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もう一つの理由、打算は少し現実的だ。
魔術師、彼らを生かす最大の理由は、魔力を他に影響させられない、この事なのである。
彼らとて、肉体の内部に魔力は勿論ある、言うまでも無く、生きている限り生命力は彼らの体を流れ続けている。
では何故魔法が使えないのか?
単純に魔力を外部に影響させる事が出来ないからなのだ。
それまで普通に出来ていた、外部への魔力干渉が消失する、それが魔術師、幼い内に魔解施術を受けざる得なかった子供達の、避けざるを得なかった運命なのである。
そうなってしまった子供達、今現在のレイブや、十八年前のバストロ、他にもいる魔術師以外の選択肢を奪われた少年や少女たちは、生き残りを掛けて、それこそ必死の努力を繰り返して、一、人、前、の魔術師を目指してきたのである。
魔術師の仕事とは何であろうか?
一言で言えば、魔術師以外のま、と、も、な人間の役に立たなければいけない、この残酷な表現に尽きる、と言うか他に言葉を知らない私、観察者である……
魔術師になった少年や少女は例外なく、体を鍛える。
モンスターと闘う為、村人と違い一年中放浪する生き方を強いられる為に強固な肉体を持つ為?
どちらとも違う、そう断言して良いだろう。
無論、肉体を鍛錬する事は彼等彼女等の日常であったのだが……
トレーニング以外でも、水汲みや薪割りは当然として、保存食の加工からカンテラ用の植物油の搾り出し住処の補修等々、数え切れない程の重労働を経て、一般人とは隔絶した強靭な肉体を持つ事となる。
確かにモンスターと闘う場合においても、その膂力(りょりょく)は大きな武器となる事は否めない。
だが前述の通り、集落に暮らす者達は遥かに容易くモンスターを駆逐できるのだ。
彼らが魔術師に期待する物、それは技術である。
かつて存在した高度な科学文明は魔法の普及、モンスターの台頭、再三にわたる魔力災害、常にすぐ傍らにある石化の恐怖、様々な理由に因って遥か遠い昔に失われて久しい。
しかし、失われた技術に代わり、僅(わず)かではあるが今も綿々と受け続けられている技も残っているのだ。
それらの技を使って人々の生活に必要不可欠な物品を産み出す存在、それが魔術師達なのである。
唯一の石化治療の粉薬、怪我だけでなく体力が低下してしまった病後や産後に有用な血清、魔力災害をいち早く検知し危険を報せるアミュレット、成人前の子供達専用で数回の石化を防いでくれるタリスマン、売り物としては他にも保存食の干し肉や岩塩なども有ったが、魔術師だけが作り出せる物としてはこの四つである。
粉薬、血清、アミュレット、タリスマン……
これらを瑕疵(かし)無く作成する際、作り手が求められる条件は一つ、一切の魔力を遮断して作業をする事、これが絶対条件だったのである。
魔術師となった者達には、魔法が使えない事で、この作業の実現が容易になるのである。
とは言え、前述した通り魔術師にも体内に魔力は存在している。
未熟な者が作ろうとした場合、接触する事によって内在する魔力を流してしまい大概失敗に終わる、レイブの様に。
素材が希少な事に加えて、魔術師の特性、更に熟練の技術を要する事で、四種の品は大変高価にもなりうる。
仮に機嫌を損ねた魔術師から法外な対価を求められたとしても、代わりの入手先は皆無だし無論自分たちで作る事も出来ない。
必需品ゆえに不足を起こす訳にもいかない人々は、それらの品を持って集落を訪れるなじみの魔術師に対して、出来うる限り親切に接してきたのだ、表面上ではあるが……
それで、打算による施し、そうなるのであった。