コースの締めのデザートには、バニラアイスの添えられたティラミスが出てきて、最後まで残さず味わい尽くした。
「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
「ああ、そうだな。だがアルコールも割りと飲んだことだし、帰りはタクシーにしようか。また寝てしまったりして、君に迷惑をかけても困るからな」
そう言って笑う彼に、このホテルでのいつかの夜のことが思い出されると、口元からふふっと小さく笑みがこぼれた。
あの頃はまだ彼と付き合うことになるなんて、思いもしなかったのに……。
差し出された彼の腕に右手を絡めると、今こうして二人でいられることが、夢のようにも感じられた。
ホテルのフロントで手配をしてもらうと、やがて正面玄関前に黒塗りのハイヤーが横付けされた。
「君は、奥へ座るといい」
「はい」と、先に乗り込むと、彼が隣へ座り、後部座席で肩を寄せ合うと、彼のつけているムスクのトワレがふわりと鼻先に香った。
──走り出した車の中で、シートに置いていた手に、彼の手がふっと上から重ねられる。
「あっ……」と、小さく声が漏れると、「こうしていてもいいかな?」と、低くひそめた声で耳に囁きかけられた。
黙ってこくんと頷く。
決して強く握ったりはせずに、そっと私の手を覆うように添えられた彼の手の平から、優しい温もりが伝わってくる。
「手、あたたかいです……」
「うん、私もあたたかいよ。君とこうしていると、とても安らげる」
同意するように、再びこくんとだけ頷く。
座席に置いた手を動かすことなく、彼と手を重ね合ったままで、じっと身じろぎもしないで車に揺られた……。
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