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「ゆうま、おそとであそびたい!」
ある日、暇を持て余した悠真は家事に追われている真彩に外で遊びたいと駄々をこねる。
「うーん、ママお仕事中だから、今は無理だなぁ。終わるまでお部屋で良い子にしててくれるかな?」
「いや!」
「それじゃあ、金井さん、申し訳ないんですけど……」
「ママがいい!」
いつもならば朔太郎が一緒なのだが、今日はどうしても出掛けなくてはならない用事があり、組員の一人、金井 真琴が悠真の面倒をみていたのだけど、互いに慣れていない事もあって上手くいかないようで悠真は懐けず真彩にベッタリ状態。
「すみません、真彩さん。悠真くん、俺じゃ気に入らないみたいで……」
「いえ、こちらこそすみません。この子ちょっと人見知りするから我がままばかりで……」
真琴は三十歳と真彩よりも少し年上で、心優しく大人しい性格なのだが子供は苦手なようで、面倒を見ると言っても一緒に遊んだりはせず、近くで様子を見ているだけ。普段一緒になって遊んでくれたり、言わなくてもやりたい事、欲しい物をくれる朔太郎と無意識のうちに比べてしまっている悠真は真琴では物足りずに懐かないのだと真彩には分かっていた。
真琴と真彩の間に気まずい空気が流れる中、悠真は玄関の方へ向かって歩いて行く。
「ちょっと悠真、何処に行くの?」
「おそとでる!」
「悠真一人じゃ出れないよ?」
「ママも!」
「あのね、ママはお仕事が終わらないと駄目なの。我がまま言わないで良い子にしてなさい」
「いーや! おそといく!」
こうなると意地でも引かない事を分かっている真彩は余裕があれば多少相手をする事もあるが、今日はいつも以上にやる事が多くて相手をしている余裕がない。
「もう悠真! 我がままばっかり言ってるとママ怒るよ?」
余裕がない事もあって、いつになく強い口調で叱ってしまった真彩。怒られたと分かった悠真は徐々に泣きそうな表情を浮かべていく。
「あ、ごめん、ちょっと言い過ぎちゃったね……」
「うっ……ひっく……ママのバカ! きらい!」
悲しむというより不貞腐れてしまった悠真は涙を流しながら『バカ』『嫌い』という言葉を残して部屋に戻ってしまう。
「真彩さん、お騒がせしてすみませんでした。引き続き見てますので」
「いえ、こちらこそ本当にすみません。よろしくお願いします」
真琴は軽く頭を下げると悠真と真彩の部屋へ戻って行き、
「……はぁ……」
それを見送った真彩は小さく溜め息を吐く。悠真を怒ってしまった事を後悔しつつも業務に取り掛からなければならない真彩はさっさと仕事を片付けて、おやつに好物でも作ってご機嫌を取ろうと作業を再開した。
けれど、今日の悠真は虫の居所が悪いのか何をしても全く機嫌を直してはくれず、大好物のホットケーキを作っても不貞腐れたままで、朔太郎が予定より早めに帰宅すると彼に付いて離れない。
「悠真、いい加減にしなさいよ? 朔太郎くんは帰って来たばかりで疲れてるのよ?」
「いや! さくとおそといく!」
「姉さん、俺なら平気ッスから。公園に連れて行きましょうよ」
「でも……」
「少しでも出れれば満足すると思いますし」
「……ごめんね、本当に」
結局朔太郎の提案で悠真を近くの公園に連れて行く事になり、公園に着いた悠真の機嫌はすっかり良くなった。
「姉さん、どうぞ」
「ありがとう、朔太郎くん」
住宅街にある少し大きな児童公園の砂場で砂遊びをする悠真からも近くにあるベンチに腰を下ろした真彩と朔太郎。
側の自動販売機でホットのミルクティーを買っていた朔太郎は真彩に手渡した。
日中はそこそこ暖かさがあるものの十月も半ばに差し掛かった今、陽が落ちてくると気温は一気に下がって身体が冷えるので、ただ座っているだけの二人にはホットの飲み物が身体を温めてくれる必需品。
「悠真、今日はいつになく機嫌悪かったッスね」
「やっぱり、朔太郎くんが居ないと駄目みたい」
「あはは、まぁ俺的にはそう言って貰えると嬉しいッスけどね。やっぱり真琴くんじゃ駄目だったかぁ」
「金井さんも良くやってくれてるんだけど、悠真は一緒に遊んでくれないと不満みたいで」
「ああ、まぁ真琴くんはそういうの苦手ッスからね。悠真は肩車とかすると特に喜ぶんスよ」
「そうそう、肩車は私じゃちょっと無理だからね」
「そうッスよね。そう言えば……悠真の父親って、もう亡くなってるんでしたっけ?」
「え? あ、うん……」
「それじゃあ余計、肩車とか憧れますよね。実は俺も父親いないんスよ」
「そうなの?」
「まぁ俺んとこは父親がろくでもない奴で母親が見捨てたってだけッスけどね」
悠真の父親の事を聞かれた真彩は一瞬焦りを見せた。それに気付いていた朔太郎は自分の話をしつつ少し迷った後、
「……聞いちゃマズい事なら答えなくていいんスけど、悠真の父親と何かあったんスか?」
遠慮がちに悠真の父親について尋ねる朔太郎。
「……朔太郎くんになら、話してもいいかな。実はね、悠真の父親は――生きてるの」
真彩はポツリポツリと悠真の父親について話し始めた。