コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
―1年後―
クリスマス・イブ
会場は小さめだが拓哉がこだわっただけあって
そこは豪華なホテルのホールだった
彼はスタジアムやコンサートドームでの
コンサートを好まなかった
自分の声に合わないからだ
弘美と結婚してからすぐに彼は
俳優から歌手に移行しシンガーソングライターとしてこのクリスマスライブショーのために半年前から猛練習をしていた
俳優業をしながらずっと以前から歌を作って
書き溜めていた事実が発覚した時は
幸次も弘美もとても驚いた
何を隠そう歌う事こそが彼の長年の夢だった
小さな会場だったのだが俳優じゃなく
(シンガーソングライター櫻崎拓哉)
の初ソロライブとして勝負に出た幸次は
チケットをかなりの高値に設定した
拓哉は観客に高額な代金を払わせる一方で
収益の半分をシングルマザー支援団体に寄付することにしていた
クリスマスディナーコンサートはイブを挟んで3日間オンライン発売され、高額にもかかわらず発売されるや否や5分もしないうちに完売した、会場はどこも彼の熱狂的なファンでいっぱいだ
そしてファイナルステージの今夜
観客席で弘美は幸次と真由美そしてなんと
ノエミ・クリスタルと下沢亮と
同じ列の椅子に座っていた
あれからしばらくして幸次が亮をオフィスに連れてきた彼は亮を自分の事務所に引き入れたと
弘美に話した
そして亮から話を聞いた幸次が訴訟だけは
許してくれと詫びを入れてきた
以外にも亮にはいつものあざとさが無く
弘美に深々と頭を下げて詫びを入れた
今の彼は髪の色は黒く
その態度はやけにしおらしかった
「あいつも反省してるみたいだ
性格は悪くてもなかなか実力のある役者でね
枕営業も止めさせたし
これからはきちんと演技指導を受けさせて
立派な俳優に育ててやるつもりなんだ
誰かさんが歌手に転向してしまったから
うちは今大変なんだよ 」
幸次は肩をすくめて言った
弘美は笑いながらぜひ応援すると幸次に言った
もともと訴訟を起こすつもりなどさらさらなかったし、たしかに亮の演技力は弘美も実力を認めていた
そして弘美はほぼ同時期にノエミの顧問弁護士として正式にクライアント契約を結んだ
この事に一番反対したのは実は他ならぬ拓哉だった
彼は弘美に決して彼女と二人きりにならぬようにと釘を刺した
今ではノエミの性癖を十分把握してる弘美だが、しかし拓哉に飽きたら自分に乗り換えろとしつこく迫るノエミに若干困っているのは拓哉には内緒にしていた
開演5分前・・・・
今は弘美を挟んでノエミと亮が喧嘩している
二人は似た者同士だからなのか仲が悪く
今はお互いを口汚くののしりあっていた
その向こうで真由美が今自分が着ている
シャンパングラスが所々に印刷された
今期のパリスチャン・ガオールの
新作ドレスの事をしきりに幸次に話していた
80年代のドレスにシャンパンがテーマの
ガオールの新作は今や海外セレブに大人気だ
数ヶ月前拓哉はガオールから言付かったドレスを
弘美に渡し笑いながら言った
「ガオールから聞いたが
今期のデザインは君のおかげだそうだ」
手渡された新作ドレスはクラッシックな
デザインのドレスに所狭しとラメの
シャンパングラスの模様がデザインされていた
ピアスもバッグも同じデザインでお揃いだ
どれもシャンパンがキラキラしてて素敵だった
ドレスの中には
「シャンパンの女神へ」
とガオール直筆のメッセージカードが入っていた
弘美はそれを見て笑ってしまった
どうやらガオールから訴訟を起こされる
危機はなさそうだ
弘美は今だ何もかもが奇跡に思えてならなかった
彼が自分と結婚してくれた事からして奇跡だし
環境は一変し、今や弘美は芸能人御用達の敏腕弁護士として、マスコミの前に姿を出すこともお手の物だった
先月雑誌の取材で日本初の女性国防長官との
対談インタビュー「この国の強い女性達」
に弘美が出た雑誌は発売された途端に飛ぶように
売れた
そしてなにより
一緒に暮らして弘美の仕事に理解があり
しかも拓哉がアイドル時代から好きだった
彼の好きな歌を好きな時に聞き放題だった
しっとりとした音楽と共に拓哉の
クリスマスショーが開幕された
拓哉がステージに立てば黄色い歓声が会場中に響いた
そして彼が歌い始めれば
その歓声はひとたび甘いため息になった
ステージの拓哉は月光と星屑の中から生まれた
王子様のようだった
彼の中にこれほど違うふたりの人物がいることが信じられなかった
見てよ・・・あれが私の旦那様なんて・・・
弘美は心の中でつぶやいた
高身長の彼はステージをわがものにしていた
彼の歌声が会場中に広がり隙間を
ひとつずつ満たしていく
弘美は甘いため息をついて観客を見渡した
最前列には美香達率いる紅秘書軍団が陣取っていた
彼女たちは拓哉が現れる所に必ず出没し
そして拓哉よりも拓哉の情報を知りつくし
弘美と結婚した今も変わらず彼を応援してくれている
彼女たちは(TAKUYA)と書かれたスマホの画面を
キラキラ光らせ、反対の手にはペンライトを持って
音楽と一緒にひと塊となって揺れていた
それがなんとも可愛くて愛しい
彼女たちがいてこそ今の拓哉がある
それを間近で見ていて痛い程感じている
弘美は今や拓哉と同じぐらい
拓哉のかけがえの無いファンである
彼女達を愛し感謝していた
終盤に入ると拓哉がかすかに顔を動かし
暗い観客席にも関わらず寸分違えず弘美の方を見た
彼と目と目があった
思わず微笑まずにはいられない
彼はあたりがどんなに暗くてもどれほど
沢山の人がいようとも自分を見つけてくれる
そこには弘美への愛しか存在していなかった
拓哉は汗だくでアンコールも歌い切り
スポットライトがゆっくり消えていくと共に
去って行った
聴衆は立ち上がって拍手した
「すごいわね!」
真由美は柄にもなく感動したのか涙をぬぐった
「ステージにいた魅力的な男性が
あの拓ちゃんだってことをつい忘れてしまっていたわ」
ノエミが笑い声をあげた
幸次と亮そして真由美も
興奮に会話は止まらなかった
弘美は微笑みながら席を立ち
一目散に彼の楽屋にむかった
彼女の首には
関係者通行証がぶら下がって揺れていた
:*゚..:。:.
