テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
259
#心理描写重視
第121話:異常気象接近! モフモフたちを守り抜け
けたたましく鳴り響くスマートフォンの緊急警告音(エリアメール)と、テレビから流れる特別警報のチャイムが、古民家の居間に冷たく響き渡った。
液晶画面に映し出された日本列島の天気図は、北海道の真下に配置された、文字通り「巨大な悪魔の渦」によって真っ赤に染め上げられている。
「現在の中心気圧は920ヘクトパスカル。最大風速は五十メートルを超えており、気象庁は十勝地方全域に大雨・暴風特別警報を発表しました。不要不急の外出を避け、直ちに命を守る行動を――」
アナウンサーの緊迫した声が、状況の深刻さを物語っていた。
窓の外を見れば、まだ昼過ぎだというのに、空は不気味なほどの漆黒に包まれている。
ゴォォォォォ……という、地鳴りのような強風の音が、遠くからじわじわと古民家の建付けを揺らし始めていた。
「う、うわぁ……風の音がさっきからずっと不気味です……。お兄さん、本当にこれ、大丈夫なんでしょうか……」
縁側に設置されたiPhone miniの前で、小春ちゃんが怯えたように両肩をすくめていた。
高校3年生に進級したばかりの彼女にとって、自然の圧倒的な猛威は、あまりにも恐ろしいものに違いない。
一千万人のリスナーが見守るMeTubeのチャット欄も、冗談抜きで緊迫した雰囲気に包まれていた。
『920hPaってヤバすぎだろ! 本州でも滅多に見ないレベルだぞ!』
『十勝の限界集落、ガチで直撃コースじゃねぇか……』
『主の古民家、古いからマジで屋根が吹き飛ぶぞ! 早く避難しろ!』
『もふもふ達は!? シロ様やコン吉たちは無事なのか!?』
緊迫する画面の向こうの視聴者たちを安心させるように、純白の神獣シロは、俺のすぐ横の座布団の上で神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を瞬かせながら、『ミャウ(慌てなさんな)』と優雅に香箱座りをキメていた。
その涼しい顔(猫顔)を見る限り、シロの『絶対防壁』はすでに稼働しているようだが、今回は相手が悪すぎる。
観測史上最大級の超大型台風。それは、自然の法則そのものがこの限界集落を圧殺しにくるようなものだった。
プルルルル、プルルルル!
その時、居間の固定電話が激しく鳴り響いた。
俺が受話器を取ると、電話の向こうから、村の農業を営むおばあちゃんの、今にも泣き出しそうな震える声が聞こえてきた。
『あ、アキヤさんかい……!? ああ、どうしよう、テレビを見たら、見たこともないような大嵐が来るって……! うちの古いビニールハウスも、畑の作物も、全部ダメになっちまうかもしれない……! 怖くて、怖くて……』
「……落ち着いてください、おばあちゃん。人間がパニックを起こせば、それだけで生存率は大幅に低下します」
俺は静かに、だが確固たるトーンで応じた。
「おばあちゃんは、今すぐ家のすべての戸締まりを確認し、一番頑丈な部屋の中心にいてください。畑やハウスの様子が気になっても、絶対に外へ出てはいけません。いいですね?」
『わ、分かったよ、アキヤさん……あんたたちも、気をつけるんだよ……っ』
電話を切った後、小春ちゃんが涙目のまま、俺のジャージの袖をぎゅっと掴んできた。
「お兄さん……村のみんなも、すっごく怖がってます……。どうしよう、本当に、どうしたら……」
その瞬間。
俺の脳内で、かつて陸上自衛隊・需品科として、数々の災害派遣現場(大型台風、豪雪、大地震)の最前線に立たされてきた、あの過酷な記憶の引き出しが完全に開放された。
パチ、と脳内のスイッチが切り替わる。
「……小春ちゃん。取り乱すな」
「え……?」
小春ちゃんが息を呑み、俺の顔を見つめた。
俺の目は、さっきまでの「やる気のない、死んだ魚のような元社畜の目」ではなかった。
冷徹に状況を分析し、最適な生存戦略を導き出すための、本物の「元・自衛官」のガチの目つきに変わっていたのだ。
「これより、限界古民家および周辺集落絶対防衛作戦――『オペレーション・オアシス』を発動する」
俺の声は、信じられないほど低く、そして圧倒的な安心感を伴って居間に響いた。
「災害対応において、最も重要なのは『生命の維持』と『拠点の防衛』。そしてそれらを支える完璧な『兵站(ロジスティクス)』だ。幸いにも、我が陣地の物資とインフラは、先ほど届いた『ホームセンターの試供品(※チタン装甲仕様の超大型発電機と軍用レーション)』によって、すでに中規模の軍事基地レベルにまでアップデートされている」
俺は窓の外の、黒い嵐の雲を真っ直ぐに睨みつけた。
「等圧線の間隔、風速の予測、建物の構造的強度……すべて計算の内だ。小春ちゃん、お前はカメラを維持し、通信線の安全を確保しろ。俺がこの手で、お前も、もふもふ達も、この限界集落の平穏も、すべて無傷で守り抜いてみせる」
