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「週末に研修で3泊4日、九州に行くことになった」
土日も挟んでの研修なのだ、となおちゃんが言って。
下手したら4日間、なおちゃんに会えないのかって思ったらちょっぴり切なくなった。
「何考えてる?」
そっと頬に手を添えて口付けられながら、私はそんなことされたら答えられないよ、って思った。
「な、おちゃ……」
季節は夏が終わって、窓を開けて寝ていたりすると、明け方に寒くて目が覚めたりするような……そんな頃合い。
七分袖のセーターの裾から手を差し入れて、胸を下着越しにやんわりと揉まれた私は、小さく吐息を漏らす。
「寂しいな、って思っ、……あんっ」
ブラ越し、固く尖った先端を不意に爪でカリッと擦られて、思わず声が漏れてしまった。
最後まで言わせてくれないの、本当、意地悪!
「俺もね、菜乃香の身体に4日も触れられないとか……考えられないんだけど」
プチッと背中のホックが外されて、胸の締め付けが一気に緩む。
それと同時に当然のようになおちゃんの大きな手が乳房全体を包み込むみたいにギュッと膨らみを押しつぶしてきて。
「んっ、なおちゃん、痛い……」
いつもより強く揉まれた柔肉が、小さく悲鳴を上げる。
なおちゃんがこんな風にいつもより強めに触れてくる時は、その後の行為も普段より荒々しいことが多い。
寂しいからかな?って思って……「ついて行けたらいいのに」って何気なくこぼしたら、なおちゃんの手が止まって。
「そっか。そうすればいいんだよな」
って私のセーターを脱がせながらつぶやくの。
「なお、ちゃん?」
セーターと一緒にブラも取り払われて、半裸にされてしまった私は、胸を隠すようにしながらなおちゃんを見つめる。
「菜乃香、金曜の仕事が終わったら、新幹線で福岡まで来いよ」
「来られる?」とか「おいで」とか「来て?」じゃなくて「来いよ」と言われたことで、これはなおちゃんの中では決定事項なんだって悟った。
私に、なおちゃん以外との予定なんて入っていないと知った上での強気な発言。
いつか結婚出来そうな相応しい相手を見つけたら、その人と付き合ってもいいと言ったのと同じ口で、新しい出会いを与える暇なんて与えないよ?って言われている気がして。
本当なら「ひどい」って怒らないといけないところなのに、服従させられることを心地よいと感じてしまう私はなおちゃんのそんな強引さにときめいてしまう。
こんなんじゃ、いつまで経ってもこの泥沼から抜け出すことは出来ないと冷静な部分で警鐘を鳴らす自分と、そのマトモな自分に向けて、「だって仕方ないじゃない」って必死に言い訳する情けない自分とがいて。
何かがあるたびにその2つの自分が心の中で拮抗してるの、なおちゃんは気付いてもいないんだろうな。
この独占欲の塊みたいな人に、「(別の誰かと)結婚することになったの」なんて告げたなら、どうなってしまうんだろう?
その時は本当に潔く身を引いてくれるの?
それとも「そんなの許さないよ」って私を引き止めてくれる……?
