テラーノベル
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女体化です。地雷は逃げてください。さっさと逃げやがれください。
新旧双黒全員仲良く女体化です。ちなみに作者は太宰治♀が大好きです。
窓の外では、ヨコハマの穏やかな海が春の陽光を跳ね返してきらきらと輝いている。武装探偵社の一角、事務机に突っ伏していた中島敦は、自身の視界がいつもより低いこと、そして何より胸元に感じる異様な「重み」に戸惑い、控えめな悲鳴を上げた。
「あ、あの……太宰さん? 何か、視界が……というか、体が凄く重いんですけれど……」
恐る恐る顔を上げた敦の声は、いつもの少年らしいハスキーさを失い、鈴を転がしたような可憐な高音へと変貌していた。短く切り揃えられていたはずの白髪は、肩を越して背中の真ん中あたりまで伸び、柔らかな曲線を描いている。
「おや、敦くん。君もかい?」
隣の席から返ってきた声もまた、聞き慣れた心中志願者の男のものではなかった。翻った砂色の外套の下、細い指先が緩やかにウェーブした焦茶色の長髪を弄んでいる。太宰治は、完璧な造作の美女へと姿を変えていた。切れ長の瞳はそのままに、どこか憂いを含んだその佇まいは、街を歩けば誰もが振り返るであろう艶やかさを放っている。
「『君も』って……太宰さんも、その、女性に?」
「どうやらそのようだね。鏡を見てごらん、今の敦くんはとっても可愛いお嬢さんだよ」
太宰は面白そうに笑いながら、手近な手鏡を敦に差し出した。そこに映っていたのは、大きな紫眼を潤ませた、儚げで愛らしい少女の姿だった。
そんな平和な(?)探偵社の静寂を破るように、入り口の扉が勢いよく開け放たれた。
「おい、太宰! 貴様、何をした!」
怒鳴り込んできたのは、黒い外套を翻した小柄な人影だ。しかし、その声は怒声でありながら、どこか高く、凛とした響きを持っている。ポートマフィアの幹部、中原中也。彼女――今はそう呼ぶべきだろう――は、燃えるような橙色の髪をサイドポニーにまとめ、心底不機嫌そうに太宰を指差した。
「やあ中也。レディがそんなに大声を出すものじゃないよ。それにしても、随分と……その、可愛らしいサイズになったね」
「誰がサイズの話をしてるんだよ! 鏡を見たらこれだ、異能力の暴走か何かっぽいが……心当たりはねェのか!」
中也の背後からは、黒い和服のようなコートに身を包んだ芥川龍之介が、静かに、しかし困惑を隠しきれない様子で姿を現した。彼女の黒髪は艶を増し、いつもより白い肌が際立っている。
「太宰さん、失礼いたします。……人虎、貴様までそのような姿に」
「芥川……君も、やっぱりそうなっちゃったんだね」
敦と芥川、そして太宰と中也。かつて「双黒」と呼ばれた新旧の相棒たちが、今、この探偵社の事務所で全員女性の姿となって対峙していた。
どうやら、ヨコハマを騒がせている「性別反転」の異能力を持つ何者かの仕業であることは間違いなさそうだった。しかし、緊急事態であるはずなのに、四人の間に流れる空気はどこか緩やかだった。
「まあ、せっかく女の子になったんだし、今日は休戦にして皆でお茶でもしないかい? 幸い、仕事も一段落していることだしね」
太宰の突拍子もない提案に、中也は眉根を寄せた。
「はあ!? 誰が貴様なんかと……」
「いいじゃないか、中也。その格好でマフィアの本部に戻っても、部下たちが困惑するだけだよ。あ、もしかして、可愛い服を買いに行く勇気がないのかな?」
「誰がねェんだよ! 表へ出ろ、太宰! 買い物でも茶でも付き合ってやるよ!」
こうして、本来であれば敵対関係にあるはずの四人は、ヨコハマの街へと繰り出すことになった。
春の風が心地よいショッピングモール。女性四人組(しかも全員が目を引くほどの美貌)という集団は、否応なしに周囲の注目を集める。
「人虎、あまり離れるな。迷子になれば探す手間が増える」
「もう、子供扱いしないでよ芥川。……あ、あのお店、可愛いリボンがある」
敦が指差したのは、パステルカラーの小物が並ぶファンシーショップだ。芥川は「ふん、軟弱な」と吐き捨てながらも、敦の袖をそっと掴んで離さない。女性になったことで、普段の刺々しさが幾分か影を潜め、お互いへの距離感が少しだけ近くなっているようだった。
「これ、芥川に似合うと思うんだけど……どうかな?」
敦が手に取ったのは、深い黒の中に小さな銀の星が散りばめられたヘアピンだった。芥川は一瞬、嫌そうな顔をしたが、敦の真っ直ぐな瞳に根負けしたように頭を差し出した。
「……一度だけだ」
「わあ、やっぱり似合う! 綺麗だよ、芥川」
敦の屈託のない笑顔に、芥川は頬をわずかに朱に染め、視線を逸らした。
一方、旧双黒の二人は、高級ブランドが並ぶフロアで優雅にウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「ねえ中也、その赤いドレスなんてどうだい? 君の髪色にぴったりだと思うけれど」
「派手すぎんだろ。それより、お前こそその透け感のあるシャツ、今の姿だと目のやり場に困るんだよ、自覚しろ」
中也は毒付きながらも、太宰が手に取った服を丁寧にチェックしては「素材が安っぽい」「こっちの方がマシだ」とアドバイスを送っている。口では反発し合っているが、その歩幅は完璧に揃っており、長年の信頼関係が透けて見えた。
