儀式の後、社務所の休憩所で池流と鍵留に向かい側に挟みお茶を啜る。
あー 儀式後の脱力感に満ちた体に深く沁みるわー
「守、大丈夫か?」
「今の俺見て言ってるなら大丈夫。さっきの俺の事なら大丈夫じゃない」
「何か問題があったのでござるか?」
「問題かどうか分からないけどショッキング映像が」
「最初に儀式をしたのは王王王なんだろう? 何か問題を起こすようなモンスターには見えなかったけどな」
「別方向で問題あるかと思っていたけど、まさかウチの子に限ってそんな事が的な問題が」
「あったのでござるか。いやはや、モンスターも見かけによらずというか、意外な一面を持っているようでござるな」
「心を持った生き物なら皆そんなもんだろ。パターンだけで動くのはゲームのキャラぐらいだっての」
「その通りですな。拙者もまだまだ修行が足りないようでござる」
「俺もなー」
「問題、大丈夫なのか?」
「あー、どうだろ。まずはちゃんとコミュ取るわ。事情を教えてくれるか分からんけど。呼んでみないと分からんけど俺もアイツが悪いヤツとか思ってはいないし。あんな事したのは何か事情があったんだと思いたい」
「愛華ちゃんとの約束は大丈夫そうでござるか?」
「それなー それもあるから帰ったら真っ先に召喚せんと。本当、何もなければいいんだけど」
「お父さんは大変だなぁ、守くぅ~ん!」
「誰がお父さんだ。俺をお父さん扱いしたいならお母さん役担当の彼女を紹介しろ、いやしてください」
「紹介できるくらいなら苦労はないんだよなぁ…… てか、守は結局今年はどうだったのよ。脈のある子はいた? 小野麗尾パークのシャッチョさんなら実は選り取り見取りじゃないのでーすかー」
「自転車操業火の車のシャッチョさんだけどな! ん? 自転車操業といえば、自転車○業。鍵留? あそこの新作はどうだった? 枠動かすヤツの続編」
「おお、あそこは実にユニークなゲームを作りますからな。守殿もお目が高い。無論、拙者は現在大絶賛プレイ中ですぞ。ネットの攻略記事は見ておりませんのでまだまだ時間が掛かりそうですが、今回も期待を裏切らない出来でしたぞ! 枠を動かすのは当たり前、何と今回は……」
「何故ムダに溜める。まさかドキドキ文学部の類でもあるまいに。 ……まさか、そうなのか! ジャストモニュカなのか!」
「露骨に誤魔化しに走っても追求の手は止めんぞ、守。それはそうとジャストモニュカってなんだよ」
俺と鍵留は顔を見合わせてから池流に向き直り、
「「Just Monyuka.」」
「だから何なんだよそれは」
「すまん、池流にはまだ早……すぎはしない。しない、が」
「まぁ所謂、人を選ぶゲームの話でありまして。興味があれば自己責任で調べてみるでござる」
「そう、あくまでも自己責任でな」
「思わせぶりな事を言いやがって。で、どうなんですかー 小野麗尾パークのシャッチョさーん」
「はぁ、池流。学校の方は相変らず。俺からのアプローチが足りないのもあるが、クラス外にそもそも接点を作りにくいのがなー やっぱ二学期最初のスタートダッシュに失敗したのがキツイ。自分から話しかけるのはやっぱり難しいわ。池流大先生は夏の絵ノ島とかどんな風に挑んだのさ」
「ん、聞いちゃう? それ聞いちゃう? まず最初は午前中はネットで調べた声の掛け方を色々試して、どのタイプの子に何の掛け声が反応が良かったか纏めて、午後にはその掛け声にあった口調やキャラを作ってナンパ再開。このやり方で最後には何と最長記録3分まで話を聞いてもらえたんだぜ! ナンパ用にちょっと金掛けて名刺も作って配っても見たんだが、そっちは7割くらいの子は受け取ってくれたけど連絡は来なかったんだよなー」
「すげーな、イヤ本当すげーな。」
縁も所縁もないアウェイに海パン一貫で挑む度胸、一日中振られ続けても挫けなかったメンタル、個人情報のばら撒きを恐れぬ勇気……
俺なんかよりコイツの方がよほど冒険者と言えるんじゃないか? 俺の場合、声掛けに半日以上観察・様子見して結局声を掛けられなかったり、名刺を配っても万が一ゴミ箱とか砂浜に捨てられているのを見かけたらショックで何日か引きこもるぞ。
というか、池流のような二枚目半でも袖にされるとかナンパの道はやはり厳しいようだ。ましてや俺のような五枚目には……いや、諦めるな。諦めるんじゃない、小野麗尾 守! 諦めたらそこで彼女終了ですよ……!
