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ゴーレムの脚を破壊した楽だったが、周囲の砂が集まり、瞬時にして元に戻ってしまった。
「隊長! コイツ、砂だから打撃は通るぜ!」
「あ、あぁ……」
楽の成長に、少し戸惑いを見せる睦月。
しかし、神官サンドリームは、怒りからか即座に楽の首を掴み、そのまま握り締めた。
「クソッ……! 離せねぇ……!」
「楽!! 歩、助ける道はないか!!」
ずっとゴーレムを見続けている止水だが、表情は暗いままだった。
「ダメです……隊長の貫通じゃ……」
「新道くん!! これじゃあ死んでしまう! 助けに……」
その時だった。
バコン!!
睦月の声掛けよりも先に、ゴーレムは跡形も無く消し飛んでしまった。
「何が起きて……!?」
慌てる睦月だが、咄嗟に楽の安全を確認した。
新道から笑みは消えており、怖い顔を浮かべていた。
「終わりだ、新道」
そして、砂煙の中から声が発せられた。
睦月はその声に、咄嗟に振り向く。
「貴方は……白兎隊長……!!」
砂煙の中から現れたのは、鳥取支部隊長、白兎だった。
「これは一体……どういうことですか……?」
「お久しぶりです、睦月副隊長。新道の話した通り、これは試験で間違いありません。浮田はまだ正式な隊員ではなかったのです」
「それにしても……やり過ぎではないですか……? いきなり神官を差し向けるなんて……」
すると、サンドリームはヒョコヒョコと歩いて来た。
「彼は、確かに神官ですが、既に我々鳥取支部が数年前に倒し、その後は雇用している人間なんです。当然、当時の神の力は使えない。私が神の力を貸しているのです」
サンドリームは、口は開かずに「ごめんね」と、浮田と睦月に手を合わせていた。
「色々聞きたい事はありますが、我々の任務は神官を倒し、最後に大神官 “愚者” を倒す事と聞いてやって来ました。それが、神官は倒されている……なんて、聞いていません……」
すると、更に砂中から、一人の男が現れ、新道も続いて、白兎の横に並んだ。
「睦月隊長、この三人が、唯一の生き残りです」
その言葉に、睦月は目を丸くする。
関西圏は、寺院が多く、祓魔師になれる人材の多い地方で有名で、関東に比べて支部も人手も多い。
そんな鳥取支部の人員が、三人にまで減少しているのは、異例の事態だったのだ。
「もう、言わなくても分かるでしょう。我々、鳥取支部は、神官サンドリームから大神官 “愚者” と接触した。総動員しても勝てず、この三人が生き残ったんです」
睦月は、苦い顔を浮かべる。
もう、白兎の言いたいことも、あんなに演技をしてまで悪者に徹していた新道の想いも、分かってしまった。
「もう、人死にを出したくはない。だから、むざむざと死んでしまうような人員は、不合格としている。その為、サンドリームには協力してもらっているのです」
「本来であれば、神官ほどの異能教徒は、即刻監獄入りとなる……。それを阻止し、雇用しているのは……」
「彼には、私の指示がない限り、異能を使えない誓約を誓わせたのです。神の力で。彼が私欲で異能を使えば、その時点でその首が飛ぶ……」
そして、白兎は砂丘を見遣った。
「サンドリームは、確かに異能教徒の神官として、日本に来た。しかし、彼はこの砂丘を愛してしまった。異能を使えなくなったとしても、この砂丘でガイドをしたい……と。それに、監獄に行かなければ、異能教徒も彼が倒されたことを知らない。その為、新たに神官が現れる心配もない、二重にメリットがあるのです」
睦月は、ただ黙って白兎を見つめた。
「お分かり頂けたようで、何よりです」
「それで……合否は……?」
「鳥取支部からは我々三人、隊長 白兎、副隊長 雨滝、そして、新道。浮田は、今回の任務には参加させませんが、ギリギリ合格です。止水くんの指揮がなくとも、あのような機転が回せることに期待して……」
鳥取支部は、既に、大神官 “愚者” と対峙している。
人死にを最大限に減らすこと、確実な成功の為に、この様に神官を使ってまで試験を行った。
そして、それを睦月たち神奈川支部に伝えていなかったのは、睦月たちも精査の対象だからである。
「神奈川支部からは、副隊長 睦月さん、そして、新人の楽くんを合格とします。止水くんの目は確かに強力ですが、一人で戦えないのは危険すぎる。今回の任務からは、残念ですが降ろした方がいいでしょう」
睦月は、止水と目を合わせた後、再び戻す。
「分かりました……。従いましょう……」
そうして、改めて睦月、楽、止水の三人は、異能祓魔院鳥取支部へと、足を踏み入れたのだった。
一方、京都支部では、今まさに神官との戦闘が行われていた。
「逸見さん! 捕らえました!!」
「了解……! 撃つぞ!!」
ドォン!!
