テラーノベル
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私は夜空を舞いながら、この体はなんと自由なのだろうと思った。
足元に広がる帝都の街並みは美しく、私の前を遮るものは何もなく。どこまでも自由。月まで行けそうだ。
暗い夜は嫌いだったが、初めていいなと思えた。
きっと鷹夜様と一緒に夜空を駆けることが出来たら、さぞ楽しいだろう。
あぁ、そうか。私一人ではなく、鷹夜様と一緒だからいいなと思えた。鷹夜様とだったら、全ての場所が好きになれるのだろう。
そんなことを考えていたら、あっという間に皇宮についた。
上から見ると堀が五角形。塀に沿うように街灯が広大な敷地を縁取っていた。
私の瞳には自然と、この敷地内には人がいないことが映った。中央に座する御所には強力な結界があり、そこに人が集中しているのも分かった。
「ここなら大丈夫ね」
ひゅっと下降して、堀の手前にある立派な門の上に降り立った。
|靡《なび》く髪を手で抑え、背後にある尻尾で姿勢を調整する。
足場にした門は城の大手門のような作りで、土蜘蛛を待ち構えるのに丁度いい。
屋根瓦の上に立ち、御所を背にして大通りへと視線をやれば、もうもうと白い煙を上げて道を|破砕《はさい》しながら、土蜘蛛が真っ直ぐに私目掛けて向かって来た。
しんとした夜に響く破壊音。
誰もここに現れないのは、鷹夜様を始めとする皆様のおかげだと思った。
「私も最後にはお役に立たないとね……」
ふっと冷たい夜風に言葉を流したあと、口元を引き締める。
土蜘蛛がよそ見をしないように、私の周りに大小の狐火をぽっと灯した。
金色の炎と違って狐火は赤、青、白の色彩をしていて、とても明るかった。
もう少しで土蜘蛛もここに辿り着く。
吸収された人達を助ける為に意識を集中させると、轟々とした音を立てて、正面に土蜘蛛が迫って来た。
「アァァ、タマモ。今、行く──!!」
鋭い脚を地面に幾つも突き立て、鬼面の真っ赤な口を開けてこちらに来る土蜘蛛。
「もう少し、近づいてから……門の前にある広場に来た時を狙う……」
今の私なら大丈夫だと拳を強く握る。
土蜘蛛がさらに私へと接近して、広場に差し掛かり。
一際大きく、脚を振り上げたその瞬間。土蜘蛛の腹が地面から浮いて、今だと思った!
かっと瞳を見開いて手を前に出す。
そして頭の中で土蜘蛛の腹をくり抜くように。抉り取るように、強く意識して炎を土蜘蛛の腹へと出現させた。
すると金色の炎の罠に掛かったように、土蜘蛛は絶叫してその巨体を揺らしたが、私は構わずに炎を操る。
腹の中にいる五人を炎で探りあて、炎で包み込み──、一息に土蜘蛛から切り離した。
腹の一部を炎で抉り取られた土蜘蛛が、広場でのたうちまわれば、ぐらぐらと門が揺らぐ。地面に亀裂が走る。
しかし、私は必死でそれどころじゃない。
「よし、五人はまだ生きているっ!」
炎で包み込んだ人達をひとまずは、この私が立っている門の後方へと移動させようと思った。
それはまるで筋斗雲が人を運んでいるような光景。
私の横をびゅっと炎に包まれた五人を、横目で一瞬だけ見た。
全員、酷く|憔悴《しょうすい》していて気を失っていたがギリギリで生きている。ならば私の癒しの炎で時間は掛かるかも知れないが、そのうち目を覚ますだろう。
「良かった。間にあった……!」
ほっとした。
本当は駆け寄って手当をしたいが、私は土蜘蛛から目を離せない。
炎を感覚だけで操り。門から離れた場所へと五人を下ろす。確かこの後ろは柔らかい芝生があった。そこであれば助けた人達を横たわらせていても、大丈夫だろう。
きっと御所の人達が気付いてくれる。
あとは最後の仕上げをしなくてはいけない。
土蜘蛛の足止めをするべく、私は門から飛び降りて悶絶している土蜘蛛の前へと降り立った。
近くで見る土蜘蛛はやはり、怖い。
でも私と一緒で──哀れだ。