テラーノベル
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熱が出た。
ここのところ体調悪いなとは思っていたけど、どうやら無理をしていたみたい。
高い熱にうなされて、頭が朦朧とする。
やらなきゃいけない事、
考えなきゃいけない事は山程あるのに、
人間弱った時って、なんでこうなんだろう。
「…涼ちゃん。」
一番考えてはいけない事。
だいぶ昔に蓋をした気持ち。
その想いが急に溢れてくる。
「好き…だったな。」
嘘。
全然過去形なんかじゃない。
でも、そう言葉にしないと辛いから。
言霊に委ねてみる…
本当になるようにと願いを込めて。
数時間眠ったところで目が覚めた。
夢と現実の境目。
朧げな意識の中で、遠くでチャイムが鳴る音がした。
ダルい身体を起こし、インターフォンを覗くと、そこに涼ちゃんが。
涼ちゃん?なんで?
涼ちゃんが来るはずない。
感染ったら駄目だからってマネージャーからも止められているはずだし。
と言う事は…これは夢?
きっと眠る前に涼ちゃんの事を考えてたからだ。
夢の中でならいいよね…
そう思い、インターフォンの解錠ボタンを押し、玄関の鍵を開けに行った。
また、目を覚ました。
ベッドできちんと布団を掛けて横になっている。
相変わらず意識は朧げで、ぼーと天井を見つめる。
ああ、やっぱりさっきのは夢だったんだ。
神様のケチ。
どうせ夢ならモニター越しじゃなくて、直接会いたかったのに。
そんな事を考えていたら、ガチャッと寝室のドアが開く音がした。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
なんだ、まだ夢の中だったんだ。
…ケチなんて言ってごめんなさい。
涼ちゃんに会わせてくれてありがとう神様。
ボヤけた目で涼ちゃんを見上げていると、いつもの優しい笑顔でにこっと笑った。
「体調どう?お粥…て言ってもレトルトで、温めたんだけど食べれそう?」
そう言って、持ってたお盆をベッドのサイドテーブルに置いて、ベッドに腰掛ける。
本当はお腹空いてないけど、小さく頷く。
だって、これはぼくの夢だから。
少しは願望を叶えてくれるかと思って。
「よかったぁ。じゃあ、少し身体起こそうか。」
そう言うと、涼ちゃんはベッドに置いてある何個かの枕を寄せ集めて、身体を起こすのを手伝ってくれた。
そして準備が整うと、サイドテーブルに置いてあったお粥が入った器を持って、スプーンで一口分掬い、ふーふーしてからぼくの口元に運んでくれた。
「はい、あーん。」
夢…みたい。
て、夢…なんだけど。
「熱くない?大丈夫?」
「…だいじょ…ぶ。」
夢…ならいいかな。
いいよね…
だって、これはぼくの夢…なんだから。
「りょ、ちゃん… 」
「ん?」
「りょぅちゃん、好き。」
涙が溢れる。
だって一生、口に出す事は叶わないと思っていた気持ちだから。
…夢だもん、いいよね。
でも、夢なのに怖くて涼ちゃんの顔は見れない。
夢だとしても、やっぱり傷つくのは辛いから。
「好きに…なっちゃって…ごめんね。」
沈黙が怖くて言葉を続ける。
これも、ずっと…ずっと思ってた気持ち。
ポロポロと流れる涙が布団を濡らしていく。
「っ、ちが…謝らないでっ。」
また、少しの沈黙の後、涼ちゃんが口を開いた。
声が震えていた。
驚いて顔を上げると、涼ちゃんの目からも涙がポロポロ溢れていた。
「はぇ?なんで、涼ちゃんが泣いてるの?」
「ぅぅ…だって。」
「…?」
「僕も…元貴の事、好きだからぁ。」
ははっ。
なんて自分に都合のいい夢なんだ。
「んっ…。」
何時間寝たんだろう。
熱が下がったのが、頭がハッキリしている。
長い夢を見てた。
自分に都合の良いことばかりの夢。
すごく幸せだった。
「んん…おはよ。」
え?
「へへ。いつの間にか僕も寝ちゃってた。」
なんで涼ちゃんがここに居るの?
「元貴、大丈夫?」
なにも言わずに、呆然とするぼくの顔を涼ちゃんが覗き込む。
眼鏡がなくてもしっかり顔が見える距離。
涼ちゃん、目が腫れてる。
「元貴、目腫れちゃったね。」
「…涼ちゃんも。」
うそ!恥ずかしい〜て言って離れようとする涼ちゃんの服をぐいっと掴んで引き寄せる。
「好きだよ、元貴。」
「ぼくも、好き。」
「あ〜また泣いたらもっと目腫れちゃうよ?」
「っ、涼ちゃんこそ。」
お互いまたひとしきり泣いて、泣いて、泣いて。
それから小さなキスをした。
「ふふっ。塩っぱいね。」
「ね。」
幸せだね。
-fin-
コメント
2件
甘すぎて好きすぎる。