逸見は、ビルの屋上から、対象をスナイパーで気絶させた。
「ふぅ……」
「お見事です! 逸見さん!」
「ああ……。にしても……やはり京都支部には毎度驚かされる……」
逸見と神崎の仕事は、神官を護衛する幹部たちを気絶させ捕縛させること。
つまりは、神官以外の露払いだった。
「まさか、神官一人とタイマンを張る為に、俺たち護衛部隊を呼び付けたとは……」
厳密には、一対一でのタイマンではない。
狐子の異能力『変幻』により、触れている対象を好きなものに具現化させることが出来る。
「先鋭しか居ないって……そう言うことか……」
そして、隊員の二人を武器に、一人を脚に装着し、稲荷の能力『強奪』と、神の力により、重装化した隊員たち全員の異能を使い、まさに合体キメラの様な戦い方で、攻守共に化け物のような戦い方をしていた。
「いーーーつみぃぃぃ!!!」
キィィン! と、逸見のヘッドホンに無線が届く。
「はい、逸見です……。稲荷隊長ですか……?」
「おう! 俺たちの力で、 “神官” を “震撼” させて、ぶっ倒してやったぜ!!」
神官との戦闘後だと言うのに、相変わらずの笑えないダジャレに、逸見は震撼していた。
「逸見、並びに神崎、共に合格だ!」
「合格……?」
「ああ、関西の異能祓魔院の間で決めていたんだ。これから派遣に来る人材で、“愚者” と戦って死にそうな人間は作戦には入れない、とな!」
こちらに来て、何度も呆然とさせられていた二人は、その言葉を聞いても、あまり驚きはしなかった。
「慣れって恐ろしいですね……」
最後に、青褪めた顔で神崎は逸見に伝えた。
一方、和歌山県美浜町。
海の見える三尾海岸に、八幡玉露は立っていた。
「ゆ、許してくれ……なんでもするから……!」
八幡の前で、無傷で足腰が立たずに震えている青年は、神官の一人だった。
「ふふ、私は痛いことなんてしませんよ」
「も、もうやめてくれ……! 早く禁錮にでもなんにでも入れてくれぇー!!」
そのまま、神官は気絶した。
「さて、 “愚者” さん……。久しぶりですね。そろそろ、貴方の様な害虫は駆除しなければならない様です……」
そして、一人海岸沿いを後にした。
”愚者” 討伐任務参加者は、以下の通りになる。
神奈川支部
隊長 八幡玉露 神の力無し
副隊長 睦月飛車角 異能『貫通』
隊員 逸見桂馬 異能『弾丸』
隊員 楽 異能『憑依・支配』
アルバイト 神崎杏 異能『透明化』
京都支部
隊長 稲荷浄狗 異能『強奪』 神の力有り
副隊長 伏見辰巳 異能『??』
隊員 嵐山悠雅 異能『??』
隊員 八坂剣城 異能『??』
隊員 狐子 異能『変幻』
鳥取支部
隊長 白兎桜華 異能『??』 神の力有り
副隊長 雨滝流泉 異能『??』
隊員 新道寛司 異能『振動』
以上、十三名により、四国、剣山にいる、大神官 “愚者” の討伐任務が開始される。