「ふふ、中也は昔から私のコーディネートを気にしてくれるよね。本当は私のことが大好きなんじゃないかな?」 「死ね! 脳みそ湧いてんのか!」
罵声を浴びせながらも、中也の手は太宰の細い腰に回され、人混みから守るようにエスコートしている。その様子は、喧嘩の絶えない姉妹のようでもあり、あるいはそれ以上の何かを予感させる親密さに満ちていた。
買い物を一通り終えた四人は、海が見えるテラス席のあるカフェに落ち着いた。運ばれてきたのは、色とりどりのフルーツが乗ったパフェと、香りの良い紅茶だ。
「まさか、貴様らとこうして菓子を食う日が来るとはな」
中也が大きなパフェをスプーンですくいながら、呆れたように笑う。その姿は、重力使いという恐ろしい肩書きを忘れさせるほどに年相応の女性らしく見えた。
「平和でいいじゃないか。たまにはヨコハマの守護者もお休みが必要だよ」
太宰は紅茶の湯気越しに、楽しそうに談笑する敦と芥川を見つめた。
敦は、芥川が苦手だと言っていた甘いクリームを自分の皿に取り分けてやり、芥川はそれに対して文句を言いながらも、敦の口元に付いたクリームを指で拭ってやっている。新双黒の二人もまた、この特異な状況を彼らなりに楽しんでいるようだった。
「人虎、貴様は……その姿の方が、少しはまともに見えるな」
「それ、褒めてるの? ありがとう、芥川。……私も、今の芥川は少しだけ優しくて好きだよ」
敦の言葉に、芥川は飲んでいた紅茶にむせ返った。
「な、何を……! 僕は、僕は常に冷静だ!」
「はいはい、わかってるよ。あ、このイチゴ、半分あげるね」
そんなやり取りを眺めながら、太宰と中也は顔を見合わせて苦笑した。
「若いのはいいねえ。中也、私たちもあんな風に可愛らしく振る舞ってみるかい?」
「反吐が出るぜ。俺たちは俺たちらしく、殴り合ってるのがお似合いだろ」
「それもそうだね」
太宰は椅子の背もたれに体を預け、心地よい春の風を感じる。
もしも、自分たちが最初からこういう関係で、平和な日常の中で出会っていたら。そんな有り得ない仮定を、今のこの時間だけは、現実として受け入れることができた。性別が変わったという些細な(彼らにとっては重大かもしれないが)変化が、張り詰めていた心の糸を少しだけ緩めてくれたのだ。
日が傾き始め、海が黄金色に染まり始める。
「そろそろ、術解きの時間かな」
太宰がふと呟いた。彼女の異能力「人間失格」は、あらゆる異能を無効化する。これまでずっと自分の体に触れていたため、この変身が異能力によるものであれば、とっくに解けていてもおかしくないはずだった。
「……中也、少し手を貸してくれるかい?」
太宰が差し出した手を、中也が怪訝そうに握る。その瞬間、青白い光が二人を包み込んだ。
「あ、太宰さんが中也さんに触れたから……!」
敦の声が終わる前に、光は四人全員に広がった。どうやらこの術は、太宰が意図的に触れることで連鎖的に解除される仕組みだったらしい。
光が収まった後、そこにいたのは、元の姿に戻った四人の男たちだった。
「……戻ったな」
中也が自分の低い声を確かめるように呟く。着ていた服が女性用だったため、肩幅が合わずに少し窮屈そうだが、紛れもなく「重力使い」の体躯に戻っていた。
「ああ、残念だね。敦くんの可愛い姿、写真に撮っておけばよかったよ」
太宰はいつもの飄々とした口調で立ち上がり、シワになった外套を払った。敦もまた、短くなった髪と見慣れた自分の手に安堵のため息をつく。
「もう、太宰さん……大変だったんですから」
「……不快な時間だった」
芥川はそう吐き捨てながらも、先ほど敦から贈られたヘアピンを、こっそりと懐に仕舞い込んだのを敦は見逃さなかった。
「さて、それじゃあお開きにしようか。中也、今日は楽しかったよ」
「二度と御免だ。……だが、茶の代金くらいは置いてってやるよ」
中也は伝票をひったくると、足早にレジへと向かった。その後ろ姿を見送りながら、太宰は小さく微笑む。
「人虎、次に見える時は……敵としてだ」
「わかってるよ、芥川。でも、また今日みたいに……平和に話せるといいね」
芥川は何も答えず、背を向けて歩き出した。しかし、その足取りはどこか軽い。
帰り道、敦と太宰は並んで探偵社への道を歩いていた。
「太宰さん、結局あの異能者は誰だったんでしょうね?」
「さあね。でも、あんなに平和な一日をプレゼントしてくれたんだ。野暮な詮索はやめておこうじゃないか」
ヨコハマの街に夜の帳が下りる。ガス燈が灯り始め、いつもの、けれど少しだけ昨日までとは違う、愛すべき日常が戻ってきた。
新旧双黒の間に流れた、あたたかな春のひととき。それは、性別という壁が取り払われたことで見えた、彼らの素直な心の形だったのかもしれない。
「さあ、敦くん。明日はまた忙しくなるよ。国木田くんが鬼のような顔で待っているからね」
「ええっ、やっぱり怒られますよね……!」
二人の笑い声が、夜の潮風に溶けて消えていった。
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なつほ
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