部下に逃げられ、赤髪の船長は茫然と立ち尽くす。なんだか纏まりがないというか、海賊の士気なんてあってないようなモノなのか。それとも単に臆病なのか。
俺は対処に困っていた。
相手は一応、女性。海賊とは思えない程の美人だし、乱暴はどうかと躊躇する。ここは、バリケードを応用して簡単な牢でも作るか。その中へ閉じ込めて様子を見るとか――なんて大胆な発想を浮かべてはみた。
実行に移すかどうかの瀬戸際で、背後から渋い声が俺を呼び留めた。その為、プランは廃案となった。
「浜辺におられたのですね、ラスティ様」
「アルフレッド。今ちょうど海賊が現れてね、困っていた所なんだ」
「おや、海賊……ですか。――むぅ!?」
女海賊の顔を見てアルフレッドは仰天していた。なんだか知り合いっぽい反応だな。
「……な、なんだ執事!」
「これはこれは、グラズノフ共和国の将軍閣下の一人娘ブレア様ではありませぬか。ええ、その特徴的な赤髪はブレア様しかおりませぬ」
どうやら、共和国の姫様っぽいぞ。
なんで海賊なんてやっているんだ。
てか、アルフレッドも詳しいな。
遠征しまくっているだけある。
「執事、お前の事など知らぬぞ! それに、私は共和国の者ではない!!」
「やはり噂は本当でしたか。ブレア姫は自らが動き、国や民の為に尽くすと。なので、義賊として活動なされていると耳にしております。
「なっ……」
なんだか図星っぽいぞ。
なるほど、義賊か。
しかも、国や民の為ときたか。多分、表向きが姫さんだから、大胆に動けない――だから、海賊として扮し、活動するしかないわけだ。道理で貴族っぽい身なりだし、女神のように美しいと思った。
俺は、ゲイルチュールをアイテムボックスへ収めてブレアに訊ねた。
「金貨はどこかで奪ったものなのか?」
「……そうだ。元々、ドヴォルザーク帝国のレオポルト騎士団が護送していた船にあったもの。そこから奪った。どうやら、第二皇子ブラームスのお金のようだがな」
「へぇ~、あのブラームスのね……って、ブラームス!?」
思わずブレアを三度見した。
まてまて、第二皇子ってクソ兄貴じゃん!! アイツの金かよ。そうか、帝国と共和国は『世界聖書』を巡って長きに渡り敵対関係にある。度々、小競り合いも起きている。
けれど、ガチ戦争を回避する為にこのブレアは海賊として活動しているようだな。まさか、ブラームスの金貨を奪っているとは思わなかったけど。
いやしかし、これは良い話を聞いた! 愉快痛快。あの民を奴隷としか見ていないバカ兄貴共はどんどん不幸になればいいのさ。
「そんなわけで、金貨を回収して共和国の復興に充てたい。今や世界情勢は最悪。このままでは飢えで苦しむ事になる」
「あー、俺が消えてから世界はヤバイらしいな」
「ん? さっきから君はいったい……むぅ? 君、どこかで……」
……あ、やば。俺の正体がバレそうだな。
誤魔化すように俺は提案した。
「ブレアさん、この島は俺の国のようなものだ。地図だって、ボスモンスターのバーニングスライムを倒して手に入れたんだ」
「何が言いたい」
「上陸を許可するし、一緒に宝箱を探してもあげるよ。代わりに、金貨は山分け。それならこっちも協力するよ」
「な、なんだと! 半分に分けろと……!? ふざけるな、護衛船を襲った時に犠牲者も出たし、半分では共和国の民を救えない。やはり、相容れぬな!」
憤慨するブレアは、提案を拒絶しようとしていた。そう言うと思ったけど、俺は更に条件を提示する。
「早まるなって。まず、ブレアさんの船はもう逃走していないようだぞ」
「え……」
振り向くブレア。海の方にはもう仲間はいなかった。見事に逃げられたな。
「ほらな」
「そ、そんなぁ……! 今時の海賊ときたら……くぅ。所詮はならず者達か……なんと情けない」
「こっちは御存知の通り、テテュス号がある。船で送ってやるし、安全を保証するよ。あともうひとつ」
「なんだ」
「俺と取引をしてくれ。この島は資源が豊富でね。期間限定でも構わないから、共和国と貿易を始めたい。困っているんだろ?」
「そ、そんな安易に信じるなど……! ――いや、聖女に絶大な信頼を寄せられている君が言うのだから……少しは信じよう」
なんだかスコルを見て気を変えたようだな。理由は分からないけど、これで俺達にも金貨を入手できるチャンスが巡ってきた。お宝探し開始だ。