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夜夢を喚ぶ

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夜夢を喚ぶ

21 - 証

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2026年01月10日

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「………リクくん!!」

空は咄嗟に、立ち上がった。手に走る痛みなど、この光景を目の前にすればほんの些細なもので、どうでもいいもののように感じられた。

高鳴る心臓とは対照的に、空の頭は、驚く程に冷静だった。空は今までに出したことのないような大きな声で、怒鳴るように言った。

「ルイくん、そこにある斧を僕に向かって本気で投げて!!それから綺麗な布でリクくんの腕の断面を覆って、圧迫して止血!!それと救急車、西賦の救急じゃなくて縷籟の救急にかけて!!」

今までどもりながら喋っていた空が、はきはきと声を張り上げてする迫真の指示を聞いて、動けないという選択肢はなかった。るいは陸に駆け寄ると、血がべっとりと付着した斧を手に取って、力いっぱい投げる。それからシャツを脱ぎ、必死に腕を圧迫した。呼吸はある。痛みで気絶しただけだ、陸は生きている。

空は斧を受け取ると、男2人に向かって、走った。そして、こう叫ぶ。

「ミノタウロス!」

男たちは、意味不明な言葉を叫びながら向かってくる空を、鼻で笑った。そのまま弟が構える……と、次の瞬間、その弟の右手首が宙に舞った。

「……は?」

「よくも。俺の親友を、殺しかけてくれたな。」

「……っ!?」

先程とは別人のようだった。動きが速く、力も強くなって……そして何より、目力が違う。まるで肉食動物のような、背筋の凍る鋭い目つきに睨まれて……弟は一瞬、自分の手首が吹き飛んだことを、忘れてしまった。

次の瞬間には弟は痛みに倒れ、空の斧は、兄の方に吸い込まれていく。

「お前、俺に撃たれて……手がほとんど使い物にならないはずじゃ!」

「あの程度の怪我で使い物にならなくなるような手なら、俺はとっくに、自分で切り落としてるよ。」

今度は空の斧が、兄の手の中の拳銃を遠くへ飛ばした。兄は焦ったのか、地面の弟を置いて、方向転換し逃げ始めた。

「あっ……おい、待て!」

逃げられるとなると話が変わってくる……空の“この状態”は彼のウエポンが憑依した結果である。具体的には体力の増加、そして移動速度も上昇している状態だ。

ウエポンは基本的に“召喚”以外に何も出来ない、彼のウエポンは一見、その常識を覆しているように見える。例えばささめのウエポンはランタンだが、彼のハルシネの能力さえなければ、あのウエポンはただ暗がりを照らすことしかできなくなる。

しかし、そのウエポン自体が持っている性質は、通常通りに使用できる。ランタンは光を放ち、虎は人を噛み、そして神は……人知を超えたことができる、それが神を神たらしめている理由だろう。この憑依も、そういうことだ。

ただし、これには時間制限がある。当然だ、憑依してると言っても、自我はあくまで空にあるのだから。少し口調が攻撃的になってはいるが、言っていること自体は、他の誰でもない空が、今心から思っていることに他ならない。つまり、いくら身体能力が上がろうと、人体の限界は越えられないわけだ。ミノタウロスの召喚は刹那だけ超強化される賭け、とでも言おうか、その刹那に殺しきれなければ、待っているのはとてつもない疲弊である。

空は男を追った。しかしもう限界が近い、手からの出血で今にも失血死しそうだ……視界が歪み、見える色がおかしくなる。

次第に減速する空を見て、男は勝ち誇ったように笑った。空はそのまま加速することもなく……やがて、地面に倒れ込んでしまった。


空が男たちと戦っている間。翔空は痛む足を見ながら、必死に考えていた。

(動けねぇ、痛い………どうするべきだ。)

どう考えても“使う”べきだ。そんなことはわかっているが……それは同時に、これからの縷籟での生活を、脅かすことになるかも知れない。今までの半年間、“氷高 翔空”として生きてきた半年間、色んなものを培った半年間を……自分の手で棒に振る、それが、とてつもなく、怖かった。まだ縷籟にいたい。ミズナと、サツキと、ミツルと、サクラと……センパイたちと、一緒にいたい。

