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【1年後】
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クリスマス・イブにしては会場は小さめだが、拓哉がこだわっただけあって、そこは豪華なホテルのホールだった
彼はスタジアムやドームでのコンサートを好まなかった、自分の声に合わないからだ
弘美と結婚してから、すぐに彼は俳優から歌手に移行し、シンガーソングライターとしてこのクリスマスライブショーのために半年前から猛練習をしていた
俳優業をしながら、ずっと以前から歌を作って書き溜めていた事実が発覚した時は、幸次も弘美もとても驚いた、何を隠そう歌う事こそが彼の長年の夢だった
そんな拓哉がクリスマス・コンサートに選んだのは小さな会場だったのだが、俳優じゃなく(シンガーソングライター・櫻崎拓哉)の初ソロライブとして勝負に出た、幸次はチケットをかなりの高値に設定した
拓哉は観客に高額な代金を払わせる一方で、収益の半分をシングルマザー支援団体に寄付すると言った
クリスマスディナーコンサートは、イブを挟んで3日間オンライン配信され、高額にも関わらず、発売されるや否や、5分もしないうちに完売した、会場はどこも彼の熱狂的なファンでいっぱいだ
そしてファイナルステージの今夜、観客席で弘美は幸次と真由美、そしてなんとノエミ・クリスタルに下沢亮と同じ列の椅子に座っていた
あれからしばらくして幸次が亮をオフィスに連れてきた、彼は亮を自分の事務所に引き入れたと弘美に話した
そして亮から話を聞いた幸次が、訴訟だけは許してくれと詫びを入れてきた
以外にも亮にはいつものあざとさは無く、誠実に弘美に深々と頭を下げた、今の彼は髪の色は黒く、その態度はこっちが面くらうほどしおらしい
「あいつも反省してるみたいだ、性格は悪いがなかなか実力のある役者でね、枕営業も止めさせたし、これからはきちんと演技指導を受けさせて、立派な俳優に育ててやるつもりなんだ、誰かさんが歌手に転向してしまったから、うちは今稼ぎ手がいなくて困ってるんだよ 」
幸次は肩をすくめて言った、弘美は笑いながらぜひ応援すると幸次に言った、もともと訴訟を起こすつもりなどさらさらなかったし、たしかに亮の演技力は弘美も実力を認めていた
そして弘美は、ほぼ同時期にノエミの顧問弁護士として正式にクライアント契約を結んだ
この事に一番反対したのは、実は他ならぬ拓哉だった、彼は弘美に「くれぐれもノエミと二人きりにならないように」と釘を刺した
今ではノエミの性癖を十分把握してる弘美だが、彼がいない隙を狙って誘惑してくるノエミに若干困っている事実は、拓哉には内緒にしていた
開演5分前・・・今は弘美を挟んで、ノエミと亮が喧嘩している、二人は似た者同士だからなのか仲が悪く、今はお互いを口汚く罵り合っていた
その向こうで真由美が今、自分が着ているシャンパングラスが所々に印刷された、今期のパリスチャン・ガオールの新作ドレスの事をしきりに幸次に話していた
80年代のドレスに、シャンパンがテーマのガオールの新作は、今や海外セレブに大人気だ
数ヶ月前、拓哉はガオールから言付かったドレスを弘美に渡し、笑いながら言った
「ガオールから聞いたが、今期のデザインは君のおかげだそうだ」
手渡された新作ドレスは、クラッシックなデザインのドレスに、所狭しとラメのシャンパングラスの模様がデザインされていた
ピアスもバッグも同じデザインでお揃いだ、どれもシャンパンがキラキラしてて素敵だった、ドレスの中には「シャンパンの女神へ」とガオール直筆のメッセージカードが入っていた
弘美はそれを見て笑ってしまった、どうやらガオールから訴訟を起こされる危機はなさそうだ
弘美は今だ、何もかもが奇跡に思えてならず、彼が自分と結婚してくれた事からして奇跡だし、環境は一変し、今や弘美は芸能人御用達の敏腕弁護士として、マスコミの前に姿を出すこともお手の物だった
先月雑誌の取材で、日本初の女性国防長官との対談インタビュー「この国の強い女性達」に弘美が掲載された雑誌は、発売初日から飛ぶように売れた
そしてなにより一緒に暮らして、弘美の仕事に理解があり、しかもアイドル時代から好きだった、拓哉の好きな歌を好きな時に聞き放題な日常はまさに奇跡だった
しっとりとした音楽と共に、拓哉のクリスマスショーが開幕された
#恋愛
拓哉がステージに立てば、黄色い歓声が会場中に響いた、そして彼が歌い始めれば、その歓声はひとたび甘いため息になった