「あっ!義姉さん!」
関係者通路の向こうから拓哉の妹の「櫻崎鈴子」が
弘美を見つけ満面の笑みでこちらにやってきた
拓哉の妹は初めて会った時から弘美とは気が合い
鈴子も拓哉同様静かな美しさをたたえていた
控えめながら上品で洒落た格好をしている義理の妹は
弘美に信頼の笑顔を見せている
「お義父さんと、お義母さんは?」
弘美は鈴子に笑顔で聞いた
首から下げている
鈴子は関係者用通行カードを持ち上げて笑った
「これがあるとどこにでも入れるじゃない?
だからあちこちで関係者と話し込んでいるわ
兄さんの初めての単独コンサートちゃんと見たのかしら」
明るい茶色の髪が顔の周辺できらめき
瞳はやはり拓哉とおなじアーモンド色をしてた
顔立ちはすっきりと整っていて
美人というよりかはかわいらしかった
「兄さんったら、必死に義姉さんに電話かけてたわよ
繋がらないって怒ってた 」
鈴子がクスクス笑う
「いけない!スマホをマナーモードに
したままだったわ 」
「早く行ってあげて
私はもう少し知り合いと話していくから」
「ありがとう」
弘美は廊下を歩きながらすぐに電話がつながらなくなる癖を直さないとと思いながらも
彼が怒って自分を探し回るのも実は少し気に入っていた
:*゚..:。:.
楽屋は身動きできないぐらいの花でいっぱいで
その匂いが少し弘美の体に障った
弘美自身が送った胡蝶蘭も綺麗にカウンターの
鏡の前に置かれていた
その花も明日にはすぐ事務所のビルの格地に
飾られるがステージを降りた直後の拓哉は多彩な
色と香りに包まれるのもステージをこなした時しか
味わえないと楽しんだ
ステージ上の彼の衣装はどれも将来有望な若手デザイナーの作品で、彼が生まれ持っている優雅さと
上品さが表現されていた
拓哉は衣装にこだわりドラマを求めた
ブラックのスーツに肩から脇にかけて天の川のように
ラインストーンがちりばめられている
髪はヘアアイロンで巻かれどこかの
イギリス貴族のようだった
しかしステージから降りた彼は普段の飾り気のない格好に早く戻りたがり
彼は楽屋で早くもシャワーを浴び
メイクを落としていた
弘美は少しもったいないような気がした
いつもの白いコットンのシャツを羽織る彼にそっと
近づく
弘美は彼の前に立って
はだけている彼のシャツのボタンをいぢった
「私にやらせて・・・・妻の特権よ」
弘美は下から彼のボタンをゆっくり一つづつ止め
あらわになった喉元にキスをした
低い笑い声が弘美の唇に響く
「最後の歌は君を思って作ったよ・・・」
「嬉しいわ・・・・ 」
二人は熱く唇と舌をからめた
ステージを終えた拓哉はいつも少しだけ興奮状態にいる
彼の硬くて逞しいものが自分の太ももを押している
「・・・・この後
打ち上げに行かなきゃダメだから・・・
今・・・ここでしたい・・・ 」
拓哉が弘美の耳を甘く噛んだ
「う~ん・・・・
それはどうかしら・・・・
あなたと愛し合う事は大好きだけど
しばらくは慎重にならないと・・・
せめて安定期に入るまでは・・・・」
拓哉の目がパチリと開いた
「安定期?」
「触って・・・・」
弘美は拓哉の両手を自分の胸に持って行った
「・・・・最近・・・・
胸がずっしり重くなった気がしていたの・・・
それに乳首もいつもより敏感にとがっているし」
「・・・ほんとだ・・・・ 」
拓哉はうっとりと弘美の胸を撫でまわした
そして弘美はその彼の両手を自分の下腹部に持って行った
「・・・今日・・・・・
午前中に病院に行ってきたの・・・」
「・・・病院?
どこか悪いのかい? 」
思わず笑みがこぼれた
彼はまだ気づかずにいる
弘美は深呼吸をしておなかに手を当てている
彼の両手に自分の手を重ね
軽くキスをして言った
「この子の出産予定日はあなたの誕生日よ
メリークリスマス!パパ」
:*゚..:。:. .:*゚:.。:
:*゚..:。:. .:*゚:.。:
:*゚..
:。:.
.:*゚:.。:
【完】