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鉄板の上でステーキ肉の焼けるいい匂いが、鼻先に薫る。
焼き上がり程良く焦げ目がついたステーキがお皿に盛られると、待ちわびた気持ちで手を合わせて口へと運んだ。
「おいしーい」
まさにほっぺたがこぼれ落ちそうで、思わず片手で頬を押さえると、
「君は、本当に美味しそうに食べるな」
微笑ましげに彼が口にした。
「だって本当に、とっても美味しいんですもの」
「ああ、そうして素直に喜んでもらえると、私まで幸せな気持ちになるよ」
お料理を堪能しつつ、彼とそんなおしゃべりに花を咲かせていると、
「お二人に、サービスがあるのですが」
ふいにスタッフの方から、そう声をかけられた。
「……サービス、ですか?」
急に何だろうと、彼と顔を見合わせて首を傾げた。
「ええ、蓮水様には、いつもひいきにさせていただいておりますので、是非お幸せそうなお二人に、カクテルのサービスをさせていただきたいと思いまして」
「カクテルか、いいね。ありがとう、いただこうか」
お店からの嬉しいご厚意に、彼が笑顔で答えて返した。
「こちらは、キールというカクテルで、白ワインをベースにカシスリキュールを加えたものです」
「キールですか?」鮮やかなカシスベリーの紅色をしたグラスの中身を眺めた。
「ええ、実はカクテルには、花言葉のようにカクテル言葉というものがありまして、このキールは、『最高の巡り逢い』という意味があるのです」
カクテルを出してくれたバーテンダーさんにそう説明をされて、「そんな言葉が……。だけどカクテル言葉なんて、初めて聞きました」と、少し驚いて呟いた。
彼が「ああ」と頷き、カクテルグラスを片手に掲げると、
「私も聞いたのは初めてだ。だが、『最高の巡り逢い』という言葉は、本当に私たちにぴったりだな。ありがとう」
私の肩をスッと抱き寄せて、バーテンダーさんに軽く会釈をした。
そのスマートで紳士的な仕草に、つい見とれてしまう。
「……この色、今の君の頬のようだな」
グラスの中身を一口飲んだ彼が、喉元でクスリと笑って口にする。
「……あっ……」
彼に見とれて自分でも知らぬ間にほっぺたが赤くなっちゃってたんだと、慌てて手で押さえようとすると、
「隠さないでいい。可愛いから」
不意討ちで、頬にふっと唇が寄せられて、ますます頬が真っ赤になったのは言うまでもなかった。