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※前回の裏話的な何か
※シリアスとギャグの中間線
※いい加減本編を進めろ
プププランドでは見慣れのない、鉄でできた建物を好奇心のままに歩き回る。外交はあまりしていない国とはいえ、城にある蔵書には様々な星の文化が書かれていたから多少は分かることがある。エレベーター、テレビ、デパート――文字こそ解読はできなかったものの、自身の記憶と本の内容に誤りさえなければ正しい情報のはずだろう。
「大王様…少しは待ってくださいよ…」
「全く…いつにも増して、足が速いんスから…追いつくこっちの身にもなってほしいものです…」
後をついてきていたらしい二人の、息が切れた声を耳に入れてようやく足が止まった。どうやらここまで夢中になって歩き続けていたらしい。
「おう、すまんすまん…しかし――さっきまでは1階にいたはずだよな?それがどうして…2階にいるんだ?」
「「それはあなたがずっと歩いてたからです!!」」
1階から2階までほぼ無意識で歩いていたというのだ。もちろん、驚かないわけがなかった。しかしそれを謝る気が起きないほど、このデパートには目を奪われるものが多かったのだ。この分だと、二人に言い訳だと抗議されても平気だろう。
「――とりあえず、見たいものは見れました?大丈夫ならそろそろ戻りましょうか。カービィさんたちは3階より上を見てくれてるみたいなので、更に上に行く、というのも一つですが――入れ違いにならないように、1階で待っておくのもいいですよ」
それもそうか、と納得させられる。ワドルディたちの方も戻ることに決めたのか、楽しそうな笑い声を響かせて、元の道を引き返していく。俺も先の道へ背を向けて進み始め――少しして足を止めた。
(この店に置いてある物…俺やあいつはともかく、カービィたちのサイズにしては大きすぎる。それに――)
ところどころにあった広告に映っていた、モデルらしき人物。その姿は、仲間のひとりと――あいつに似ていた。関係がないとは考えにくい。そう、思いたくはなかったのだが…
(…まさか、な)
思考を早々に切りあげて、二人に置いていかれる前に道を駆けだした。
リボンは、悩んでいた。
理由は至極単純である。目の前の二人が、どういう関係なのか分からないからだ。あるときは背中にカービィを乗せ協力し、またあるときは何でもないようなことで張り合い、よくけんかする。そして、いつの間にか互いに寄り添って眠っていたり、一緒にバカをやっていたりするのだ。
(本当に、分からない)
この関係性はいったい何なのか。何と呼ぶべきなのか。リップルスターの妖精たちはみんな仲良しで、けんかも滅多にしなかったから、余計に。
今も、雪原を滑り降りることになって、どうしてかけんかになった。どうやらカービィが、大王様にソリの代わりになってくれ、と頼んだらしい。まったく意味が分からない。これが男子のノリ、とやらなのか…?
(うう…男の人と交流するの初めてだし、余計に…)
唯一のまとも(と言えそう)な男子はワドルディだけだったが、その彼は今ここにはいない。もう一人頼れるひとはいるにはいるのだが、その人もそっち側にいるから、しばらくはこの二人に挟まれっぱなしになるだろう。
「滑っていったほうが速いんだしいいじゃん!デデデは雪得意でしょ!」
「ハラマキしてるとはいえ流石に冷えるわ!滑るほうが速いのは認めるがよ…って誰がペンギンだコラ!」
(ああ、だめだ…)
加熱していく言い争いを止めるのもできなくて、わたしは二人とわたし自身に呆れてしまった。
…前に一度だけ、二人に尋ねたことがある。お互い、どんな関係なんですか、と。今思えば、それは当たり障りのない、普通の問いだった。あの時、彼らはなんて答えたっけ。
(――ライバル…って、言ってたような気がする)
その答えを出したのは大王様だった。カービィに何かと張り合って、競い合ってて…それに、大王様が憑依されたとき、カービィは、他の二人のときよりも激しく怒っていた。たぶんそれは、大王様の持っている誇りだとか、プライドとかの問題かもしれない。
(カービィさんは確か…ともだち、だったっけ)
いかにも彼らしい答えだった。本当に、道を行くたびに誰かの呼び止める声が、何度も聞こえてくるくらい。それくらい、誰とでも友達になってしまえるような人だから、大王様のことを“ともだち”だと思っていてもおかしくはないだろう。
(――じゃあ、わたしも…その“ともだち”の中にいる、のかな…)
ふと思う。カービィさんと大王様のことを考えていたはずなのに。…どくん、と心臓が跳ねた。
(この感情…もしかして…)
分からない。本当に、なにも。
二人の関係性も、わたしの思いも、まったく。
がしゃん、がしゃん…
