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「…狸多いな」
現在、昼食も兼ねた自由行動の時間なのだが、私は元々目をつけていた『茂林寺』に来ている。茂林寺は御伽話の『ぶんぶく茶釜』にも出てくる有名なお寺だ。ここに来たのはそこそこお寺が好きという理由も有るし、独りになれる静かな場所に行きたかったという理由も有るのだが。
お寺の総門からひとたび中に入ると、道の両脇にズラッと並ぶ21体の狸像が恰も異世界の一部であるかのようなノスタルジーさを感じさせたー。
「あ。成瀬ちゃん?」
って、オイ。
「遊宵先生…?」
どっから出て来たんだこの物理教師は…。人懐っこい笑みを浮かべ、ハーフジップのトレーナーをオーバーサイズで着こなしているが、襟を開いて敢えて隙を作っているところが何とも油断ならない男である。
「偶然だね☆」
「そうですね」
「お寺の観光だなんて結構シブいねー。しかも1人で。…意外と陰キャだったりして」
「うッ。それを言うなら先生もじゃないですか。…女子たちから逃げて来たんですか」
「あは。そんなトコ」
横並びで山門を潜る。
「和住となんかあったでしょ」
「!」
「和住が生徒にプロポーズしたって話題は教員たちの中でも持ちきりなのよ。それに色良い返事をしてないんじゃないかってのは僕の憶測なんだけどね」
「…確かに、その通りです。でも私の問題っていうか。和住先生の好意は有り難いですけど、私じゃ応えられないんですよ。碌に恋したことも無いし。愛とか恋とかなんじゃそれってカンジで。…それで和住先生を傷付けてしまった。本人がどうってことないって言っても、それじゃあ駄目じゃないですか。だから、烏滸がましいんですけど『好きにならない方がいいです』って伝えたんです。でも、受け入れてもらえませんでした」
「なるほどね」
「私が恋愛に向いてないんだと思います」
「……和住のこと、嫌い?」
「いいえ!嫌いではないです」
「じゃあ大丈夫だよ。無理に近づくことも無理に距離を取ることもしなくていい。相手の気持ちに応えようとしなくてもいいんだよ。恋って気持ちのメーターだからね。一気に振り切れる人もいれば、時間をかけて貯まっていく人もいる。好意をただ受け取るってのも、恋の貯金なんだよ。いつか返せるかもしれないしね」