 私は次女だし、なによりあんなに完ぺきなお姉さまがいるのに!」
私はルブラン家の次女で、長女のレイチェルお姉さまは360度、どこからどう見ても完璧。
そんなレイお姉さまは今、学校の研修旅行中。
……ハッ! もしかしたら、あの手紙は私宛じゃなく、レイお姉さま宛だったのかも!
「そんなことはございませんので、安心してください」
安心できないよ、シフォン!
あれ、もしかして口に出てた……?
「バッチリでしたよ、お嬢様」
う、うぅぅ……恥ずかしい。
「それより、先ほどの質問ですが……何度もお答えしております通り、お嬢様がお気に召したのでしょう。それ以外、考えられません」
「で、でも、勘違いだった、ってことは……」
「あの手紙にはハッキリ、『スティファニー嬢へ』と書かれていたではありませんか」
そ、そうだけどぉ……。
「お嬢様、いつまでもグズグズなさっていてはいけません! あなたは未来の王妃なのですよ!」
「そ、そんなの可能性の一部じゃん! 王太子様が仮に、お亡くなりになられたとして、」
「その場合は、お嬢様が女王となるだけです」
うぐっ。
「それに、お嬢様はセレーネ様の血を引いているではありませんか」
セレーネ様。
この国を作ったとされる、巫女。
そのセレーネ様の血を引くのは、私の家、ルブラン家。
ルブラン家の女の子は代々、巫女になることが多く、聖女になる人だっている。
「わ、私は魔法が使えないし……」
巫女の血を引く一族はいくつかあり、その一族は魔法が使える。
けれど、私は魔法が使えない。それどころか、魔力が一切ない。
こんな私が巫女になれるかもしれないだなんて、おこがましい!
「まだそれは、目覚めていないだけかもしれません」
シフォンが私の手を握る。
まっすぐな瞳と、視線がぶつかった。
「シフォンには見えます。あなたがこの先、立派になってこの国を背負う姿が。ハッキリと目の裏に映りまする……」
「シフォン……」
私は心が弱いし、ヘニョヘニョだし、魔法も使えないし。
でも、シフォンが言うんだったら、そうかもしれない。
いつの日か、私が立派になっているかもしれない。
そう思ったら、少しだけ前向きになれた。
夫となる王太子様の顔は見たことがないけど。
名前は聞いたけど、忘れちゃってても。
それでも、もしかしたら私はいつか……。
「お嬢様、城が見えてきました……!」
私は、今度こそ、大切な人を守れるのかもしれない。
コメント
1件
第3話、読み終えました!スティファニー嬢の不安がめちゃくちゃ伝わってきて、シフォンが「あなたの立つ姿が見える」って言ったところ、じんと来ました。巫女の血筋なのに魔法が使えない、という設定も気になるし、まだ見ぬ王太子様との関係もどうなるのか……。完璧な姉との比較に悩む姿に感情移入しちゃいました。続きが楽しみです!
自転車和尚
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