あちこちからは鉄の響く音。薄暗く、冷え切った空気。自分をおんぶするあいつが敷かれたコンベアを逆走しながら、目の前のシャッターを壊していく。
「…っと、よし…」
「あ、もう終わり?」
背中の辺りをがっしりと掴まれ、乱雑に降ろされる。途中でストーンニードルのドリルを手放してスパークカッターに代えたせいで力不足に陥ったぼくの代わりに、彼がこうして道を塞ぐシャッターを壊していたのだ。最初はそれぞれが走っていたけど、ぼくが潰されかけたあとは、さっきまでのようにおんぶされていた、というわけだ。
「うし…次のエリアは…うお、またコンベアかよ…しかも何なんだこれ…奥の方、なんかあるぞ…? 」
促されるようにして目線を動かすと、そこには大きな容器が鎮座していた。しかも一つや二つではない。もっと多い数ほどある。緑に近い色の液が満ちていて、中に何かの生物が浮かんでいる。たしか、培養液、とかいったものだったはず。昔どこかの星で聞いたことのある言葉だ。
「気味が悪ぃ…クリスタルもなさそうだし、こんなとこはさっさと抜けるぞ」
彼の声に従って、コンベアを逆走していく。こんなに冷たい工場から、一刻も早く抜け出さねば、と。その一心で走り続ける。時折、上から電気仕掛けの敵が襲ってきたりもしたけれど、それは大した足止めにも満たない。
ようやくコンベア地帯を抜けた、と思えば、今度はさっきまでとは真逆の温度がその部屋を満たしていた。両側の壁に空いた穴からは、大量の溶岩が湧き出ている。鉄製品を作る工場には、だいたいの確率で存在する、溶鉱炉だろう。さほど狭くない部屋だったが、上に意味深に吊り下げられている鳥籠のような容器が気になる。しかも、下の階層には鉄の足場が浮かんでいる。見るからに熱そうな場所にあるが、この物の配置は、今まで巡ってきた星でも見た仕掛け。恐らく、ここには――
「クワアァァァァ!!」
この部屋の番人らしきデカバーニスが、溶岩の海から飛び出してくる。その羽ばたきで、熱風がこちらまで押し寄せてきた。本当なら、あまりの熱さに、今すぐにでも部屋から逃げ出したい気分だ。しかしぼくらはそれをこらえる。そして意を決すると――
「いっくよー!」
「おう!さっさとコイツ倒すぞ!」
下の足場へと飛び降りていく。予想外の行動だったのか、デカバーニスは驚いて固まっている。その隙をついて、ぼくはスパークカッターのレーザーソードで、あいつは自慢のハンマーの一撃で。
「「クリスタル…返せやぁぁぁぁぁ!!!」」
またあとで、と分かれた道を先に進むこと、はや十数分。黒い雲が空を占拠する光景は、どこまでも続いている。さらに先に見える妖精たちのお城も、闇に染められていて、あそこのひとたちは、とぞくっとした。
「――そういえばさー、」
自然になっていた重苦しいムードの中、そう声を出したのはカービィさんだった。しかしその言葉の続きが語られる前に、あ、クリスタル。…という呟きが聞こえた。
「あれ以来だよね。このメンバーでいるの…――夢の泉から、悪夢が生まれた事件のとき」
最後尾を歩いていた大王様と同じタイミングで、はっとした。泉から生まれた悪夢を見事討伐したあと。夜明けの空から地上に降りた二人を出迎えて、そのまま三人で城へ戻っていったことがある。しかしそんな昔のことを、よく覚えているものだ。オイラにとっては、他愛もない風景の一つでしかなかったのに。
「あー…あれか。お前が早とちりしたせいで、事態が余計に悪化したやつか」
「夢が見られなくなったなら、誰だって不安にはなるでしょ?…てか、前科あるキミのことだから、また馬鹿なことやったのかと思って…」
うるせー、と大王様がぼやく。本当に、この二人は仲が良い。まるで昔から友達だったかのようだ。決してそれ以上にまでは至らない関係でも、不思議と、ちょうどいいと感じている。ライバルだけど、友達。彼らにとっても、そしてオイラにとっても、それでいいのだ。
「…そういえば、ふと思ったんスけど…」
前の二人の視線が、こちらに集まる。強者二人に見つめられては、知り合いとはいえ流石に緊張してしまう。
「…こういう星には、夢の泉ってないっスよね。そういうところだと、いい夢って見られるんでしょうか」
どうやら、面倒な問いをしてしまったらしい。二人は苦い顔をして、顔を見合わせた。
「あー…ぼく、夢に良いも悪いも思わないから…」
「俺も…最近は夢の泉の力があっても、悪夢しか見てないしよ…ちょっと分かんねぇわ」
おおざっぱでよく考えることのないカービィさんと、最近トラウマ続きの大王様らしい返答だった。もちろんオイラにも答えの分からない問題だから、結論にたどり着くのは難しそうだ。
「でも…もし、みんな無事だったとしても…今、妖精さんが良い夢を見れてるとは思わないかな」
その通りだ、と言う代わりに、強くうなずいた。きっと今は、怖い思いをしているはずだ。だからすぐ、助けに行こう。
泉がなくても、幸せな光景が見られるように。