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第七章 3

次の日の夜、とある場所に、今回の任務を任された人間とパートナーの庇書が一堂に会した。そこには人間だけで、千代を始め五十人以上が集まっていた。

梨々菜は、初めて聖司の前に現れた時と同じ格好をしていた。庇書の正装なのだろう、羅々衣を含め全員が同じだ。美人揃いの庇書が純白のドレスを着て整列している様子は、神々しい雰囲気が感じられた。

「こんなにいたんだ」

パートナーの人間達の年齢は様々だったが、体育会系だと一目で分かる体格の人達ばかりだった。

しかし、こんなに強そうな人達の中でも、亡くなった者はいないが入院した者はいたと聞き、庇書が梨々菜で良かったと思った。

「それより聖美。なんでお前が、ここにいるんだよ」

「いいじゃない。最後のお別れをさせてくれたって」

「関係ない奴がいても良いのか?」

「大丈夫ですよ。あっ、いらっしゃいました」

全員が見つめる先に、人の形をした黒い影が出現した。庇書全員が、その場にひざまずいて頭を下げる。

「よいよい。面をあげい」

「はい」

梨々菜の他、何十人もが一斉に答えると、なかなか迫力がある。

「皆の者、ご苦労であった。今回は人間に、少しばかりの苦労をかけた。その見返りに天国で何不自由ない生活が待っておるから、今後も悪事をすることなく、短い人生を有意義に全うするように。そして、庇書の者達よ。天界に戻りしあとはそれぞれ昇格するから、パートナーと別れを済ませたら順次、私の元へ来るように。では、人間の者達よ。死んだら、また会おうぞ」

閻魔大王は言うことだけ言って、すぐに消えてしまった。

「あはは。死んだら会おうなんて、変だね」

聖美は悲しい気持ちを抑えるために懸命に笑いながらも、瞳一杯に涙を溜めていた。

「観月さん、いろいろありがとうございました」

梨々菜は聖美の手を取ってギュッと握りしめると、顔を近づけて耳元に囁いた。

―――聖司さんと、末永くお幸せに。

―――もうっ、梨々菜さんったら。

聖美は梨々菜に抱き付くと、零れる涙を拭いながら大きく頷いた。

「梨々菜、これ。さっき学校で現像してきたんだ」

聖司はポケットから、三人で写っている写真を出して梨々菜に渡した。そこには、楽しそうに笑っている三人が写っていた。その写真を見れば、聖司と出会ってからの数ヶ月間の記憶が、ありありと甦る。一緒に任務を遂行したこと、一緒にご飯を食べたこと、一緒に風呂に入ったこと。楽しいことが、たくさんあった。

「ありがとうございます。大切にします」

感激した梨々菜は写真を大事そうにしまうと、大きく手を広げて聖司を抱きしめた。

「おっ、おい」

梨々菜の柔らかい胸に顔を埋めながら、聖司は泣きそうになった。

「短い間でしたが、お世話になりました」

「い、いや。こちらこそ、何回も助けてもらったから」

涙を堪えながら恥ずかしくなって離れると、同じように抱き合っているパートナー達がたくさんいた。羅々衣と千代も、抱き合って涙している。聖美の方を見ると良い顔はしていなかったが、最後だからと黙認していた。

梨々菜は、もう一度抱きしめると、聖司の背中を押してくれる言葉をくれた。

「聖司さん。聖司さんは出会った頃より、とても逞しくなりましたよ。観月さんに見劣りすることなんて、決してありません」

「梨々菜?」

「なに赤くなってるのよ。いやらしい」

聖美に対する想いを見透かされていた恥ずかしさで顔が赤くなると、聖美が茶々を入れてきた。

「うるさいな」

「ふふふ。聖美さんは、告白してくれるのを待っていますよ」

「そ、そうかな」

「ええ。間違いありません。大切な人がいるというのは、とても素敵なことです。いつまでも仲良くしてくださいね」

「わかった。ありがとう」

名残惜しそうに離れると、梨々菜は聖司の頬に、そっとキスをした。心地よい香りが鼻をくすぐる。そのキスには、勇気を出してくださいというメッセージが込められていた。

聖司が目を見開くと女神を思わせる微笑みを浮かべ、瞳から落ちる涙を残して、スッと消えた。

「行っちゃったね」

「ああ」

聖司は、地面に残った涙の跡を見て、「またな」と呟いた。

周りを見ると他の人達も次々と別れを終え、庇書達は全て消えていた。聖司がホッと一息吐いていると、羅々衣と別れた千代がハンカチで目頭を抑えながら歩いてきた。

「さようなら」

すれ違いざまに目を合わせて会釈したので、聖司も「どうも」と言いながら軽く頭を下げた。千代とはもう会うことはないだろう。

「聖ちゃん、寂しいでしょ」

「ああ。でも、聖美が賑やかだから大丈夫だ」

寂しそうな表情を見られないように、横を向いて言う。

「それ。どういう意味?そんなことを言う聖ちゃんには、お仕置きだ」

正面に回り込んだ聖美は怯んだ聖司に構わず、さっき梨々菜がした、ちょうどその上に唇を重ねた。

「聖美?」

慌てて頬に手を当てると、釘を刺された。

「こら、こすっちゃダメだからね。梨々菜さんとのことは大切な想い出だけど、これからのことも、ちゃんと考えてよ」

「分かってるよ」

聖美は後ろにステップしながらアカンベエをすると、照れ笑いを浮かべて走っていった。そんな聖美の後ろ姿を見つめていた聖司は、近い内に告白をしようと決心していた。そして、必ず結果は報告するからと、星が輝く夜空を見上げた。



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