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第五十九話 誰の文字
『これ、私が書いた字じゃない』
彼女から届いたメッセージを、
彼は何度も読み返した。
『本当に?』
『うん。昔のノートと比べてみたけど、違う』
彼は自分の封筒を見る。
「土曜日」
たった四文字。
けれど、それを書いた人物が二人ではないなら。
この封筒は誰のものなのか。
『じゃあ、誰が書いたんだろう』
『分からない』
『封筒の中身は?』
『私の方は、まだ開けてない』
彼は少し迷ってから送った。
『一緒に開ける?』
『……うん』
画面の向こうで、彼女も封筒を手に取る。
二人は同時に封を開いた。
彼の封筒に入っていた紙。
彼女の封筒に入っていた紙。
どちらにも、同じような短い文章が書かれていた。
彼は目を細める。
「……これ」
文章の最後に、小さな印があった。
丸の中に、一本の線。
彼女の紙にも同じ印がある。
『これ何だろう』
『分からない』
彼は昔の写真を見返した。
写真の中に、同じ印がないか探す。
何枚も確認する。
交差点。
店。
ベンチ。
駅。
そして、一枚の写真で手が止まった。
写真の端にある看板。
そこに、同じ形の印が小さく描かれていた。
『見つけた』
『どこ?』
写真を送る。
彼女から、
『これ……お店のマークじゃない?』
と返ってきた。
二人はその店について調べた。
今はもう名前が変わっている。
けれど、昔の写真を見ると、
確かに同じ印が使われている。
そして、その店は
駅からそれほど遠くない場所にあった。
『行ってみる?』
彼女から届く。
彼は少し考えた。
つい先日、初めて会ったばかり。
また会う約束をするのは、少し早い気もする。
でも、今度は過去を追いかけるだけではない。
自分たちの手元にあるものの意味を知りたい。
『うん』
返事を送った。
『じゃあ、今度の休みに』
『分かった』
それから少しだけ、二人は普通の話をした。
昨日見たもの。
最近あったこと。
次に会ったら何を食べるか。
そんな何気ない会話。
でも、彼女は途中でふと思った。
前より自然に話せている。
実際に会う前よりも、距離が近くなった気がする。
過去を知りたい。
それだけだったはずなのに。
今は、もっと単純に。
また会いたい。
そう思っていた。
その夜。
彼は古い封筒を机に置いた。
「土曜日」
そして、その下に残された印。
もう一度、昔の写真を見る。
すると、今まで気づかなかった。
写真の端。
彼のバッグにも、その印が小さく写っている。
彼は写真を拡大した。
自分のバッグ。
その横に、誰かの手。
そして、その手には――
青いリボンのついたキーホルダー。
彼は画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
写真の中の「誰か」が、少しずつ近づいてくる。
それでも、まだ顔だけは見えなかった。
コメント
1件
第59話、めっちゃいい雰囲気だった…!「一緒に開ける?」って流れが自然で、距離が縮まってる感じが伝わってきた。しかも写真の端に写ったバッグの印とか、キーホルダーとか、じわじわ謎が深まる演出がすごい。まだ顔が見えない「誰か」が不気味で気になる…。次が待ち遠しい!