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「や、めろ……」
その欲求をねじ伏せて、俺は必死に拒絶の声を上げた。
が、その声には覇気がない。勢いもなくて、弱々しいものだった。
「そっか。……だけど、本当は気持ちいいんでしょ?」
亜玲がそう言って、胸のとがりをこねるように弄ってくる。
そうだ。気持ちいい。気持ちよくて、たまらないんだ。
でも、それを口にするのは負けたような気がして。必死に首を横に振る。
気持ちよくない。気持ちよくなんて――ない。自分自身にそう言い聞かせていれば、亜玲が笑ったのがわかった。
「――嘘つき」
俺の耳元で、亜玲がそう囁く。
瞬間、ぞくっとしたなにかが身体中を駆け巡る。背中がのけ反って、声だけで反応してしまう。
「祈、感じてるんだよね。……ほら、ここなんて」
亜玲の手が、俺の身体を伝って下肢に伸びる。
そこは少し膨らんでおり、俺が感じていたのが亜玲にバレてしまう。
……いたたまれなくて、ぎゅっと目を瞑った。
「気持ちいいんだね。……ところで、どう?」
「……な、にが」
「大嫌いな男に、こんな風に感じさせられちゃう気持ちだよ」
そんなもの、最悪に決まっている。
そう言いたかったのに、亜玲が俺の唇をキスでふさぐから。なにも、言えなかった。
角度を変えて何度も何度も口づけられる。
それはまるで、愛おしいものにするかのような口づけだった。その所為で、俺の頭が混乱する。
(亜玲は、俺のことが嫌いなんだろ……?)
じゃあ、どうしてこんなにも優しい口づけをしてくるんだろうか。
意味が分からなくて、俺は目をぱちぱちと瞬かせていた。
けれど、そう思う俺を他所に、亜玲が俺の首につけられたチョーカーに触れた。
ツーッと指でなぞって、奴は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「どうせだし、次のヒートのときに俺の番にしてあげよっか」
一瞬、告げられた言葉の意味がわからなかった。
……番? 俺が、亜玲の?
「……冗談、きつい」
強く睨みつけて、俺は亜玲のことを拒絶する。先ほどまでのことは、まだよかった。
身体をつなげたところで、一回きりで済むだろうから。しかし、番は違う。全然違う。
「お前の番なんて、死んでもごめんだよ……!」
強く亜玲を睨みつけて、そう言うことしか出来なかった。
俺はオメガだ。だから、アルファの亜玲は俺のことを番にすることも可能。
でも、それで苦しむのは俺だけなんだ。
アルファの亜玲は、いつだって俺のことを捨てられる。
「そっか。……残念」
亜玲が笑って、チョーカーから手を離す。それに、ほっと胸をなでおろした。
「……お前、本当に最低だな」
そんな言葉が口から零れ出る。
遊びで俺を抱こうとするばかりか、番にするなんて質の悪い冗談まで言って。
(亜玲は最低だ。俺の恋人を寝取って、いつもいつも俺を見下して……)
ぎゅっと唇を結ぶ。
そこまでわかっているのに、憎しみを抱けないのは……間違いなく、俺の頭の中に昔の亜玲が残っているからだ。
もしかしたら、あの天使のような亜玲に、戻ってくれるかもなんて淡い期待を持っている。それを、捨てきれていない。
「……祈のほうが、ずっと最低だ」
ぽつりとそんな言葉が返ってきた。
驚いて俺がそちらに視線を向ければ、亜玲はぼんやりとした表情を浮かべている。
「大体、俺をこんな最低野郎にしたのは祈だ」
「……は?」
こいつは一体、なにを言っているんだ。
「俺がこんな風になったのも、全部祈の所為なんだ。……だから、責任を取ってもらわなくちゃならないんだ」
熱に浮かされたかのように、ぼうっとしながら亜玲がそう呟いた。
……意味が、わからない。どうして俺が――。
そう思っていれば、亜玲が俺の上から退いた。その後、軽々と俺のことを横抱きにする。
亜玲の足が向かう先は、室内。そのまま近くの扉を開けて、器用にも電気をつけた。
室内にはシンプルなベッドがあった。
つまり、ここは寝室だ。それを、悟る。