特待生として、名を呼んでもらった日。最初に「トア」という名前を、友達に呼んでもらった日。

『トアくんだよね、俺ら仲良くなれそう〜。』

そういえば……一番最初に「トア」と呼んでくれたのは、陸だった。彼は屈託のない笑顔で、まるで元から友達のように話しかけてくれて……それが、とても嬉しくて。陸だけじゃない。みずなも。紺も。全員……“氷高 翔空”の友達だ。しかしそれは……自分が“氷高 翔空”でなくなっても、変わらないのだろうか。今まで友達だった者たちは、嘘をついてきた自分を、軽蔑するかも知れない。

でも、もし………この荷物を背負ったまま、縷籟警軍学校にいることが、絶対的な悪では無いのだとしたら。“氷高 翔空”の友達が、“氷高 翔空”ではなくなった自分とも、仲良くしてくれるのであれば。そして何より……“氷高 翔空”を友達だと言ってくれた人達の、未来を、国を、守るために。

心の中の不安が、消えていくような気がした。そうだ、先のことなんて考えたって仕方がない……今までずっと、そうやって生きてきたじゃないか。今自分が思う精一杯の正義を、善を、突き通す。それがあの人たちへの……復讐であり、証明だ。



完全に油断しきっていた男は……空が倒れ込んだ直後、耳を刺すような大きな音に、思わず後ろを振り向く。直後、目に飛び込んできた光景に、男は言葉を失った。

「……縷籟人、なぜお前が、その力を持っている!」

「さぁな、知ったこっちゃないね!」

翔空の背中からは、黒い翼が……片側に3枚ずつ、対になるように、計6枚生えていた。空は朦朧とした意識の中で、「え…?」と困惑する。

翔空は宙を飛んでいた。手には拳銃がある、空が先程吹き飛ばしたものだ。

「銃の扱いってこんなとこで役に立つんかよ!今だけは……クソ親父どもに感謝しないとな!」

そう言って、翔空は男に向かって、発砲した。パン、と弾丸は空気を切り裂いて……男の右の太ももに当たった。男はその場にドサッと倒れ、その場には、翔空の翼の音だけが響き渡る。

「………終わった、か?」

そう思うと、急に足が痛み出して……翔空は「いてえ!」と叫んだ。そして地面で気絶しかけている空を拾い、地面に倒れるように着地してから、縷籟の救急車を呼んだ。どうやら警軍用に、縷籟の人間が運営している医療機関が、各地にあるらしい……設備も、重症を治療できるようなものが揃えてあるそうだ。よくできている。

「マジでいてえ、足がいてえ。いてえって言ってなきゃ、頭がおかしくなっちまいそうなほど、クソいてえ。あーっ、いってえ、クソ。」

「トアくん………口、悪………。僕も……死にそうなほど、手が、痛い………。」

「ソラは実際、死にそうだろ。」

「そんな……僕、まだ、死ねないよ………。」

空はそう言ってから、気絶した。心臓は動いているし呼吸もしている、死んではいない。心臓に悪いことをするな……遠くに聞こえる救急車のサイレンに安心しきってしまったのか、翔空も空につられるように、気絶をした。






「はーいはーい、リクくん大ふっかーつ!」

縷籟警軍学校、特待4年寮。灯向が連れてきた陸は相変わらず底抜けに明るく、あまりにもいつも通りで……彼の右腕が無いことに、数秒経たないと気づかなかった生徒もいた。

「リクくん!」

空が駆け寄って、抱きつく。陸は少し驚いたが、その後照れたように微笑んで、左腕で抱きしめ返した。

「ごめん………ごめんなさい。ぼ、僕の武器で………腕が………。」

「ううん、ソラちゃん、大丈夫だよ。ソラちゃんが冷静に、るいくんに指示を出してくれたおかげで、俺はこうして助かったんだから。自信を持って、ありがとう。」

「………うん。わかった………とにかく、リクくんが、生きてて、良かったよ。」

「俺は腕1本無くなったくらいで死ぬほどヤワくないっつーの!」

空の頭をわしゃわしゃと撫でて、陸は部屋全体を見渡した。

「あれ、珍しい。全員いるじゃん、みんな俺を心配して待っててくれてた感じ?」

「いや、リクの腕のこと、ほとんどみんな初耳なはずだよ。おれがここに全員を集めた理由は、リクの腕のことをみんなに知らせるため。ほらみて、みんなめっちゃショックそうな顔してる。」