どう考えても悪い男に弄ばれていることは明白で、こんな関係の彼氏?がいるだなんて両親には絶対に言えないのに。
それなのに私、なおちゃんが私を離さないと駄々をこねてくれることを期待していたりもして。
「黙り込んじゃって。もしかして旅費の心配でもしてるの?」
胸を覆っていた手をそっとのけると、なおちゃんが人差し指と中指の間に挟むようにして頂をギュッとおしつぶしてきた。
「やんっ」
嫌ではないけれど、ゾクッ走った快感に思考を奪われてしまいそうなのが怖くて、思わず抗議の声を上げたら、
「菜乃香の身体は頭の天辺から爪先の先まで全部俺のものだよね? 髪の毛一筋だって自由にさせる気はないよ?」
なおちゃんが拒否するのは認めない、って言外に含ませてくる。
「分かっ、てる」
そんなこと、言われなても嫌というほど身体に刻み込まれてる。
「ピアス、外しておこうか」
耳朶を甘噛みしてから、なおちゃんがピアスに触れてきて。
「俺が外してやろう」
言って、チェーン式の揺れるカラーストーン付きのピアスをススッと耳から取り去ってしまう。
ピアスの穴がチェーンにこすられる感触がして、自分で着脱するときには感じたことのない軽い快感に、ゾクッと身体が震えた。
「これ、気に入ってるみたいだね」
外したピアスを、テーブルにいつも置いてあるガラスの小皿に入れると、なおちゃんがそう言って。
それは、初めてなおちゃんにピアスをプレゼントしてもらった日に、サファイヤのピアスと、18金のボールピアスとともになおちゃんが買ってくれたものだった。
他のスタッドピアスと違って、ひとつだけデザイン違いのチェーン式を選んだのは、付けている状態で穴越しにチェーンの長さを調節することで、ピアス穴が塞がるのを防いでくれそうなイメージがあったから。
それに――。
「なおちゃんの誕生石だから」
ローズクォーツで出来た、薄桃色の石が薔薇の花を模した形にカットされた可愛らしいデザインのピアスは、あの日なおちゃんが買ってくれたピアスの中で私の1番のお気に入りになった。
キャッチがないから、髪を梳かすとき、櫛に引っ掛けてしまったりするとすぐに外れてしまう危うさはあるけれど、その分、軽く引っ張るだけでスルリと外れる気安さもある。
今なおちゃんがしたみたいに簡単に外せてしまえるのも、情事の際にはピアスを外すようにしている私には有難くて。
1度、別のピアスをつけたまま事に及んだとき、ピアスが片方なくなってふたりで探し回ったことがある。
そうならないように、今は百均で買ってきた小皿をベッドサイドや、リビングのテーブルなど数カ所に置いて、外したピアスをすぐにそこへ入れられるようにしているの。
私にとっては、どのピアスもなおちゃんがプレゼントしてくれた大切なものだから。
なおちゃんは形があるものはいつか失くなったり壊れたりするものだよって言ってくれるけど、なおちゃんとの関係が有限だと知っている私は、ひとつだって彼との思い出を失いたくないと思っていて。
つけないことは選択肢にないけれど、失くすことも考えたくない。
壊れた時はできるだけ直して使いたい。
そう思ってるんだよって言ったら、なおちゃんは「バカだな」って言いながらもすごく嬉しそうだった。
以来、なおちゃんもピアスのことを気にしてくれるようになって。
「ピアス外そうか」は、ある意味「今からエッチしようか」と同義。
「菜乃香、さっきの話だけどね、旅費はもちろん俺持ちだから。菜乃香は泊まりに必要なものだけ持って身ひとつで来てくれればいいんだよ?」
言って、ふと思い出したように「あ、でも……直太朗の預け先確保しないとまずいか」って部屋の隅っこに置かれた縦長のケージに視線を移した。
***
『彼氏と旅行?』
お母さんに電話したら、開口一番そう問いかけられて。
『なのちゃんももう子供じゃないからお母さん、アレコレいう気はないけど……その……自分が困るようなことだけはしないのよ?』
溜め息まじりに言われて、私はドキッとする。
お母さんはハッキリとは言わなかったけれど、きっと困ること、というのは望まない妊娠のことを指しているんだって思った。
もちろんなおちゃんはエッチの時、必ず避妊はしてくれるけれど、そういう行為をしている以上100%赤ちゃんが出来ないという保証はない。
「ん、気を付ける」
『――で、今度ちゃんとその人、お母さんたちにも紹介するのよ?』
言われて今度こそ私は言葉に詰まってしまった。
『……なのちゃん?』
急に黙り込んでしまった私に、お母さんの不審そうな声が掛かる。私はそれに押されるように、慌てて
「まっ、まだ付き合い始めたばかりだから……もう少し落ち着いたらっ」
本当は付き合い始めて2年以上になろうかというのに、そんなこと言えっこない。
『わかった。で、直太朗だっけ? なのちゃんが飼ってるフェレットを預かればいいのね?』
うちの家族はみんな生粋の動物好きだ。
私がフェレットを飼い始めたと言った時も、お母さんがすぐに見に来て直太朗と遊んでくれた。
『ご飯とかどのくらいあげたらいいかとか……お母さんちっとも分からないから。そういうのはちゃんと分かるようにしておいてね?』
言いながら、楽しみ、とお母さんが言ってくれたことにホッとしつつ。
私は心の中で親不孝な娘でごめんなさい、と謝った。