あまりにも普段と違う、ガチすぎる俺のオーラに、小春ちゃんはポカンと口を開けたまま硬直してしまった。
チャット欄の一千万人のリスナーたちも、俺のあまりの変貌ぶりに、完全に鳥肌を立てて大熱狂していた。
『うおおおおおおお!!! 主の目がマジだ!!!』
『元・自衛隊需品科の本気モードきたああああ!!!』
『なにこの圧倒的な頼もしさ……! さっきまで大豆ミート食ってた男かよ!?』
『「オペレーション・オアシス」の響きがガチすぎて濡れる』
『これなら勝てる! 台風相手に「勝てる」と思わせる男、アキヤ!!!』
「キュンッ!」
「コンッ!」
俺の覚醒に呼応するように、コン吉とコン次郎がピシッと居住まいを正し、軍隊の偵察兵さながらの鋭い鳴き声を上げた。
シロもまた、不敵な笑みを浮かべるように『ミャウ(いい面構えね、下僕)』と喉を鳴らした。
だが、どれだけ周囲が戦時モードになろうとも、俺のロジスティクスにおける「完璧な栄養管理」のルールが揺らぐことはない。
作戦開始直前、俺はローデスクの上に、先ほどのコンテナから取り出した『軍用高カロリーレーション(エナジーバー)』と、熱いほうじ茶を並べた。
「お、お兄さん……? さっきお昼ご飯を食べたばっかりなのに、また食べるんですか?」
「当然だ。平時の『一日一食』のルーティンは現在をもって一時解除する。これより始まる暴風雨下での陣地補強は、想像を絶するカロリーを消費する。これは食事ではない。生存確率を極限まで高めるための『戦術的エネルギー充填』だ」
俺は真顔のまま、ミリタリー仕様の無骨なレーションバーを完璧な咀嚼速度で口の中へと掻き込んだ。
VIPから送られた規格外のカロリーとビタミン群が、俺の細胞の一つ一つにガソリンのように染み渡っていく。
完璧にエネルギーを充填し、熱いほうじ茶で喉を潤した俺は、キリッとしたポーカーフェイスのまま、カメラの前に立った。
「皆さま。私が先ほどからガチの目つきをして、物々しい作戦名を口にしているのを見て、不安になられているかと思いますが、冷静になってください」
『おい待てwww』
『この極限の緊張感の中で、また始まったぞww』
『主の限界言い訳タイム・超大型台風接近編ww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、元自衛官の戦闘本能が目覚めたとか、集落を守るための防衛戦を始めるというような、物騒な話ではありません。これは、長時間のパソコン作業による激しい『眼輪筋の痙攣(がんりんきんのけいれん)』であり、要するに『ただの激しい変顔の練習』です。ええ、顔の筋肉をほぐして、台風の気圧変化に備えているだけの、極めてプライベートなストレッチですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、近くにあった防災用のヘルメット(※プラスチック製の安全なやつ)で、俺の背中に抜群の切れ味を誇るツッコミスラッシュを見舞った。
「変顔の練習で『オペレーション・オアシス発動!』とか言う人がどこにいるんですか!! 目つきが完全に戦場に赴くスナイパーのそれになってますよ!! 素直に『みんなを守るために本気を出す』って言いなさいよ!!」
『小春ちゃんのヘルメットスラッシュ炸裂ww』
『ただの変顔の練習(圧倒的ヒーローの覚醒)』
『適応力バグおじさん、ついに自分の本気モードまで眼精疲労のせいにするww』
『言い訳が苦しすぎるけど、めちゃくちゃ安心感あって草ww』
俺の理不尽すぎる限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのツッコミに、台風の恐怖で凍りついていた一千万人の視聴者たちは、一瞬にして腹がよじれるほどの大爆笑へと叩き落された。
『ミャウ(ふん、相変わらず素直じゃない男ね)』
シロが呆れたように鼻を鳴らし、俺の足元にすり寄ってくる。
「……まぁ、変顔かどうかはさておき。これより我が陣地の絶対的な防衛と、周辺住民の後方支援(ロジスティクス)を開始する」
俺は苦笑いしながらヘルメットを被り、チタン装甲仕様のコンテナがある庭へと一歩を踏み出した。
外の風はさらに強まり、大自然の牙が限界集落へと迫っている。
だが、元需品科のプライドと、最強の神獣、そしてバグった物資があるこの聖域は、いかなる嵐が来ようとも一歩も退くことはない。
モフモフたちと限界集落の平穏を守るための、世界一バグった絶対防衛戦が、今ここに幕を開けるのだった。
コメント
1件
うおおおおお!!第121話やばすぎた!!😭💕 超大型台風接近で緊迫MAXなのに、元自衛官モードの主人公の「変顔の練習」言い訳とか小春ちゃんのヘルメットスラッシュとか、笑いの振れ幅えぐすぎる!!w でも「全て無傷で守り抜く」って宣誓にはじわじわ鳥肌…シロ達モフモフの落ち着きっぷりもステキ。台風相手に「勝てる」と思わせる男、アキヤ…推すわ!!🔥✨