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「お慕いする方をどのようにお誘いすれば、一緒に夏祭りに行って下さるのでしょうか?」
いや、知らんがな。
まるで生徒のように目の前の椅子に座るこの男は歴とした教師である、というか担任である。
兎にも角にも、この男の言う『夏祭り』とは黐躑躅〈もちつつじ〉学園高等学校が建立されているここ映山紅〈えいさんこう〉地区で毎年開催される『映山紅祭』を指しているのであって、私はこの誘いを絶対に受ける訳にはいかないのである。
「方策は皆無です。諦めてください」
「では聞き方を変えましょう。成瀬さん、私と映山紅祭でデートして頂けませんか?」
「お断りします」
「納得しかねます。何か不都合な点でもお有りでしょうか?」
大アリじゃい。アンタとデートの時点で大アリじゃい。はぁ…この男の説得には骨が折れる。
「映山紅祭は、友達と一緒に行く予定なんです」
「先約ですか…」
「はい(これを見越して先手を打っておいたのだ…諦めんしゃい!)」
「ふむ。もしや…そのお友達というのは西田詩遥さんではないですか? 」
「そうですけど、何か?」
「分かりました。…西田さんには申し訳ありませんが、今から成瀬さんを譲って頂くようお願いして参ります」
「はぁ、そうですか…って、なるワケないだろ!!!!どんっだけ諦めが悪いんですかっっ!!」
やばい。…西田なら、あっさりと譲ってしまいかねない(というか、ニヤニヤしながら快諾しそうである)。
「人には、どうしても譲れない時があるのです」
「今じゃねぇっっ!!!
絶対に今じゃねぇ!!!」
「成瀬さんの方こそ往生際が悪いと思います。お忘れですか?…私も、成瀬さんの『友達』だということを。西田さんと私とでは何か違いが有るとでもおっしゃるのですか? 」
「そっそれは…」
「もしくは…私のことを『意識』なさっているとか」
「はぁっ!?」
「おや、存外当たっていらっしゃるのでは?」
「誤解しないでくださいっ!!」
「…誤解でしたら正解にしてしまうまで、ですが」
「はっ!?っえ!?ちょっ!!!!」
じりじりと後退した私の背中に黒板が当たる。あわわ、こーゆーときって叫ぶんだっけ?急所蹴るんだっけ?顔を背けてみるが急接近する担任に効き目は無い。
やむなしと右足に意識を集中させたそのとき、
「何やってんだ?」
教室の入り口から聞き馴染みのある声が…って七宮先生!?
四角い眼鏡の奥の切れ長の目は訝しげにこっちを伺っている。
まずい!と視線を戻すと、鼻先が触れそうなほど近くに担任の顔があった。
「@#*\(+€\)*€\(<+\)@¥@€%!??!?」
在らん限りの力で担任を押し退け、大袈裟に距離を取る。
何してくれてんじゃコイツはっっっ!!!!!しかも七宮先生の前でっっ!!!!!
ありえないっっっ!!!!!
…なんて慌てふためくと七宮先生に余計怪しまれるので、乱れた髪を手櫛で整えつつすぐに冷静さを装う。
「あ、七宮先生。どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「それはこっちの台詞……そこでくっついたトコ、ばっちり見ちまったんだけど」
「なっ何かの見間違いではー」
「見間違いではございません」
いらんこと言うな変態教師っっっ!!!!!!
「つまり…あんたらはそーいう関係なのか?」
「違います」
「じゃあ、こんな所で何してたんだ? 」
どうやら上手く誤魔化すことはできないらしい。シラを切ってもあの変態教師が余計なことを言い出すのは明白だし。はぁ…ここは正直に話すのが無難かもしれない。
「和住先生に頼まれて恋愛のアドバイスをしてるんです」
「は?」
「ほら〜和住先生ってご結婚されてないじゃないですか〜そろそろいい年齢ですから彼女をつくって結婚したいそうなんです〜〜困っている様子をほっとくこともできなかったので私がお役に立てることをしようかな〜とアドバイスしていただけで、何にも無いんですよ〜ははははーー」
「いいえ、私が結婚していただきたいのは成瀬さー」
「ああああーーそぉいえば、和住は映山紅祭に一緒に行く人を探してるんでしたっけ????あっ、丁度良い。七宮先生と一緒に行ってみてはどうでしょうか?ねっ?七宮先生っ!」
「あ?行くわけないだろ。それに、俺たち教員は映山紅祭を見て回ることは出来ねぇ」
「どういうことですか?」
「当日は交通整理とか生徒の補導とかをするのが黐躑躅学園の伝統だからな。そんなヒマねぇってことだ」
なぬ?
ということは…最初から映山紅祭を私と一緒に回ることなど不可能ではないか。
確信犯め、と担任を横目で睨んでみるも当の本人はその無機質な表情を崩す素振りさえ見せない。
…まぁ結果的に担任からの誘いを断ることに成功したし、これにて一件落着といったところだろう。
「そうですか〜!先生方も大変ですね!私も補導されないように祭が終わったら真っ直ぐ家に帰りますのでっ」
「そうしてくれると助かる」
「ですが成瀬さん、祭が終わった後はー」
「ではそろそろ私は帰らせてもらいますね!」
担任の言葉を遮りつつ、七宮先生に挨拶して私は教室から脱出した。