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7 - 第7話 また会える日

♥

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2025年10月21日

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──夜の闇を裂いて、鐘が鳴った。

処刑の合図。


私――ジェーンは、エレノオールのローブを纏っていた。

あの子の香りが、まだ袖に残っている。

「ジェーン、お願い。生きて」

そう言って笑った彼女の頬が、震えていたのを覚えている。

あの時の声、手の温もり、涙の味。全部、今でも覚えているの。


「石はどこ?」

最後の言葉は、それだった。

刃が落ちる寸前に、フランス語が混じるその声で、震えながら。

私がいつも祈りの時に握っていた、小さな白い石のことだと気づいたのは、ずっと後だった。


……あの子の身体が崩れ落ちた時、時間が止まった。

叫びも、鐘の音も、風の音も。

何も聞こえなかった。


私はただ、走った。

どこへ向かうのかもわからないまま、夜のロンドンを抜けて。

足を濡らす水たまりも、頬を打つ雨も、気にしていられなかった。

逃げなきゃ。生きなきゃ。

そう言い聞かせながら。


やがて、丘に辿り着いた。

雨が止んで、雲の切れ間から、満月が顔を出していた。

銀の光が、街を包み込むように照らしている。

息が苦しくて、胸が痛くて、でも……綺麗だった。


「……エレノオール」

名を呼んだ瞬間、涙が零れた。

あの子が見たかった空を、私も見ているのに。

もう、隣にはいない。


ふと、背後から足音がした。

追っ手の兵たちが、松明を掲げていた。

逃げられない。もう、ここまでだ。


それでも私、笑っていたんだと思う。

だって、あの月があまりにも綺麗で。

まるで、彼女が照らしてくれているみたいだったから。


──刃が振り下ろされる瞬間、

私はポケットの中の小さな石を握りしめた。


「……もう、会えるね」


風が吹いた。

夜の帳が静かに降りる。

そして、全てが、月の光の下で終わった。


──ジェーン・グレイ、九日の女王。

彼女の物語は、愛と約束の中で、静かに幕を閉じた。

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