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けれど扉が閉じたとき、もう二度と彼女の姿は見られなかった。霧が薄れて、処刑台の上が見えた。
彼女は、私の服と黒いローブをまとっていた。
胸の前で小さく十字を切り、まるで祈るように、震える声で尋ねた。
「……Où est la pierre?(石はどこ?)」
あれほど落ち着いていたエレノオールが、
その瞬間だけ、迷子のような顔をした。
目隠しで視界を奪われ、足元の石台を探していたのだ。
見てはいけないと分かっていた。
けれど、私は目を逸らせなかった。
「そこよ……少し前……」
声にならない声が漏れた。
でも、届くことはなかった。
次の瞬間、刃が落ち、音が途切れた。
世界が止まった。
ただ、風の音だけが残っていた。
そして私の喉の奥から、何かがこみ上げた。
叫びではない、息のような祈り。
「……ごめんなさい。ごめんなさい、エレノオール」
冷たい朝の空気の中で、その言葉だけが震えていた。