「「ショックそうな顔してる〜」じゃないよ。ヒナタくん、怖〜。」

「えっ、ごめん。他意はなかった。」

苦笑する灯向を見て、陸は楽しそうにけらけら笑う。ただ、やけに重苦しい顔をする1年生と3年生を見て、陸は笑うのをやめて、向き直った。

「……不安にさせてごめんなさい。けど、俺は元気だから、みんな、そんな顔しないでほしいな。」

「ツキヤマが元気で良かった。それに尽きるし、みんなそう思ってるよ。大変だったな、お疲れ様。」

徇の言葉に、その場の全員が、バラバラにこくこくと頷いた。

「うんうん、とにかく、生きててよかった。それと……実は話したいのはリクのことだけじゃない。そうでしょ、トア。」

灯向が翔空に言った。翔空はびくっと肩を震わせたが、「ああ、そうだ、みんなに言いたいことがある」と、立ち上がる。

颯希は不安そうに翔空の手を握っていたが、みずなが「離しなよ」と言ったので、頷いて離した。翔空は小さく「大丈夫だ」と言って、その場の全員に向き直る。

「あー……今から言うこと、嘘だと思うかも知れねぇんだけど……オレ、実は、西賦人なんだ。」

「えっ、外国人なの?」

意外にも、食いついたのはささめだった。一緒に任務でも行かない限り、彼がまともに喋っているところを見たことない人が殆どなので、みんなは驚いたようにささめを見る。一気に視線を浴びて、ささめもまた、驚いた。

「……変なリアクションをしてしまった?ごめんなさい。」

「いや、キツネ、喋れるんだ〜……って。」

「あっ、えっと……。自分、クウォーターだから、少しだけ疎外感を感じてて、食いついてしまった。ごめんなさい。」

「疎外感!?だ、だめですよそんなの!」

こういった言葉に人一倍敏感なのか、颯希は焦って立ち上がると、ささめの隣に座りなおした。そのまま困惑するささめの手を取る。みずなが咄嗟に海斗の顔を見るが、相変わらずニコニコしているだけで、怒っているような様子はなかった。

「あ〜……オレの話していいか?」

「ごめんなさい。続けて。」

ささめは颯希を膝の上に乗せて、翔空の話に耳を傾ける。

「あー、まあ西賦人っていうのはいいんだが……じ、実は…………オレは、現在失踪中の……西賦の………王子、なんだ。」

誰からともなく、「えっ?」という声が、あちこちから聞こえた。灯向以外の4年生たちも知らなかったのか、ビビったような顔をしていて、唯一みずなだけが「えっ?みんな、誰1人知らなかったの?」と別の方向で驚いている。

「逆に……ミズナくんは、知ってたの?」

桜人の質問に、みずなはこくん、と頷いた。

「王子が失踪したのが4月で、僕たちが入学したのも4月だし……最初にふっかけたら、トアの方から自爆した。」

「そんな記憶、存在しねえな……てなわけで、改めて。オレは西賦王国の次期国王、華立 羽生だ。氷高 翔空は、ここに入った時に作った偽名。騙しててごめん、黙っててごめん。」

誰も、何も言わなかった。今まで普通に接してきた同級生が、後輩が、隣国の王子だっただなんて、衝撃で言葉が出ないのも当然だ。

「どうしてトアは、いや、ハオって呼んだ方がいい?」

「トアでいいっすよ。」

「どうしてトアは、縷籟警軍を受けたの?」

「あー……。」

灯向からの質問に、翔空は、少しはにかんで、笑いながら言った。

「反抗期っす。」

「反抗期?」

「国民の税金で飯食ってる両親が、オレ、どうも気に食わなくてさ。家出して、もう西賦には戻らないって決めて、縷籟に密入国したんだ。でも家もなければ、金もない……そんな時に縋ったのが、縷籟警軍の、特待だった。

ここに受かれば、衣食住がつくと同時に、縷籟のために命をかけることで、大嫌いな両親に、ささやかな反抗ができると思った。あいつら、縷籟のこと嫌いだからな。あとは、人の役に立って……オレは、横暴な国王とは違うんだって、証明したかったのかもしれない。」

「そして全てが上手くいった、と?」

みずなの言葉に、翔空は首を横に振った。

「いや、全てじゃねえよ。お前たちに、このことを知られたくなかった、本当はな。西賦に帰らなくちゃいけなくなるだろ?隠れて入国してるんだから。」

「じゃあ、どうして僕たちに、その事を話したの?」

「時間の問題だと思った。翼を使ったからな。実際、報告書を読んだヒナタパイセンには、王子即バレしちまったし……。」

「おれのせいだったの!?ごめん。」

「いやいや、最終的に決めたのはオレっすから。」

話についていけていない様子の人がちらほらいる……翔空はみんなの真ん中に立つと、「危ないので離れてください。」と上半身を脱ぎ始めた。

「翼……っていうのは、これのこと。」

その瞬間。バサッと音を立てて、翔空の背中から、対になった6枚の翼が生えた。「うおっ」と声があがり、翔空はまた、照れくさそうに笑う。

「この羽は、元々、西賦の王が代々“悪魔”と言われる由縁で……悪魔の翼って呼ばれてる、西賦の王族だけが使える、高貴な翼なんだ。まあ、今は、悪魔としての象徴……みたいになっちまってるけど。

