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この世界に来て、やっとぐっすりと眠ることができた。


起きてからレトの様子を確かめ、太陽の光を浴びようと思い、外に出る。


濃い霧で周囲がよく見えない。


でも自然の中でしか感じることのできない朝の清々しい空気は気持ちのいいものだった。



左手で右腕を支えて体を伸ばし、今日も頑張るかっと心の中で気合を入れた時、近くの茂みが揺れる音が聞こえた。



「セツナ? ライさん? それともノウサ様?」



遠くの景色がはっきりと見えない中、音が聞こえてきた方へ向かい、茂みをそっと掻き分ける。



「あれ……。誰もいない……」



また動物でも来ていたんだろうか。


それとも、誰かここに来て帰って行った……?



首を傾げた後に小屋の中に戻り、囲炉裏の前に座りながらセツナが来る時間を待った。


今日からクレヴェンでの仕事が始まる。


何の仕事をさせられるか分からないけど、私とレトと馬を助けてくれた恩を返すために、どんな作業内容でもやるつもりだ。



「かけら、いるか?」


意気込んでいるとその時がやってきた。


セツナがドアを開けて小屋の中に入ってくる。


「おはよう、セツナ。さっきも来なかった?」



「んー? 今来たばかりだぞ。

まさか、かけら達以外にも侵入者がいるのか?」


「私が一緒に来たのは、レトと馬だけだよ。他に仲間はいないから」


「そうか……。まぁ、いい。

その男の様子は?」


「まだ苦しそう。

セツナの言うとおり、数日はゆっくりしていた方がいいのかもしれない」



「早く良くなるといいな。

かけらの夫の体調が」


「おっ、夫……!?

違う、違う! 四日前に知り合ったばかりだし」



「つまり、短い時間で仲良くなって一緒に旅をしてるのか。

こいつが何か企んでいるのか、それともかけらが魅力的なのか……」



また勘違いされて困るけど恥ずかしくて顔が熱い。


私にもいつか恋人ができたら照れくさくなりながらそうだと言える日がくるんだろうか。



「水と飯を持ってきたし、準備をしたら、さっさと仕事に行くぞ」


「うん! よろしくお願いします」




レトと馬の看病を終えてから、私はセツナと共に森を抜けて王都の方へ向かった。


岩だらけの道を進むと、走っている人がちらほらと見えてくる。


その人たちは槍と弓を持っているので、もしかしたら狩りに行く途中なのかもしれない。



元の世界では見たことがないこの景色を眺めて歩いていると、街に繋がる大きな石造りの橋の前まで来ていた。



「この橋を渡った先がクレヴェンの王都だ。

かけらに任せる仕事は、街外れのところにあるから門の中には入らねぇけどな」



橋の先にある門よりも、遥かに大きい岩山が都の中心にそびえ立っていて存在感を放つ。


そのゴツゴツとした岩山を切り開いて、無数に開いている洞穴に木の扉がついている。


恐らく、これがクレヴェンの家なのだろう。



開いている門の向こう側には、たくさんの人が行き交っている光景が見えた。


その人たちは、私のいた世界で見たことがある服を着ている。


シャツやスーツ、ドレスなど。パーティーや祝い事で着る服が殆どだ。


この国では、私が着ている作業着は地味に見える気がする。



「わぁ……! 素敵な服を着ている。

女の人たちはドレス姿が多いね。

皆、お姫様なの?」



「ハハッ、お姫様みたいに綺麗な服だらけだろ。

クレヴェンは裁縫と織物に優れた国なんだぜ。

王も民も好きな服を自由に着て暮らしているんだ」



「肉を食べることができて、可愛い服も自由に着れる……。

私は、この国の考え方についていけそうかも」



「かけらは分かるやつだな。

旅が終わったら住むことも考えてみたらいいんじゃねぇの?

……っとオススメしたいところだが、一つだけ問題を抱えていてな……。

これからするのはその仕事だ」



「――セツナ! 家が倒れた!

母さんが下敷きになって……、それで……」


不安そうな顔をしたライさんが、息を切らしながら走ってきて私達の前に現れる。


「またかよー! 何回やっても無理ってことか?

今すぐライの母ちゃんを助ける。かけらも来い!」



現場に急いで向かうセツナとライさん。


その姿を見失わないように私はついて行く。


二人は足が早くて、気を抜くとおいて行かれてそうだ。


全力で走ってなんとかその現場に到着した。


そこでは、ゾッとするような状況になっていた。



「これは……」



平らに整地されている石混じりの土の上にあるのは、木で作られた小さな家。


それが横に倒れ、潰れていて、屋根と柱が完全にバラバラになっていた。



「ライの母ちゃん、大丈夫か!?

今そこから出してやるからな」


「母さん! 待っていて!」


セツナが木材を左右に退かすと、ライさんのお母さんと思われる女性の姿が現れる。



見た感じ、この家は薄い板で作られていて、重さがあるような太い木は使用していない。


これがよかったのか、ライさんのお母さんはかすり傷を負っただけで済んだ。



「かけらの今日の仕事は、ライの家を補強する木材の運搬だったんだが……。片付けに変更だな」


「別にいいよ。

こんな女に手伝ってもらいたくないし」


「そんなことを言うな。貴重な人手なんだから。

実はライの家は何度も建てているんだが、倒れるんだ。

強い風が吹けばすぐに柱が傾く」



「専門の人に建ててもらえばいいんじゃないかな?」


当たり前だと思ったことを言うとセツナは眉を八の字にして溜め息をついてから腕を組んだ。



「クレヴェンは立派な服を作ることができる人がいるが、家を作る技術を持った人はいなくてな。

王都に繋がる橋を造った大昔の人が、偉大だったと言われている」



数えるのが大変な数の石をバランス良く組み合わせて造られていた立派な橋。


あの技術を私のいた世界で再現するとしたら、とても大変なことだろう。



「はぁ……。その女が役に立つと思えないけど」


「女性には優しくしろ。だからライは彼女ができねーんだぞ」


「いつまで経っても結婚相手を決めないセツナに言われたくないけどね!」


「今までビビッとくる女がいなかっただけだ。

見つけたらライより先に結婚してやるよ」



「まぁまぁ、その辺で……。

ライさんのこの家を片付けて、同じ場所にまた建てるってこと?」



「そうだ。ライの母ちゃんにもっといいところに住むように話したことがあるが、この場所がいいと強く言われてな。

明日からまた建て直す予定だ」


今さっきセツナと口喧嘩をしていたライさんは視線を逸して黙り込んでいる。


聞いた話から予想すると、何度建てても倒れてしまう家に絶望しているようにも思える。


きっと、母のためにライさんもずっとここにいるんだろう。



私ができることは……。


そうだ……! あの手がある。





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