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#憑依
成瀬りん
633
#家族
たつ
53
#日常
ももは
551
夜の路地
夜。
濡れたアスファルトを蹴る足音が、静かな路地に大きく響いていた。
「……っ、くそ……!」
フードを深く被った男は、息を切らしながら闇の中を駆け抜ける。
背後から、無機質で冷たい声が追ってきた。
「逃がすな。」
「待て!」
複数の影が屋根の上や路地の入口に現れる。
その纏う気配は、ORVASとも、かつてのアビスとも違っていた。
男は歯を食いしばる。
「……グッ」
路地の突き当たりで足を止めると、ゆっくり振り返り、掌に紫色の光を宿した。
ズンッ……
空気が歪み、景色が揺らぐ。
次の瞬間。
男の姿は闇へ溶け込むように消えた。
「消えた……!」
「追跡を続行しろ。必ず見つけ出せ。」
残されたのは、紫色の残光だけだった。
別の場所。
男は壁にもたれ、膝に手をつきながら荒く息を整える。
「……はぁ……はぁ……」
フードの奥の鋭い瞳だけが、静かに闇を見据えていた。
昼下がりの教室
チョークが黒板を走る音。
数学教師の淡々とした声が教室に響く。
「では、ここは重要だからノートを取るように。」
だが、公太は窓の外を眺めていた。
(……静かすぎるな。)
(本当に、あの戦いは終わったんだな。)
以前のように授業中に騒ぐことも、居眠りをすることもなくなった。
しかし、その心は常に”次の戦い”へ向いている。
(畑中さんのネオコード……。)
(あれはまだ底が見えねぇ。)
(今の俺じゃ、きっとまだ届かない。)
脳裏に浮かぶのは畑中の背中。
そして鷹野との死闘。
(もっと……強くならなきゃ。)
拳を静かに握る。
(それにしても、あの時のあの力はいったい何だったんだ……?)
その時だった。
教師が振り返る。
「じゃあ、この問題を武藤。分かるか?」
公太は立ち上がり、拳を握ったまま答えた。
「まだ分からねぇ。でも必ず掴んでやる。俺はぜってぇ強くなる!」
教室が静まり返る。
教師は呆れ顔だ。
「……はあ?何の話だ。今は授業中だぞ。ちゃんと話を聞いていたのか?」
「あ……そうだったな。」
公太は苦笑いを浮かべた。
その時――
ポケットの通信機が小さく震える。
『公太、招集よ。学校が終わったらORVASへ来られるかしら?』
ジュリーの声だった。
「了解。」
授業中のため、小声で返事をする。
(何だか分からねぇけど……久しぶりの招集か。)
(ワクワクしてきたぜ。)
森の奥
木々に囲まれた静寂の中。
ブンッ。
乾いた風切り音が響く。
唯我は足を踏み込み、龍焉刀を振り抜いた。
無駄のない呼吸。
無駄のない構え。
その背後で、落ち葉を踏む音が聞こえる。
「また来たのか。」
振り返ることなく唯我が言う。
「もちろん。」
明るい声。
そこには、いつものように微笑む瞳が立っていた。
「唯我のためなら、いつでも頼ってね。」
唯我は一瞬だけ視線を向ける。
しかし何も言わず、再び刀を構えた。
ブンッ。
ブンッ。
黙々と素振りを続ける。
「もう……ほんと素直じゃないんだから。」
瞳は少し頬を膨らませながらも、その背中を優しく見つめていた。
やがて真剣な表情になる。
「ねぇ、唯我。」
素振りが止まる。
「唯我は……何のために、そんなに強くなりたいの?」
風が木々を揺らす。
しばらくの沈黙。
唯我は刀を下ろし、空を見上げた。
「……それは、俺にも分からん。」
低く、正直な声。
「ただ……。」
少しだけ間を置く。
「俺の剣で誰かを守れるなら……。」
「そのために強くなりたい。」
「そう思うだけだ。」
瞳は静かに頷いた。
「……そっか。」
「それでいいと思う。」
「唯我らしいよ。」
唯我は何も答えない。
だが、その表情は少しだけ柔らかくなっていた。
その時。
ピッ。
通信機が鳴る。
『唯我、聞こえる? ORVASより招集。至急戻って。』
「……了解。すぐ行く。」
通信を切り、龍焉刀を背負う。
「じゃあな。」
短い別れ。
「うん。気をつけてね。」
瞳は唯我の背中を見送り、小さく呟いた。
「……ちゃんと守れる人になってるよ。」
唯我の姿が森の奥へ消える。
静寂が戻る。
しかし、新たな戦いの気配は確実に近づいていた。
寺
朝の鐘が境内に響く。
「はっ!」
一祟の鋭い突きが空気を裂く。
子どもたちも一生懸命その動きを真似していた。
「じゃあ次、型に入るよ。」
「琴音、みんなに合わせてね。」
「うん、お兄ちゃん!」
妹・琴音が元気よく返事をする。
一祟は優しく微笑んだ。
やがて休憩時間。
「琴音、体調はどうだい?」
「うん!お薬のおかげで良くなってきたよ!発作もしばらく出てない!」
「それは良かった。」
安心したように笑う一祟。
その時だった。
境内の隅で一人座り込む男の子が目に入る。
一祟はそっと隣へ腰掛けた。
「どうしましたか?」
「元気がないみたいだけど。」
男の子は肩を震わせる。
「……いえ、何でもありません。」
そう言うと、すぐ子どもたちの輪へ戻っていった。
一祟は追いかけない。
「……気になるな。」
その時。
ピッ。
通信機が鳴る。
『一祟、聞こえる?緊急招集よ。至急本部へ来て。』
ジュリーの緊張した声だった。
「……了解。すぐ向かいます。」
通信を切る。
一祟は子どもたちへ向き直った。
「みんな、今日はここまで。」
「気をつけて帰るんだよ。」
「はーい!」
元気な返事が響く。
琴音も笑顔で駆け寄る。
「お兄ちゃん、またあとでね!」
一祟は頭を優しく撫でた。
「うん。」
「またあとで。」
袈裟を翻し、一祟は寺を後にする。
こうして、公太、唯我、一祟は、それぞれ新たな戦いの気配を感じながら、ORVAS本部へと向かうのだった。
コメント
1件
読み終えました!今回は公太、唯我、一祟それぞれの日常と覚悟がしっかり描かれていて、また新しいフェーズに入ったんだなって感じました。特に、公太が教室で「必ず掴んでやる」って叫ぶシーン、思わず笑っちゃうと同時に熱くなりました。唯我と瞳の空気感もすごく好きで、「誰かを守りたい」という一言に彼の優しさがにじんでいて。それぞれの静かな決意が、次に何が起こるのかを予感させて、ワクワクしますね!