ステージの拓哉は、月光と星屑の中から生まれた王子様のようだった、彼の中にこれほど違う二人の人物がいることが信じられなかった
―見てよ・・・あれが私の旦那様よ―
弘美は心の中でつぶやいた、高身長の彼はステージを我が物にしていた、彼の歌声が会場中に広がり、隙間をひとつずつ満たしていく
弘美は甘いため息をついて観客を見渡した、最前列には美香達率いる紅秘書軍団が陣取っていた、彼女達は拓哉が現れる所に必ず出没し、そして拓哉よりも拓哉の情報を知りつくし、弘美と結婚した今も変わらず彼を応援してくれている
彼女たちは(TAKUYA)と書かれた電工文字が、画面いっぱいに流れていく、スマホを掲げ、反対の手にはペンライトを持って音楽と一緒にひと塊となって揺れていた、なんとも可愛くて愛しい
彼女達がいてこそ今の拓哉がある、それを間近で見ていて痛い程感じている、弘美は今や拓哉と同じぐらい、拓哉のかけがえの無いファンである彼女達を愛し、感謝していた
終盤に入ると拓哉がかすかに顔を動かし、暗い観客席にも関わらず、寸分違えず弘美の方を見た
彼と目と目が合うと思わず微笑まずにはいられない、彼は辺りがどんなに暗くても、どれほど沢山の人がいようとも弘美を見つけてくれる、そこには愛しか存在していなかった
拓哉は汗だくでアンコールを歌い切り、スポットライトがゆっくり消えていくと共に去って行った、聴衆は立ち上がって拍手した
「すごいわね!」
真由美は柄にもなく感動したのか涙をぬぐった
「ステージにいた魅力的な男性が、あの拓ちゃんだってことをつい忘れてしまっていたわ」
ノエミが笑い声をあげた、幸次と亮、そして真由美も興奮に会話は止まらなかった
弘美は微笑みながら席を立ち、一目散に彼の楽屋に向かった彼女の首には関係者通行証がぶら下がって揺れていた
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楽屋は身動きできないぐらいの花でいっぱいで、その匂いが少し弘美の体に障った
弘美自身が送った胡蝶蘭も、綺麗にカウンターの鏡の前に置かれていた
その花も明日にはすぐ事務所のビルの格地に飾られるが、拓哉は多彩な色と香りに包まれるのも、ステージをこなした時しか味わえないと楽しんだ
ステージ上の彼の衣装はどれも将来有望な若手デザイナーの作品で、彼が生まれ持っている優雅さと上品さが表現されていた
拓哉は衣装には、ひと一倍こだわってドラマを求めた、ブラックのスーツに肩から脇にかけて天の川のようにラインストーンがちりばめられている、髪はヘアアイロンで素敵に巻かれ、どこかのイギリス貴族のようだった
しかしステージから降りた彼は、普段の飾り気のない格好に早く戻りたがり、彼は楽屋で早くもシャワーを浴び、メイクを落としていた、弘美は少しもったいないような気がした
いつもの白いコットンのシャツを羽織る彼にそっと近づくと、彼の前に立って、はだけているシャツのボタンをいじった
「私にやらせて・・・・妻の特権よ」
弘美は下から彼のボタンをゆっくり一つづつ止めて露になった喉元にキスをした、低い笑い声が弘美の唇に響く
「最後の歌は君を思って歌ったよ・・・」
「嬉しいわ・・・・ 」
二人は熱く唇と舌を絡めた、ステージを終えた拓哉はいつも少しだけ興奮状態にいる、彼の硬くて逞しいものが自分のおなかを押している、拓哉が弘美の喉元に口づけして囁く
「・・・この後打ち上げに行かなきゃダメだから・・・今・・・ここでしたい・・・ 」
拓哉が弘美の耳を甘く噛んだ
「う~ん・・・それはどうかしら・・・あなたと愛し合う事は大好きだけど、しばらくは慎重にならないと・・・せめて安定期に入るまでは・・・・」
拓哉の目がパチリと開いた
「安定期?」
「触って・・・」
弘美は拓哉の両手を自分の胸に持っていった
「・・・最近・・・胸がずっしり重くなった気がしていたの・・・それに乳首もいつもより敏感になって、いつも尖っているの」
「・・・ほんとだ・・・・ 」
拓哉はうっとりと弘美の胸を撫で回した、そして弘美はその彼の両手を自分の下腹部に持って行った
「・・・今日・・・午前中に病院に行ってきたの」
「病院?どこか悪いのかい? 」
思わず笑みがこぼれた、彼はまだ気づかずにいる
弘美は深呼吸をしておなかに手を当てている彼の両手に、自分の手を重ね、軽くキスをして言った
「この子の出産予定日は、あなたの誕生日よメリークリスマス!パパ」
その時の拓哉の顔ったら
・:.。.・:.。.
弘美は一生忘れないと思った
・:.。.・:.。.
【完】