ウエポンは“召喚”だろ?だから言い訳が出来なかった、これは召喚じゃなくて異形だからな。ヒナタパイセンは報告書に書いてた6枚の翼ってのを読んで、「えっ、国王!?」って、めっちゃでかい声で言うから……マジでビビった。」

「ほんと、ごめんって!デリカシーが無くて!」

「はっはは、冗談だよ。」

翼をしまってから、翔空の表情は、段々と曇っていった。

「これを知られたからには……つか、国にバレたから、どんな処遇が待ってるのか、わかんねぇ。退学になるかもしれねえし。」

「……そっか。」

颯希は泣きそうな顔をした。そんな颯希を見て、ささめが頭を撫でる。

「大丈夫だよ。ヒダカさんは、退学になんかならないから。」

それを慰めだと思ったのか。颯希は気難しそうに微笑んだ。

「ササメ先輩。確証もないのにそういう慰め、良くないと思う。」

見かねた桜人が、ささめに言う。ささめは一瞬、少し驚いたような顔をしたが、すぐに言い返した。

「うん、オギさんの言う通り。でも自分には、確証があるから言ってる。」

「えっ?」

「オレもヒイラギに賛成だ。オレが言うんだから間違いねえ、ヒダカは退学にならない。」

徇の言葉に、1年生と2年生は、訳がわからず驚いていた。

「えっ……でもオレ、身分偽ってた違法入国者っすよ?」

「なんか、こんな話、ミツルともした気がするけど……1年生さ、縷籟警軍に、過去とか身分の隠し事ができると思わない方がいいよ。お偉いさんはトアが、西賦の王子だってことなんて、把握した上で特待生に通してる訳。今更退学だなんて、そんなメチャクチャ、しないよ。」

「えっ……でも。犯罪者……犯罪者じゃないっすか、オレ。」

「法典に、“違法入国者は警軍になれない”なんて文はない。お前が違反したのは、西賦の、国から逃げるなってやつだけだ。当然、西賦の法律違反を、縷籟が裁くことは無い。」

「縷籟警軍ってどこの国の人でも、前科が無くてウエポンに代わる特殊能力さえ使えれば入れるから。まあトアの逃走が、西賦での法律違反、即ち前科っていう解釈もできなくはないけど……縷籟にとって脅威になる心配はないし、許してくれたんだろうね。」

徇と灯向の言葉に、翔空は、「へぇ……」と、力の抜けたような返事をした。てっきり退学になるのかと思っていたが、完全な杞憂だったようで、今はただ、退学を恐れて翼の使用を渋ってしまった過去の自分が恥ずかしい。

「うーん……ボクには警軍のルールとか、よくわからないけど。トアくんはこの任務で縷籟のためにすごく活躍したし、縷籟警軍にいちゃだめなことなんてないと、おにーさんは思うぞ〜。忘れないでね、君の存在を否定する人なんて、この場にはいないってこと。全員、トアくんの仲間だからね〜。」

夕は微笑みながら、そう言った。その場の全員が頷く。

「……そうだよ!トアくんは私たちの仲間だよ、今さらいなくなるだなんて、許さないからね!」

颯希はそう叫んで、翔空に抱きついた。不意に感じた温かさに、翔空は自分の目頭が、少しずつ熱くなるのを感じて、咄嗟に手で目を覆う。

「……ありがとう、みんな。嘘ついてたのに、許してくれて。」

「許すも何も、トアはトアだし……。」

「1番最初から知ってたお前には言ってねえよ。」

「なにそれ。」

縷籟警軍は暖かい。自分の居るべき場所はここなんだ、自分はこれからも、“氷高 翔空”として生きていいんだ。そう心から思える環境に、翔空は胸いっぱいの感謝を覚えた。

いつのまにか、背中の荷物は、黒く重たい悪魔の翼から……翔空が翔空であれる証、これからも警軍にいられる証明へと、姿を変えていた。





続く

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