テラーノベル
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次の日の朝は寝汗がびっしょりとシャツにまとわりついていた。心臓の鼓動はまだ早く、まるで悪夢の続きを現実に引きずっているかのようだった。僕はお守りを握ったまま目を覚ました。まだほんのりと温もりが残る布団の中、あの帽子の人物の姿が頭から離れなかった。
だが、その夜から更なる異変は始まった。
深夜、夢うつつの中で、階段をきしませる音が聞こえた。「ギィ……ギィ……」とゆっくり上がってくる。家族の誰かかと思ったが、時計を見ると午前2時。そんな時間に誰が? 身動きできずに耳を澄ませていると、階段の音は止まり、次は廊下の床が軋む音へと変わった。まるで誰かが、僕の部屋の前に立っているような気配。
(気のせいだ、風か猫だ)
そう思い込もうとしたが、次の瞬間──ノックの音がした。
「コツ、コツ……コツ」
3回、ゆっくりと。だが、家族のノックとは違う。何かを試すような、不自然な間があった。
声も出せずに固まっていると、部屋のドアが「カチャ…」とゆっくり開く音がして、すぐにまた閉じた。誰かが覗いただけのようだった。
朝になって確認すると、ドアには鍵がかかっていた。母に聞いても、夜中に2階には来ていないという。
朝が苦手な兄も深く眠っていて今だに起きて来ない。
その日、学校へ向かう道すがら、再び事故現場の前を通った。前よりも、空気が重たい。振り返ると、遠くに誰かが立っている。白いシャツに、帽子を被った人物──距離があるのに、目が合ったような感覚。僕は駆け足でその場を離れた。
家に帰ると、兄が顔色を変えて言った。
「昨日の夜、また見たよ。今度は、俺の部屋の前に立ってた。ずっと、ドアの隙間から中を覗いてた」
僕の心臓は再び早鐘を打ち始めた。もう、僕だけの問題ではない。兄も見ている。現実に、何かが僕たちの家に入り込んでいるのだ。
僕は、お守りを再び握りしめた。
だが、その夜、とうとう“声”まで聞こえるようになるとは、まだ知らなかった。
コメント
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すみりんりーん桜井すみれです!じゃんじゃんコメントしてってね!