「ありがとよ、だが戦果ゼロだ。半年掛りで学校に家に二段構えの策を仕掛けた守に比べりゃ大したことねーよ」
「学校の仕掛けは破綻してるし、家のは仕掛けてすらいなかったんだけどな。大体、家に来ているのはモンスターが目当てだぞ。通訳してると俺とモンスターのどっちに興味があるかなんてすぐに分かる。最近ローカルスレ見てショタコンが混じっている事が判明……いや、以前から判っていたか。佐助を着せ替え人形にしてたの前からいたし。まぁそんな特殊性癖持ちの人も何人かいそうだし、正直手を出そうという気になれん」
「もったいねーな。よし!そういうことなら俺が声掛けさせてもらっても良いよな!」
「止めはしないが、ある程度の自粛はよろしく。問題になったら池流とはいえ何かしない訳にはいかないし」
まずは半ズボンだな! そんな風に意気込むお前は間違いなく勇者だ、池流。最初は何かを期待するような目で、そして先程から虫を見るような目でこっちを見ている社務所内の巫女さんとの縁は切れただろうけど、お前ならこれからも強く生きていくのだと信じているよ。
俺? 俺のストライクゾーンは俺の年齢プラス五歳マイナス二歳ぐらいまでだから大丈夫、惜しくは無い、惜しくは無い筈だ。(自己暗示
帰りは二人と別行動だ。
鍵留はフェアリー様―― いやいや、フェアリーだ。正気に戻れ、俺。
とにかくスポンサー様がフェアリーに会いたがっていたのだが、彼女を呼ぶ前に色々準備が必要なので、二人には先に帰ってもらった。
そして俺はというと、駅前のデパートにお買い物。地元駅にはデパートクラスの店がないので、お値段高めの物はこっちにいる内に買っておかないと。ああ、また財布が軽くなる……
帰宅後に自室に戻って最初にやった事は王王王の事情徴収である。
召喚すると目の前に現れたのは、前より一回り大きくなった赤毛の狼。
体長は一メーター半ってところか。結構大きく感じるな。佐助も大きくなっているだろうし、鞍は新調しないとダメか。
今からだと申し込みが出来たとしても年始後だし、結構時間も掛かりそうだよな。
スマホで確認してみると…… やっぱりダメか、もう休みに入っている。
イベントは騎乗できないな。後で全員で打ち合わせしないと。
って本題忘れてた。
「王王王」
「ワン」
この感じだと今出ているのは長女か。
「ランクアップの時の件の話だ。俺が聞きたいのは三点。何故契約の場でああなったのか、憎んでいたらしい存在の種族になったわけだがこの点で思うところはないのか、これからお前の友達の所に行こうと思うがお前は大丈夫かの三つだ。回答によっては質問が増えるがそこは勘弁してくれ」
「ワン」
「うん、では最初の質問だ。契約の場の件を話してくれ」
「キュウン」
「ん? あった事は俺が見たままで、自分達にとって決して許容できない存在だったからああするしかなかった。どうしてという疑問にはこれ以上答えられない、と」
「キャン」
「謝るくらいなら教えて欲しいところだが。まぁ言いたくないなら今は聞かないでおくが、フレイムウルフにランクアップしたのは本当に大丈夫なのか? 事前に話はして了承を得た上でやったはずなのに、あんな光景を見せられると本当に大丈夫だったのか不安になるんだが」
「ワン、ワン」
「それはいいのか。よく分からんな。なぁ、もしこれからダンジョンでフレイムウルフが出てきたらまたああするのか?」
「キャンキャン」
「そうか、ダンジョンで出てくるのは別にいいのか。ますます分からん。」
「ワン」
「愛華ちゃんの所に行くのは大丈夫、か。分かった、じゃあ一階に下りて父さん達に顔合わせしておこう」
「ワン」
父さん達にランクアップした王王王の姿を見せた感想だが
「おお、ずいぶんとカッコ良くなったなあ。守、いくつか聞きたいことがあるんだが」
「父さん、ゴメン。王王王に話を聞きたいことは分かるけど、ちょっと愛華ちゃんの件もあるから後にしてもらえると助かるかな」
「ああ、そういう事なら大丈夫だ。こっちは後で構わないよ、夕食の前か後ぐらいでお願いできるかな?」
「ありがとう、それじゃ夕食の後で」
母さんはひたすら王王王を撫でていた。何も言わなくても満面の笑顔で全て理解できる。
王王王は出かける時間まで下に置いておくか。
さて、二階に戻って次の召喚の準備を進めないとな。
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